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迷惑な三人娘

遅くなってすみません!

 自分からお願いしたことだけど、アルベールさんに名まえを呼ばれると、なんだか落ち着かない。なにしろ、前世ではお目にかかったことのないような美形なんだもの。

 他の騎士様たちだって、みんな美丈夫びじょうふで驚いたわ。騎士って見た目がよくないとなれないのかしら?


 彼らは特別室の常連だから大歓迎なんだけど、最近来るようになった騎士様目当ての三人娘が問題なのよね……。


 彼女たちは騎士様の気を引こうと必死だから、読書中だろうがなんだろうが構わず突撃していく。


「なに読んでるんですかあ?」

「このあとお食事でも」

「少しお話しませんか」


 図書館ではお静かにと何度注意したことか。騎士団の人たちだけでなく、他の利用者たちにも迷惑だ。


 職業柄あまり強く言えないのか、騎士様たちが特別室に逃げ込む回数が増えた。

 三人娘も、さすがに銀貨二枚払ってまで追いかけようとは思わないようで、特別室の前で地団駄を踏んでいる姿をよく見かける。


 そのせいか、彼女たちの私を見る目がやけに冷たい。騎士様たちと話していると殺気を感じるほどだ。本のことを訊かれてるだけなのに、なんだかなあ。


 ある日、トイレを出たところで彼女たちに呼び止められた。

 

「ちょっと、あなた!」


 三人娘が私を睨んでいる。とうとうきたかという感じ。

 孫のような娘っ子に睨まれても怖くはないが、正直めんどくさい。こういうのが嫌で転生するのを渋っていたというのに。


「なにか?」


「どうしてあなただけ騎士様たちと親しくしてるのよ!」


「訊かれたことに答えているだけで、特に親しくしているわけでは――」


「ずるいわよ、あなただけ! わたしたちにはそっけないのに」


「「そうよそうよ!」」


 三人とも顔を真っ赤にして怒っている。


 私は首をかしげた。

「もしかして、騎士様たちがなぜあなたたちにそういう態度をとるのか、わからないの?」


「そんなことわかるわけないでしょ! なによ、偉そうに」


 いや、偉そうも何も。


「あの方たちは本を読むためにここに来てるのよ。なのに、その邪魔をするのは逆効果だってなぜわからないの?」


 怒るというより呆れてしまった。


「だって、こうでもしないと騎士の方とゆっくりお話できないじゃない」

「「そうよそうよ」」


 開き直った彼女たちを見て、気づいてしまった。

 そもそも、本にまったく興味がない彼女たちに、活字中毒者の気持ちがわかるはずなかったのだ。



 前世では、手元に本がないと落ち着かず、読み始めると止まらなくなるような人のことを活字中毒者と呼んでいた。

 私も一時期、活字中毒だったことがある。

 とにかく活字が読みたくてたまらず、本が手元になければ、新聞、説明書、広告など、手当たり次第に活字を読みあさったものだ。


 あら、私が絡まれてることに気づいたみたいね。騎士様たちが、じりじりとこっちに近づいてきてるわ。


 さて、どうしたものか……。

 綺麗に着飾ってはいるけど、おそらく彼女たちは庶民。キャサリンの言葉遣いや所作と比べるとよくわかる。年のころは二十歳はたちそこそこ。この世界の結婚適齢期は早いから、行き遅れるのが嫌で焦ってるといったところか。


 タイミングよく騎士様たちが現れたから、ここぞとばかりに玉の輿を狙ってるんだろうけど、完全に空回りしている。

 このままだとタチの悪い貴族にもてあそばれて捨てられる未来しか見えないから、老婆心ながら忠告させてもらいましょう。


「何か勘違いしているようだから教えてあげるけど、休みの日に一日中図書館にこもるなんて相当な本好きなのよ。確かに騎士様たちはかっこいいし、夢を見る気持ちはわかるけど、本に夢中でろくに話も聞いてくれないような男と結婚したって、つまらないと思わない?」


 なぜか騎士様たちが胸を押さえている。


「実際、騎士様たちに話しかけて楽しかった?」


 三人娘は戸惑うような表情を浮かべ、悲しげに首を横に振った。


「どんなに美形でも、横顔を見てるだけなら三日で飽きると思わない?」


「……思うわ」

「そうよね」

「私もそう思う……」


「ちゃんと話を聞いて誠実に向き合ってくれるような男性を探してみたら。意外と身近にいたりするものよ」


 三人娘はチラチラとお互いの顔を見ている。

 なんだ、思い当たるひとはいるのね。


「私からの忠告はこれでおしまい。これからも利用者の方に迷惑をかけるようなら、図書館館長の権限であなたたちの入館を拒否しますからね」


 そう言うと、三人娘はコソコソと話し始めた。

 全部聞こえてるけど。


「このひと館長だったの?」

「知らないわよ」

「ただの従業員だと思ってた」


 彼女たちは素直に頭を下げ、すごすごと図書館を出て行った。


 なお、騎士様たちが涙目で私を見ていたので「気にすることないですよ」と、一応フォローしておいた。



 ***



「先日はうちの団員たちのせいで、迷惑をかけてすまなかった」


「いえ、騎士様たちのせいでは……」


 三人娘がやらかしたことなのに、アルベールさんに丁寧に謝られた。貴族が庶民に頭を下げていいのかしら。


「ところで、まだ従業員を雇ってないのか?」


「一応、商人ギルドにも相談してみたのですが、基本賃金が高くて。まあ、私のモットーは、のんびり生活することですから、無理して雇わなくてもいいかなって」


「のんびり……そうか」

 アルベールさんの表情が曇る。


「呆れちゃいましたか?」

 騎士団の副団長さんから見たら、ただの怠け者だものね。


「いや、違うんだ。余計なお世話だとわかっているが、先日のこともあるし、アンひとりだと色々と心配でな」


 なるほど。貴重な本が盗まれないか心配なのね。そういえば、前にもそんなこと言ってたっけ。


「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ。悪意を持ったひとが入れないようにバリアを張ってますし、もし本が盗まれたとしても、回帰魔法がかかってるのでちゃんと戻ってきますから。もっと早く伝えておけばよかったですね」


 これで安心してもらえたかな。


「ちょっ、ちょっと待ってくれ! 条件を特定した大規模なバリアに回帰魔法だと? どっちも膨大な魔力がないと使えない難しい魔法じゃないか。……そういえば、この図書館の館長はアンだったな。すべてきみの魔法ってことか」


「私は魔力なんてないですよ? バリアを張れたのも図書館館長という称号のおかげなんです。スキルもたくさんあるんですよ」


「……何を言ってるんだ?」


 アルベールさんは心底呆れたといった表情を浮かべる。


「称号というのは、神に選ばれた者だけが持つギフトと呼ばれるものだ。それに、魔力がないのにスキルを使えるわけないだろ」


「そうなんですか?」


「どうしてそんなことも知らないんだ……」


 アルベールさんは頭を抱えた。

 だって違う世界から来たんだもん、とは言えない。


「とにかく自分の称号やスキルを他人に話さないほうがいい。特に称号は絶対駄目だ! 利用しようとたくらむやつが大勢いるからな。悪意のあるやつは図書館に入れないといっても油断するなよ」


「はーい、わかりました。……アルベールさんって、なんだかお父さんみたい」


 ぶっきらぼうだけど優しいひとだったな。


「お父さんって、俺はまだ二十五だぞ」


「二十五!?」


「いったいいくつだと思ってたんだ。正直に言ってみろ」


「……騎士団の副団長なら三十は超えてるかと」


「なっ……そうか」

 そんなに老けてみえるのか、と呟くのが聞こえた。




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