本の妖精
「それにしても、最近ひとが多いな」
アルベールさんが入り口の外に目をやる。
「どうやら、図書館の庭を歩くと体調が良くなるって口コミ……いえ、噂になってるらしくて、散歩に来るひとが増えたんです」
今も家族連れが門を入ってきたところだ。
(きっとフレイア様の影響なんだろうな。キャサリンも体調が良くなったって言ってたし)
「そういえば、俺も最近疲れにくくなった気がするな」
「ほんとですか? 良かったですね。セルジュさんも、フレイア様の像にお祈りしたら、あっという間に怪我が治ったって喜んでましたよ」
「それであいつ〈祈りの部屋〉にこもるようになったんだな。単純なやつめ」
熱心な信者が増えるのはありがたいことですと言うと、アルベールさんは子どものように、くしゃっとした顔で笑った。
***
アルベールさんの言う通り、そろそろ従業員を雇ったほうがいいかもしれない。
散歩ついでに図書館に寄るひとも増えてきてるものね。
誰もいなくなった図書館は、しんと静まり返っている。
ひとりでいても全然怖くないのは一度死んだせいかしら。
それに、ここは私の家でもあるし……。
フレイア様がくれた大切な家だもの。しっかりと守らなきゃね。
「ねえ、ナビ。誰かタダで働いてくれるひと知らない? なんて、いるわけ――」
『妖精と契約すればお金はかかりません』
ダメ元で訊いてみたら、とんでもない答えが返ってきた。
「この世界って妖精がいるの⁉ まあ、魔法があるくらいだからいても不思議じゃないか。それで、どうやって妖精と契約すればいいの?」
『スキル〈妖精が見える目〉を獲得しますか?』
「するする!」
『スキル〈妖精が見える目〉を獲得。妖精が契約に同意したら、名まえをつけてください。それで契約成立です。頼んだことをやってくれたら必ず魔力をあげてください』
「へえ、思ったより簡単なのね」
『なお、魔力あげないと契約を破棄されたうえ酷い目にあわされるので注意してください』
「う、わかったわ。でも、妖精なんてなかなか見つからないんじゃ――いたっ!」
私の目の前にキラキラ光る羽を持つ妖精がふたりも! 本当に見えるようになったんだ!
「もしかしたら気がつかなかっただけで、今までずっとそばにいたのかしら……あ、あの、妖精さん? 私と契約してくれませんか?」
「イイヨー」
「イイヨー」
「ほんとに? じゃあ、名まえをつけてもいい?」
「ツケテ」
「ツケテ」
「やった! じゃあねえ……あなたはララで、あなたはルル」
(呼びやすいほうがいいわよね)
『契約が成立しました』
ふたりは双子のように似ていたが、少しだけ羽の色が違っていた。ララは薄い黄色で、ルルは薄いオレンジ色。身につけている服のようなものも羽と同じ色をしている。
「ララー!」
「ルルー!」
名まえが気に入ったのか、ララとルルが嬉しそうに飛び回っている。
子どもの頃、花のなかや葉っぱの裏を探したことはあったけど、まさか本当に妖精を見られる日がくるなんて……。
「ああ、なんて可愛いの!」
「カワイイノ?」
「ララとルルがね」
「カワイイノ!」
「くぅ、たまらん!」
「タマラン」
「タマラン」
「いや、そんな言葉覚えなくていいから。あのね、ここは図書館っていうんだけど」
「シッテル」
「ミテター」
「やっぱり。ララとルルもずっとここにいたのね?」
「ホンスキ」
「マリョクホシイ」
「本が好きなんだ」
『本の妖精ですから』
とナビが教えてくれた。
「まあっ、本の妖精がいるなんて知らなかったわ! ところで、私にあなたたちにあげられるような魔力ってあるかしら?」
「アルー」
「イッパイ」
「そう。いっぱいあるのね」
妖精たちが言うなら間違いない。アルベールさんの言ったことは正しかったんだ。
「お手伝いしてくれたら魔力をいっぱいあげるわね」
「ヤッター」
「ワーイ」
「ふふ。じゃあ、これからのことをお話しましょうか」
私は妖精たちに何が出来るのか教えてもらいながら、やってもらいたいことや、やってはいけないことを伝えた。
最初はぎこちなかった会話も、少しずつスムーズになった。久しぶりに人間と契約したから、会話の仕方を忘れていたそうだ。
「ところで、ララとルルの姿って私以外にも見えるの?」
「ケイヤク シテルナラ」
「ヨウセイト」
「なるほど。妖精と契約してると見えるのね。図書館に来る人たちのなかに、妖精と契約してるひとはいる?」
「イルヨ」
「アルベール」
「うそっ!?」
「ウソジャナイヨ」
「ホントダヨ」
「あ、ごめんね。ちょっとびっくりしちゃって。疑ってるわけじゃないからね」
アルベールさんも妖精と契約してるんだ。どんな妖精なんだろう。見たいなあ。
「そろそろ寝ようか。ララとルルはいつもどこで寝てるの?」
「イノリノヘヤ」
「キモチイイ」
確かにあの部屋なら空気も綺麗だし、妖精の寝床にピッタリだわ。
「おやすみなさい」
「オヤスミー」
「オヤスミナサイ」
良い夢を。




