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ゴールデンレトリバーは、来年の夢を見るか


挿絵(By みてみん)

食べ終えた皿を二人でキッチンへ運ぶ。

 洗い物を済ませると、今度は熟した梅を流し台へ広げた。

「今日は熟した梅だけ漬けましょう」

「はい」

 ボウルいっぱいの梅を水で洗う。

「今日は力仕事もありますから、無理はしないでくださいね」

「はい!」

 子犬がお座りをして、「任せてください」と尻尾を振っているような返事だった。

 まりはキッチンペーパーで梅を一つずつ丁寧に拭き始める。

「凹んでいるところも、水気をしっかり拭いてくださいね」

「分かりました」

 ノクティスも見よう見まねで梅を拭いていく。

 まりは爪楊枝を一本取り出した。

「次はヘタを取ります」

 先端で軽くつつく。

 つん。

 ぽろり。

「こんなに簡単に取れるんですか」

「力はいりません」

 ノクティスも挑戦する。

 つん。

 ぽろり。

「これは面白いですね」

 気が付けば夢中になっていた。

 二人は黙々と梅のヘタを取り続ける。

 やがて、大きなガラス瓶が五本並んだ。

「十キロくらいありそうですね」

「二キロずつ五本作ります」

 まりは消毒した瓶を並べる。

「こちらは黒糖とブランデーを三本」

「こちらは氷砂糖とホワイトリカーを二本です」

「たくさん作るんですね」

「ほとんどは大樹のお友達に配ります」

「梅干しと梅酒がないと生きていけないそうです」

 ノクティスは思わず口元を緩めた。

 二人で梅を漬け終える。

 重い瓶を地下室へ運ぶのはノクティスの仕事だった。

 地下室には梅酒の瓶や保存食が整然と並んでいる。

 棚には瓶詰めや乾物。

 奥には大きなワインセラーもあった。

「すごいですね」

「生ハムまでありますよ」

「日持ちするものだけですよ」

 地下室から戻ると、まりは瓶に付箋を貼っていく。

「ティス、この付箋を貼った瓶だけ上へ持って上がってもらえますか?」

「分かりました」

 ノクティスは一本ずつ慎重に抱え、階段を上っていく。

「全部で十本ですね」

「重たいので気を付けてくださいね」

「はい!」

 子犬がお座りをして、「任せてください」と尻尾を振っているような返事だった。

 リビングのテーブルへ並べられた十本の瓶を前に、まりはペンを走らせる。

 漬けた日付。

 内容量。

 梅干しは塩の量。

 梅酒は酒の種類と砂糖の種類、それぞれの分量。

 さらさらと十本分を書き終える。

 まりは二本ずつ保冷バッグへ入れていく。

 最後に残った二本は別の保冷バッグへ入れた。

「ティス」

「はい」

「このバッグはティスの分です」

 ノクティスは目を丸くする。

「僕のですか?」

「ええ。梅シロップと梅酒が入っています」

 一瞬きょとんとしたあと、ノクティスは満面の笑顔になった。

「現物支給ですね!」

 そう言って、大事そうに保冷バッグを抱きしめる。

 まりは少しだけ口元を緩めた。

「はい。現物支給です」

「ありがとうございます」

「では最後の一仕事です」

 まりはエプロンを外しながら言った。

「車にこの四つのバッグを積んでもらえますか?」

「任せてください!」

 再び子犬がお座りをしているような元気な返事だった。

 二人で車へ荷物を積み終える。

 まりは運転席のドアを開ける。

「二時間くらいで戻ります」

 そしてウッドデッキのソファーブランコへ目を向けた。

「少しお昼寝でもしていてください。疲れたでしょう?」

「いいんですか?」

 ノクティスの目がきらりと輝く。

 どうやら前から座ってみたかったらしい。

 あの子も、よくあそこで昼寝をしていた。

 きっと、お気に入りの場所になる。

 そう思いながら、まりは青い車をゆっくりと走らせた。


挿絵(By みてみん)

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