これからの図書館
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※書籍化に伴い、孤児院を養護院に変更しました。
紙芝居の実演は大成功だった。
ダイアナが『おおきなかぶ』を演じたあと、続けてパトリックさんが『三びきのこぶた』を熱演した。
ふたりとも緊張していたし、ちょっとしたミスはあったけど、観ていた人たちは気にならなかったようだ。
初めての紙芝居を心から楽しんでいるのが、その表情や目の輝きからうかがえた。
「この次はぜひわたくしにも演じさせてください!」
終演後、クリスティーヌさんが高揚した声で私に言った。
せっかく練習したのに、今回は出番がなかったものね。
いずれ再演したときにはと思っていたけど、ここまで言ってくれるなら――
「今度、メープル養護院でも紙芝居を上演したいと思っているので、もしよかったら、そこで演じていただけませんか?」
「まあ、養護院で? もちろんですわ。わたくしでよければ、お引き受けいたします」
クリスティーヌさんは少し驚いていたが、きりっとした表情でうなずいてくれた。
「ありがとうございます。では、アルベールさんにも相談してみますね」
アルベールさんの所属する黒曜騎士団は、たびたびメープル養護院へ慰問に訪れている。きっと喜んで協力してくれるはずだ。
後日、アルベールさんに会ったときに紙芝居のことを伝えると、「それはいい!」と声を弾ませて賛成してくれた。思ったとおりだ。
「ただ、これをどうやって持っていこうかと悩んでるんです」
私は紙芝居の舞台をアルベールさんに見せた。
ついでに軽く実演してみせると、最後まで見たいと駄々をこねられて苦笑いした。
普段は黒曜騎士団の副団長として睨みを利かせているのに、ときどきこういう子どもっぽい一面を見せる。
そのギャップがいいのか、街の女性たちにも隠れファンが多いと聞く。まだ独身なのが不思議なくらいだ。
私がそう言うと、アルベールさんの部下のセルジュさんがこっそりと教えてくれた。
『副団長って、寄ってくるなといわんばかりに、下心のある女性に対して無愛想なんだ。あれじゃあ、よっぽどの強者じゃなきゃ口説けないと思うよ』
なるほど。おまけに、休みの日には図書館に入り浸っているものね。そりゃあ、婚期も遠ざかるというものだ。
もしアルベールさんが結婚しちゃったら、図書館に来る回数も減っちゃうだろうな。それは少し……いや、かなり寂しいかも……。
おっと、余計なこと考えてる場合じゃない。紙芝居の運搬方法を考えなければ。
舞台を触ったり持ち上げたりしていたアルベールさんに「結構かさばるし、重いでしょ?」と声をかけた。
「そうだな。俺が馬にくくりつけて運んでもいいが、壊れちまいそうだ。……あいつに頼んでみたらどうだ?」
「あいつ?」
「腹黒神官だよ」
「シリル神官のこと? そんな言い方しちゃ駄目ですよ。まったく……」
なぜか犬猿の仲のふたり。
ふたりともいい人なのに、なんでだろうといつも不思議に思う。
それはさておき、アルベールさんの言うことももっともだ。
メープル養護院は、シリル神官の勤めるターコイズ大聖堂の隣なんだから、大聖堂に運ぶ物があれば、ついでに引き受けてくれるかもしれない。
ターコイズ大聖堂で実物のフレイア様にお会いしてからも、シリル神官は月に二、三度は図書館に来ている。もうこっちには来ないかと思っていたので意外だった。
あれ以来、大聖堂に降臨してないみたいだし、あわよくばこっちでもと思ってるのかな。腹黒だし……いけない、アルベールさんのこと言えなくなっちゃう。
***
「そういうことでしたら、ぜひわたしに協力させてください」
私の頼みを聞いたシリル神官は、機嫌よさげに目を細めた。
「いいんですか?」
「はい。教会の荷車で運びますので、ご安心ください。運搬はうちの修道士が責任を持って行います」
「それは助かります」
「いえいえ、子どもたちのためですから。それに、アンさんがわたしを頼ってくださったのは初めてですからね」
「え、そうですか……?」
私は首をひねった。
直接頼んだわけじゃないけど、ギガ教の襲撃事件のときお世話になったし、教会での子どもの教育支援を整えてくれたのもシリル神官なのに。
まあ、嬉しそうだからいいか。美形の笑顔は眩しいわ。
***
養護院に行く前日。
若い修道士がふたり、紙芝居の舞台を引き取りにきた。
彼らは舞台が壊れないよう何重にも布で巻き、丁寧に荷車に運び込んだ。
紙芝居が終わったあとは、また戻しに来てくれるというので、そのときに何かお礼をしよう。
翌日、私とクリスティーヌさんは、歩いてメープル養護院へ向かった。
女性ふたりだと、遠慮なく自分のペースで歩けるから気が楽だ。
アルベールさんやシャルルさんが一緒だと、歩く速度を合わせてくれているのが分かるので、どうしても申し訳ないという気持ちが湧いてしまう。
私たちの会話は、自然とダイアナのことになった。
「ダイアナさんは結婚後も図書館の仕事を続けられるんですよね?」
「ええ。三か月ほどお休みしてから、仕事に復帰したいと言われています」
私はクリスティーヌさんの質問に答えた。
「よかった。エリックさんは反対しなかったのね。ほとんどの貴族は妻が働くのを嫌がるけど、彼はダイアナさんにぞっこんですものねぇ」
「ふふ、そうですね。新居は図書館の近くに決めたらしいですよ」
「あら、新婚さんなのに大丈夫かしら。ふたりとも本好きだから、新居より図書館にいるほうが長くなったりして。ほほほ」
「はは、それはさすがに……」
苦笑いを浮かべる私に、クリスティーヌさんがさらに尋ねた。
「でしたら、新しい従業員は雇わないのですね?」
「いえ……実は、ダイアナの勤務時間を今より短くするつもりなんです。しばらくは家のことで忙しいでしょうし、妊娠したときのことを考えると、今から補助してくれる人を雇ったほうがいいと思うんですけど……クリスティーヌさんはどう思いますか? ……あの?」
「あ、すみません。そこまで考えてくださるんだと驚いてしまいました。アンさんみたいな方に雇われて、ダイアナさんは幸せですね。もちろん、わたくしもですけど」
クリスティーヌさんの言葉にハッとした。
こういう考え方は、まだこの国には浸透していないんだ。
前世で育児中の短時間勤務制度が義務化されたのは、孫が生まれた頃だった。
嫁はしっかり育児休暇を取っていたけど、息子は申請しづらかったのか、結局一度も取らなかったのよね。
「先のことを考えると、若い図書館員を育てることも大事だと思いますよ」
とクリスティーヌさんが笑みを浮かべる。
「そうですよね……」
またキャサリンに相談してみようかな。ダイアナを紹介してくれたのも彼女だし、もしかしたら新たな出会いがあるかもしれない。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
フォローしてくださった方には申し訳ありませんが、ここでいったん完結とさせていただきます。
カクヨムでも休載に入りますが、書籍発売前にSSを公開する予定なので、よかったら覗いてみてください。




