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疑い病と侮られた僕だけが嘘を見抜き、村を救って成り上がる  作者: pekomaro


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何十年も音の変わらない鐘を、確かめに上った

広場の鐘が、昼を告げて鳴った。いつもと変わらない、よく知った音だった。


「相変わらず、いい音だなあ」


隣で腰を伸ばしていた老人が、感心したように呟いた。


「あの鐘、俺が子供の頃からずっとあの音だ。何十年も変わらない。星の恵みってのは、こういうところにも表れるんだろうな」


僕は曖昧(あいまい)に頷いたが、内心では引っかかるものがあった。


(何十年も同じ音? 鐘なんて、使い続ければ金属が擦れて、音程だって少しずつ変わっていくはずだ。手入れもしてないのに、まったく同じ音のままなんてありえない)


誰もそのことに疑問を持たない。老人は満足そうに、また杖をついて歩いていった。


喉の奥が、ちりっと熱を持った。


裏山で見つけた石は、まだ答えの出ないまま、部屋の引き出しの奥にしまい込んだままだった。答えが出ないなら出ないで、今はそれくらいの距離に置いておくしかない。


その日の午後、カイルと広場で顔を合わせたとき、僕はそのことを口にしてみた。


「なあ、あの鐘の音、変わらないと思わないか」


「変わらない方がいいだろ。毎年同じ音だからこそ、みんな安心するんだ」


「でも、金属なんて普通は擦れて劣化するものだろ。全然傷んでる感じがしない」


「そんなこと、考えても仕方ないだろ。鳴ってりゃそれでいいじゃないか」


カイルはあっさりとそう言って、また自衛団の話に戻っていった。彼にとっては、鐘が同じ音で鳴り続けることは、疑うべきことではなく、ただ喜ぶべきことだった。


その素直さが、時々、僕にはひどく不気味に思えることがある。


その日の夕方、井戸端でリゼと会った。


「ノア、なんか今日、ぼーっとしてる。何か気になることでもあった?」


「鐘の音、変わらないなって。それだけ」


「鐘の音? そんなの、いつも同じでしょ」


「それが、おかしいんじゃないかって思って」


リゼは少し困ったような顔をした。


「わたしには、よく分からないけど……。ノアがそう言うなら、何か理由があるんだろうね」


彼女は笑いながらそう言って、それ以上は追及してこなかった。カイルなら「考えても仕方ない」と一言で切り捨てるところを、リゼは切り捨てずに、ただ僕の言葉をそのまま受け取ってくれる。その違いが、いつも僕を少しだけ楽にしてくれた。


昼の仕事が終わったあと、僕は誰にも言わずに、鐘楼へ向かった。


鐘楼は、村でも一番古い建物のひとつで、普段は管理をしている老人以外、あまり人が近づかない場所だった。


木の階段を上ると、埃っぽい匂いが鼻を突いた。踊り場の窓から、鐘そのものが見える。


近くで見ると、鐘の表面には、思っていたよりもずっと細かい傷がついていた。それでも、その傷の入り方が、あまりに規則正しいことに気づいた。


同じ深さ、同じ幅の線が、鐘の内側にぐるりと並んでいる。まるで、誰かが定期的に、決まった道具で同じ場所を打ち続けてきたかのような跡だった。


背筋がすっと強張った。


(これは、経年劣化の傷じゃない。誰かが、わざと同じ場所に、同じ強さで、同じ道具を当ててきた跡だ)


僕はさらに鐘の裏側に回り込んで、内壁を確かめようとした。


そのとき、階段を上ってくる足音が響いた。


「――誰だ、そこにいるのは」


低く、鋭い声だった。鐘楼の管理を任されている老人が、僕を見つけて、目を細めていた。


「ノアか。お前、勝手にこんなところまで上がってきて、何をしてるんだ」


「鐘の音が気になって、見に来ただけです。この傷、なんだか妙な形をしていて」


「傷? そんなもの、お前が気にすることじゃない」


老人の声には、明らかな苛立ちが混じっていた。


「昔からそうなんだ。誰にも触らせない決まりだ。分かったら、さっさと下りろ」


「決まりって、誰が決めたんですか」


「そんなこと、俺が知るわけないだろう。ただ、そう教わってきただけだ」


そう言いながらも、老人の視線は、一瞬だけ鐘の裏側――僕がさっきまで見ていた場所に動いた。すぐに、僕から目を逸らすように視線を戻す。


「二度と、勝手に上がってくるな。分かったな」


有無を言わせない口調だった。老人はそう言い切ると、僕の返事を待たずに背を向け、鐘の裏側に立って、僕の視線を遮るように立ち位置を変えた。まるで、これ以上見せたくないものを、体で覆い隠しているようだった。


僕は仕方なく、階段を下り始めた。


途中で振り返ると、老人はまだ、鐘の裏側の方をじっと見つめていた。まるで、僕がそこに何かを見つけてしまったことに、心底困っているような表情だった。


「――なんですか、あの反応」


外に出てから、僕は思わず声に出して呟いた。


そのとき、広場の反対側で、鐘楼の方をちらちらと窺っている男の姿が目に入った。名主一族の使いで、村をよく回っている顔だけ知っている男だった。男は僕の視線に気づくと、はっとしたように顔を背け、何事もなかったふうを装って足早に去っていった。


(あの人も鐘楼を気にしてたのか……)


普段なら、村の年寄りは僕の質問を「疑い病の子がまた変なことを」と笑って済ませるだけだった。今日の老人の反応は、それとは明らかに違っていた。あれは、困惑や苛立ちだけじゃない。何かを守ろうとする、必死さのようなものが混じっていた。


夕暮れの道を歩きながら、僕はさっき見た刻み目のことを頭の中で何度も思い返した。あの規則正しい傷は、誰かが意図して打ち続けたものだ。だとすれば、それを打っていたのは誰で、何のためだったのか。


答えはまだ遠かった。


家に戻る途中、鐘楼の方角から、また昼と同じ、変わらない音が響いた。


その音を聞くたびに、これまでは単なる村の風景としか思っていなかった。今はもうそんなふうには聞けなくなっている。


あの老人は、いったい誰に、何を教わって、あの決まりを守っているんだろう。


裏山で見つけた石も、井戸の底の光も、聖具の紋様も――どれも、誰かが意図して作り、意図して隠してきたものだった。今日の鐘の刻み目も、同じ手触りをしている。この村には、僕が知らないところで積み重ねられてきた「決まり」が、まだいくつも眠っている。


守ろうとするものが何なのか、僕にはまだ分からない。それでも、さっきの男の顔を思い出すたびに、ひとつの考えが消えなかった――見張られているのは僕だけじゃないのかもしれない。

お読みいただき、ありがとうございます。今回は少し地味な回でした。

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