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疑い病と侮られた僕だけが嘘を見抜き、村を救って成り上がる  作者: pekomaro


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「疑うな」の逆を語る寓話が、村に運ばれてきた

祝詞の一件から数日後、村に、これまで見たことのない客が訪れた。旅芸人の一団だという。


広場に簡単な舞台がしつらえられ、笛と太鼓の音に合わせて女の踊り手が舞い、その傍らで年配の男が古い物語を語って聞かせる。村人たちは、久しぶりの娯楽にすっかり浮き立っていた。


「今日はもう村中お祭りみたいだな」


カイルが、はしゃぐ子供たちを眺めながら言った。


「うん。こういう賑わい、久しぶりだね」


リゼも、隣で嬉しそうに舞台を見つめていた。


「こんなに大勢の人が来てくれるの、久しぶり。踊りも、歌も、村じゃ見たことないものばかり」


「行商人の一団とは、また違う雰囲気だね」


「うん。行商人は品物を売りにくるけど、こっちは物語を運んでくるみたい」


僕もその場の雰囲気に、しばらく身を委ねていた。それでも、演目のひとつが始まったとき、僕の中で何かが小さく引っかかった。


語り手の男が語る寓話は、ある村の若者が誰も疑わない「当たり前」に疑問を持ち、村を追われながらも最後には真実を知り、村を救うという筋書きだった。踊り手の女が若者の孤独を演じる場面では、笛の音が一段低く、静かな旋律に変わった。


「――疑うことを恐れるな。目を閉じたままでは、迫る影に気づけぬ」


語りの最後、そう締める一節が僕の耳にはっきりと残った。


(この村では「疑うこと」は不敬とされている。なのに、この寓話はまるで正反対のことを称えるように語っている。これは、いったいどこから来た話なんだろう)


演目が終わったあと、僕は語り手の男に近づいた。


「さっきの話、初めて聞きました。この谷の話ですか」


男は少し驚いた顔をしたが、すぐに旅慣れた笑みを浮かべた。


「いや、これはもっと古い、遠い土地の話だよ。師匠から受け継いだ、いくつかの物語のひとつでね」


「疑うことを恐れるなっていう一節。この村じゃ、あんまり聞かない考え方だと思って」


男の表情が、わずかに硬くなった。


「……坊主、耳がいいな。まあ、そのくだりは確かにこの谷じゃ、あまり歓迎されない話ではあるな」


「なぜこんな話が遠い土地から伝わってきたんですか」


「さあな。物語というのは、人が旅をするたびにあちこちを渡り歩くものだ。俺たちは、それを語り継いでいるだけさ」


「その物語、もともとはどこから来たんですか」


男はしばらく黙り込んだ。舞台の片付けをしていた仲間たちが、その様子に気づいたのか、こちらを見ている。踊り手の女も、笛を抱えたまま少し離れたところで、こちらの様子を窺っていた。


「――もう、あまり詳しくは聞けない場所からだよ」


「聞けない、って」


「そのくらいにしとけ、坊主」


男の口調が、急に低くなった。


背筋に、冷たいものが伝った。


(この人は、はっきりと知ってる。この寓話が、どこから来たものなのか。それを、あえて言わないようにしてる)


そのとき、太鼓を担いだもう一人の年配の男――一団の頭らしい人物が、こちらへ足早にやってきた。


「おい、客人相手に、いつまで話し込んでるんだ。次の準備があるだろう」


「――ああ、すぐ行く」


語り手の男は、そう答えて僅かに僕へ視線を戻した。


「悪いが、これ以上は話せない。俺も、拾い物の話を勝手に広げるわけにはいかないんだ」


「拾い物、ですか」


「そういうことにしておいてくれ」


男が屈み込んで荷物を肩に担ぎ直したとき、腕に巻いた革帯の一部が、一瞬だけ日に光った。


編み込まれた革帯に、規則的な線がいくつも並んでいる。裏山の古木に巻きついていた、あの金属の帯の刻印と、同じ間隔だった。


「その帯、前にも似た模様を見たことがあります」


男の手が、一瞬止まった。それだけだった。何も答えず、男はすぐに荷を背負い直し、頭に促されるまま舞台の裏へ足を進めた。だが、その一瞬の止まり方だけで、僕には十分だった。あの模様は、ただの飾りじゃない。


僕の傍を通り過ぎる寸前、彼はほんの一瞬だけ足を止め、誰にも聞かれないような小さな声で、僕にだけ聞こえるように呟いた。


「――その話は、もう誰も語らせてくれない場所から来たんだよ、坊主」


そう言い残すと、彼はもう振り返らず、仲間たちの輪の中へ戻っていった。


僕はしばらくその場に立ち尽くしていた。


(誰も語らせてくれない場所。それは、どこのことだ。境の外なのか。それとも、もっと別の場所なのか)


その場を離れ、リゼのところへ戻ると、彼女は僕の顔を見てすぐに何かあったと気づいたらしかった。


「どうしたの? 顔色、あんまりよくないよ」


「うん。あの語り手の人、最後に、変なことを言ってた」


「変なこと?」


「その話は、もう誰も語らせてくれない場所から来た、って」


リゼは、しばらく黙って遠くの舞台の裏を見つめていた。


「それって、境の外のこと、なのかな」


「分からない。でも、境の外じゃないなら、いったいどこなんだろうって考えてしまう」


リゼは小さく息を吐いて、僕の隣に立った。


「わたしも、少しずつ怖くなってきた。でも……知りたい気持ちの方が、もう少し大きい気がする」


その一言に、僕は思わずリゼの顔を見た。以前の彼女なら、きっとそこで話を切り上げていたはずだった。


夜、賑わいの残る広場を抜けて家に戻る道で、僕はさっきの男の声を、頭の中で繰り返していた。もう誰も語らせてくれない場所。その一言だけが、灯りの消えた道の先まで、ずっとついてきた。


裏山の帯に刻まれた消えかけの印。見張り小屋に残った、新しい足跡。老婆が漏らした調律士の名前。そして今夜、旅芸人の革帯に光った同じ間隔の線。並べてみると、一つだけはっきりすることがあった。あの男は「拾い物」だと言った。自分で作ったものでも、遠い昔に受け継いだだけのものでもなく、どこかで見つけて、持ち帰った、と。


(拾い物なら、それを最初に作った誰かが、まだどこかにいる。廃れた遺跡でも、古い伝説の中でもない。旅芸人が実際に足を運べる場所に、今も誰かがいて、今も何かを配り続けている――そう考える方が、筋が通る)


一つひとつは、村の中で見つけた小さなものばかりだった。だが、今夜、旅芸人が持ち込んだ物語だけは村の外――もっと遠い、名前も知らない場所から来たものだった。境の柵の内側だけで積み重ねてきた違和感が、初めて外の世界の断片と重なり、輪郭を持った。


誰かが今も、生きて、これを運び続けている。そこは境の外なのか、それとも、もっと近くにあるのか――まだ分からない。それでも、僕はその答えを、ただ待つのではなく、探しにいけると気づいた。

ここまで25話、長くお付き合いいただき、ありがとうございます。この先も気になる方は、ぜひブックマークで見届けていただけると嬉しいです。

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