【書籍化御礼SS】黒曜騎士団のセルジュ
完結後にフォロワー様が増えたので、カクヨムからSSを転載しました。
続けてもう一話公開します!
俺は黒曜騎士団の中堅として、ターコイズの街を守っている。
魔物が街を襲うことは滅多にないが、強盗、窃盗、誘拐、詐欺、放火など、取り締まるべき犯罪は後を絶たない。
そのため、任務中に怪我を負うことも珍しくなかったが、さすがに右腕を負傷したときは、このまま剣を握れなくなったらどうしようと、柄にもなく不安になった。
そんな俺を見かねたのか、「フレイア様にお祈りしてみてはどうですか」とアンちゃんに勧められた。
「お祈りをしたおかげで体の調子が良くなったという方もいらっしゃるので、ぜひ試してみてください」
「まあ、アンちゃんがそういうなら」
彼女が心配してくれたのが嬉しくて、俺は図書館にある〈祈りの部屋〉に初めて足を踏み入れた。長椅子に座り、祭壇にある女神像を見ていると、不思議と気持ちが落ち着いてきた。
「フレイア様……俺の怪我、治りますかね」
気づくと、そう話しかけていた。
結局、図書館に行くたびに〈祈りの部屋〉にこもっていたら、驚くほど早く怪我が治った。
それ以来、時間があるときは教会にも行き、フレイア様に感謝の祈りを捧げている。
騎士団の仲間たちは「ついでに女癖の悪さも治してもらえ」と、からかってくるが、年齢外見問わず、女性には優しくするのが俺のモットー。治す必要なんてない。
そんなわけで、今も後輩と婚約したばかりのダイアナちゃんと楽しくお喋りしているところだ。
「それで、ダイアナちゃんはエリックのどこを好きになったの?」
「秘密です」
「ええー、いいじゃん。教えてよお」
「はあ……セルジュさんと違って軽くないところですかね」
彼女はため息をつき、面倒くさそうに答える。
「ひどい。俺、そんなに軽いかなあ」
「街で見かけるたびに、違う女性と歩いてますよね」
「あれは、ほら、おトモダチというか……」
「ふうん。セルジュさんって、友だちと人前であんなことするんですね」
「えー、なんのことかなあ」
「……覚えてないと?」
ダイアナちゃんの目に殺意が浮かぶ。どうやら女性の敵だと認定されたらしい。
「あ、思い出した。あれね、あれ!」
「まったく……そろそろ真面目なお付き合いをされたほうがいいんじゃないですか。そのうち誰かに刺されますよ」
「そう簡単にやられるわけないだろ。これでも黒曜騎士団の精鋭なんだぞ」
えっへん、と胸を張ったが、「女性相手なら油断してやられそうですけどね」と軽くいなされた。
「でも、俺だってやみくもに手を出してるわけじゃないからね? どちらかといえば、俺のほうが遊ばれてるっていうか」
「は?」
今度は思い切り白い目で見られた。
「いや、本当なんだって。俺さあ、結婚願望がまったくないんだよ。うちには優秀な長男と次男がいるから、親にも『おまえは好きなようにしろ』って言われてる。周りの女性にも結婚する気はないって公言してるから、付き合ってもすぐに振られちゃうんだ」
ダイアナちゃんは何か言いかけて、口をつぐんだ。
「……親に期待されないのも辛いですよね。わたしは父に『でかすぎて嫁の貰い手がない』ってさんざん言われてたんです。なのに、エリックさんと結婚することになるなんて、自分でもびっくりしています」
「そっかあ。いいやつに出会えてよかったね」
「はい。これも館長さんのおかげです。そういえば、セルジュさんって一時期館長さんのことが好きでしたよね」
「よく見てるねえ……」
つい本音が漏れた。
黒曜石のような瞳をした、少女のように可憐なアンちゃん。
彼女が図書館の館長だと聞いたときは驚いた。
あんなに可愛いのに館長を任されるほど仕事ができるのかと興味が湧き、自然と目で追っている時期があった。
「まさか、ダイアナちゃんに気づかれてるとは思わなかったなあ」
「そうですか? 結構、露骨にアピールしてましたよね」
「そう言われると恥ずかしい……。でもさ、知れば知るほどアンちゃんって謎だらけじゃん。若いのに妙に達観してるし、誰も知らないような異国の料理をさらっと作っちゃうし。たぶんだけど……すごい魔法が使えるうえに、フレイア様の加護まで授かってるでしょ。さすがに俺だって、軽い気持ちでちょっかいかけていい相手じゃないってことくらい、わかるよ」
「セルジュさんが思っていたより賢くて安心しました」
「ひどい……!」
「わたしも、館長さんはフレイア様に愛された特別な存在だと思います。ただ、精神的に脆い面もあるので、しっかりと支えてくれる男性じゃないと……。間違ってもセルジュさんのような軽薄な人には渡せませんね」
「小姑……」
「なにか?」
「なんでもありませーん。じゃあさ、副団長は? アンちゃんと仲が良いし、結構いい男だろ。怖そうだけどかっこいいって、ひそかに人気あるんだよ」
「それはわかります。わたしもアルベールさんは素敵だと思いますよ。館長さんも彼のことは信頼していますし。ただ、アルベールさんと館長さんは、お互いに今の関係で満足しているような気がするんですよね」
「わかる! あの二人が一緒にいても、全然怪しいと思わないもんなあ」
「そうなんですよ。このあいだも、二人で出かけたっていうから『デートですね』って言ったら、館長さんったらきょとんとしてて」
「年頃の男と女が二人っきりで出かけて何もないなんて、信じらんないよなあ」
「は? 何かあるわけないでしょ。館長さんはそんな軽い女性じゃありません」
「あれえ? さっきまで俺の味方だったのに」
「わたしは館長さんの味方です」
ぷんぷんと怒るダイアナちゃんを見て、この子は本当にアンちゃんのことが好きなんだなと思った。
俺には無理だったけど、副団長ならいつかアンちゃんのハートを射止めることができるのかな。いや、やっぱり無理か……?
なんにせよ、図書館は俺たち黒曜騎士団にとって大切な場所だ。
これからもアンちゃんと図書館を守るぞと、俺は改めて心に誓った。




