再会
フレイア様の像を手に入れた私は、設置場所に頭を悩ませた。
自分の部屋に飾ってもいいけど、どうせならたくさんのひとに見てもらって信者を増やしたい。そして、信仰の力でギガ教とやらを負かしてやりたいのだ。
「やっぱり人目につくところがいいわよね」
小さな祭壇に像を飾って、図書館に来る人達が拝めるようにしたいな。三脚くらい長椅子を置いて、静かに過ごせる場所といえば……。
「うん。ここしかない」
図書館の入口の近くに空き部屋がひとつある。そのうち休憩所にでもしようと思っていたけど、ここならピッタリだ。行き帰りには必ずここを通るし、何よりこじんまりとした空間が落ち着く。
奥の壁の真ん中に台を設置し、その上にフレイア様の像を飾って祭壇代わりにした。正式なお祈りは知らないので、胸の前で手のひらを合わせて呟く。
「フレイア様、像を置くのが遅くなり、申し訳ありませんでした。こちらでの生活もやっと落ち着いてきたところです。図書館に関するあらゆるスキルの他、衣食住のことまで気にかけていただき、ありがとうございました。心から感謝しています。これからは毎日フレイア様の像を拝み、信者を増やすお手伝いをしたいと思います」
「約束を守ってくれてありがとう」
祈りが届いたのか、まぶしい光とともにフレイア様が現れた。
「お久しぶりです、フレイア様!」
「元気そうで何よりです」
「この像、気に入ってもらえましたか?」
「ええ、わたくしへの深い信仰が感じられて心地よい。大変気に入りましたよ。良い職人を見つけましたね」
良かった。気に入らなかったらどうしようって、ちょっと心配だったんだ。
「図書館は順調ですか?」
「まあ、何とか……」
「ふふ。無理せずとも、あなたはのんびり生活してくれればいいのですよ」
「それはそうなんですけど」
私は苦笑いを浮かべた。全部お見通しなんだろうな。
「もともと、あなたは真面目で働き者だから、手を抜いて生きる方が難しいのかもしれませんね」
「いえ、そんなことは……」
「わたくしはいつもアンのことを見守っていますから、何かあればこの像を通じて伝えてください」
「はい、そうします。……なんだかフレイア様、一段と神々《こうごう》しくなったような気がするんですけど」
話し方のせいかな。初めて会ったときはもう少し子どもっぽかったような?
するとフレイア様は、
「それはそうでしょう。なにしろ、マドモ・アーゼルの均衡の歪みが少しずつ改善されてきているのですから。これでもう他の神たちにバカにされずに済みますわ。オーホッホッホッ!」
と高笑いした。
やっぱり変わってなかったかも。
「これもアンのおかげですよ。これからもこの世界で長生きしてくださいね」
そう言うと、フレイア様は光に溶けるように姿を消した。
***
毎日フレイア様の像を拝んでいる私につられたのか、図書館の利用者たちも徐々に祈りを捧げてくれるようになった。
特に熱心なのが恋愛小説好きのキャサリンだ。
彼女から身分を明かされたときは驚いた。実はキャサリンはプアリエ男爵の妻で、図書館には男爵家の馬車で来ているという。
キャサリンは賢くてユーモアに溢れた素敵な女性だけど、貴族と庶民では身分が違いすぎる。
そう思って距離を置こうとしたら、
「うちなんて領地もない下位貴族なんだから、気にすることないわよ」
と言われてしまった。
「あなたとは年も離れてるけど、なぜか同年代の友人のような気がして、お話するのがとても楽しいの。あ、こんなこというのは失礼だったかしら」
「ふふ、そんなことないですよ」
(前世を合わせるとあなたより年上ですから)
こうして、今でも変わらない付き合いが続いている。
キャサリンは、祭壇のある部屋を〈祈りの部屋〉と名付け、自宅の庭に咲いている花を持ってきてくれるようになった。
「キャサリン、いつもお花をありがとう」
「お礼を言うのはこっちのほうよ。最初はアンに付き合ってたようなものだけど、ここで祈るようになってから、とても身体の調子がいいの。以前から感じていた胃の痛みもなくなったし。きっとフレイア様のおかげね。今度夫も連れてこようかしら」
そう言ってキャサリンは、祭壇にある花瓶にピンクのバラを活けた。
甘いバラの香りが〈祈りの部屋〉に満ちる。この香りがフレイア様にも届いているといいな。
***
最初に来館してくれた騎士様も騎士爵を持っているとキャサリンが教えてくれた。どうやら黒曜騎士団は強くて正義感が強いと、このあたりでは有名のようだ。
彼も私が館長だと知ってびっくりしたみたいで、数日前、わざわざ謝りにきてくれた。
「すまなかった。館長にはいずれ挨拶をしたいと思っていたのだが、まさかこんな小さ……いや、若い女性が館長だとは思わなかったんだ」
今、こんな小さなって言おうとしたよね。まあ、背が低いうえに童顔だから仕方ないけど。
「改めて自己紹介させてもらおう。私はアルベール・バルセロナ。黒曜騎士団の副団長だ。一応、騎士爵を賜っているが、どうせ一代限りの爵位だ。気にしないで今まで通り接してくれ」
「でも、貴族で騎士団の副団長様なんて恐れ多くて」
「いや、たまたま功績を上げたからこうなっただけで、もともと俺は庶民なんだ」
「そうなんですか? でも……失礼ですけど、字はどこで覚えられたんですか?」
「母から教わったんだ。母は若い頃、特待生として学院に通ったこともあるらしい。父が亡くなってからは王都にある商家で事務の仕事をしている」
「まあ、すごく優秀な方なんですねえ」
「おかげで息子はこんな本好きになっちまったけどな。ここに来ている騎士たちは、ほとんどが貴族の次男や三男だ。家督を継ぐのは嫡男だから、残りは騎士か文官。あるいは跡継ぎのいない家に婿入りするしかないんだ」
「へえ、そうなんですね」
貴族として生きるのも大変なんだな。
「そうだ、これからは館長って呼ばないとな」
揶揄うように言われて、私は頬を膨らませた。
「嫌ですよ。私の名まえはアンなので、名まえで呼んでください。わたしもアルベールさんとお呼びしてもいいですよね?」
「ああ、もちろんだ。俺もアンと呼ばせてもらおう」
一人称が私から俺に変わった。口調もくだけてきたし、気を許してくれたみたいでなんだか嬉しかった。
読んでいただき、ありがとうございます。
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