梅仕事と彼女の正体?
一回目の梅仕事。
今日もチェスに負けたティス。
いい勝負だった。
だが、最後はやっぱり負ける。
もしかすると、まりはわざと接戦にしているのかもしれない。
そんなことまで思えてしまうほど、今日も手のひらの上で転がされていた。
「お姫様。今日のお願い事は?」
少しおどけて尋ねる青年に、いつも無表情な姫は小さく首を傾げた。
「もうすぐ梅の収穫時期なので、お手伝いをお願いしてもいいですか?」
「もちろんです。今年は豊作なんですか?」
「ええ。今年はたくさん実りました。」
「梅シロップを作るんですか?」
「他にも、梅干しと梅酒ですね。」
「お酒にもなるんですね。」
「他にも、ユスラウメやグミでも作りますよ。」
「グミ?」
「お菓子の方ではありませんよ。」
「果物にグミがあるんですね。」
「庭には、あまり果物を植えてはいけないんですけどね。野生の動物が寄ってきますから。」
そこで少しだけ間を置き、まりは静かに続けた。
「でも、私が好きなので。」
そう言って席を立つと、裏庭へ案内してくれた。
裏庭には、小さな家庭菜園と、何本もの果樹が植えられている。
前の土地の持ち主が、「この木だけは残してほしい」と願い、それを条件に土地を譲ってくれたのだという。
一番大きな木は梅の木だった。
枝いっぱいに、青く実った梅が鈴なりになっていた。
「明日は午前中、出かけるので、お昼からでいいですか?」
まりがそう言うと、ティスはすぐにうなずいた。
「では、僕は朝から来て、収穫しておきますよ。」
「いいんですか?」
「お姫様のためですから。」
「ホットケーキのためですね。」
「……ばれましたか。」
ティスは照れくさそうに笑う。
まりは相変わらず無表情だった。
それでも、ほんの少しだけ機嫌が良さそうなのが分かる。
翌日は金曜日。
ティスは講義がない日だった。
研究室へ顔を出すつもりもない。
最近は研究室へ行っても、勉強をする気のない学生たちのおしゃべりばかりが聞こえてくる。
ティスが席に着けば、何かと話しかけられ、研究はすぐに中断してしまう。
苦笑いを浮かべてやり過ごすのが日本では無難だと分かっていても、足は自然と遠のいていた。
教授たちは学生が増えれば研究費も増えるため歓迎している。
それは理解できる。
だが、静かに研究へ没頭したいティスにとっては、少し居心地の悪い場所になっていた。
前の夜、ティスはネットで梅の収穫方法や手入れの仕方を調べていた。
ネットは便利だな。
そんなことを思いながら、子どものように明日を楽しみにしている自分が少しおかしかった。
翌朝。
思ったより早く目が覚めたので、そのまま家を出た。
庭に入る許可はもらっている。
それでも、まりがいるうちに挨拶をして、見送ってから作業を始めようと思った。
オープンテラスへ向かうと、ちょうど仕事へ出かける準備をしていたまりと鉢合わせになった。
まりは朝から来ていたティスを見て少し驚く。
ティスもまた、まりの姿に驚いた。
黒いビジネススーツ。
髪を後ろで一つにまとめ、胸元にはひまわりの弁護士バッジが光っている。
「早いですね。おはようございます。」
いつもどおり挨拶をするまり。
「おはようございます。」
挨拶を返したティスは、思わず口にした。
「まりさん、弁護士だったんですか?」
ストレートに聞いてしまうほど驚いていた。
まりは何事もないように答える。
「そうですよ。」
「……そうですか。」
それしか返しようがなかった。
「お昼前には帰ります。テラスの入り口は開いているので、喉が渇いたら冷蔵庫にアイスコーヒーが入っています。」
そう言って、まりはガーデンテーブルへちらりと目を向けた。
そこにはラップをかけたサンドイッチが置いてある。
「朝食、食べてませんよね?」
「食べてから作業をお願いします。」
「了解です。」
ティスは笑顔でうなずき、まりを見送った
思ったより早く目が覚めたので、そのまま家を出た。
庭に入る許可はもらっている。
それでも、まりがいるうちに挨拶をして、見送ってから作業を始めようと思った。
オープンテラスへ向かうと、仕事へ出かける支度をしていたまりと鉢合わせになった。
まりは朝から来ていたティスを見て少し驚く。
ティスもまた、まりの姿に少し驚いた。
黒いビジネススーツ。
髪を後ろで一つにまとめ、その胸元にはひまわりの弁護士バッジが光っていた。
「早いですね。おはようございます。」
いつもどおり挨拶をするまり。
「おはようございます。」
挨拶を返したティスは、思わず口にした。
「まりさん、弁護士だったんですか?」
ストレートに聞いてしまうほど驚いていた。
まりは何事もないように答える。
「そうですよ。」
「……そうですか。」
それしか返しようがなかった。
「お昼前には帰ります。テラスは開いているので、喉が渇いたら冷蔵庫にアイスコーヒーが入っています。」
そう言って、まりはガーデンテーブルへちらりと目を向けた。
そこにはラップをかけたサンドイッチが置いてある。
「朝食、食べてませんよね?」
図星だった。
「食べてから作業をお願いします。」
「了解です。」
ティスは笑顔でうなずき、まりを見送った。
朝食を食べていないことも、しっかり見抜かれていた。
ソファーブランコにはチャッピーが座っている。
「おはよう。」
軽く手を上げて挨拶をしてきた。
まりがいる時は「おはようございます」と言うのに。
ティスは苦笑いを浮かべた。
「チャッピー。キッチンに入るから、一緒に来てくれるかい?」
チャッピーは少し驚いたような顔をする。
「許可はもらったけど、一人で入るのはちょっとね。」
そう言って二人でキッチンへ入った。
大きめのグラスに氷を入れ、アイスコーヒーを注ぐ。
ふわりと良い香りが広がる。
「このアイスコーヒー、本当においしい」
「水出しコーヒーだからね。」
「なるほど。」
このすっきりしたおいしさは、そのおかげか。
妙に納得した。
「チャッピー、今日は何をしてたんだい?」
「……聞かない方がいいよ。」
それだけ言うと、チャッピーはさっさと庭へ戻っていった。
ティスも後を追って庭へ出る。
ガーデンテーブルには、まりが用意してくれた朝食が並んでいた。
ハムとレタス、それに少し甘めの厚焼き卵を挟んだサンドイッチ。
横には、梅シロップのかかったヨーグルトが添えられている。
デザートのように、見慣れない小さな果物も入っていた。
何だろう。
そう思った瞬間だった。
「ユスラウメとグミだよ。」
チャッピーの声が聞こえる。
ティスは小さく目を丸くした。
今、口には出していない。
チャッピーは何事もなかったように庭を眺めている。
ティスは何も言わず、静かに朝食を続けた。
朝食を食べ終え、洗い物を済ませる。
黒いエプロンのリボンを結び直す。
さて、梅仕事を始めよう。




