紙芝居(後編)
五日後に工房を訪れると、すでに舞台は完成していた。
木製の板を貼り合わせ、扉は蝶つがいで開け閉めできるようになっている。
試しに重ねた画用紙を横から出し入れしてみると――
「おお、いいですねー。スムーズに抜き差しできます」
「わはは、気に入ったか?」
「はい! こんな素敵な舞台ができて嬉しいです。ありがとう、ギョームさん!」
「おお、俺も面白かったぜ。またなんか思いついたら真っ先に相談してくれ」
持って帰るのは大変なので、後日職人ギルドから送ってもらうことにした。
あとは紙芝居を作るだけ。
「まあ、それが難しいんだけど……」
上演時間が十分くらいだとしても、十五枚ほどの絵が必要なはずだ。
どんな話にしようかなあ。
できれば、小さい子も大きい子も楽しめるような話がいいな。世界観もこの世界に合うようなものにしたいし……。
あ、そうだ。民話なんかどうだろう。
ロシアの民話『おおきなかぶ』は、おじいさんの育てたかぶがなかなか抜けなくて、次々と人が増えていくお話なんだけど、『うんとこしょ、どっこいしょ。それでもかぶはぬけません』っていう、繰り返しが面白いんだよね。
『三びきのこぶた』はイギリスの民話だったかな。
三びきのこぶたの兄弟がそれぞれ家を作るが、長男と次男が作った藁と木の家はオオカミに吹き飛ばされ、三男の作った頑丈なレンガの家に逃げ込むというお話。
こうして思い出すだけでも映像が浮かぶもの。きっと紙芝居にしたら面白いはずよ。
紙芝居を作りたいとダイアナに話したら、思った以上の勢いで食いついてきた。
「紙芝居って、どうやって作るんですか? え、もう職人ギルドに頼んでる? いつのまに……! 絵を描くときは絶対教えてくださいね。わたしも手伝いますから!」
「わ、わかった。そのときはお願いするね」
パトリックさんとクリスティーヌにも協力をお願いすると、嬉しいことを言ってくれた。
「わたしもクリスティーヌも、もう少し働きたいと思っていたので、ちょうどよかったです」
「そうなんです。家にひとりでいるより、ここで働くほうが楽しくて……」
「本当に⁉ だったら、今だけと言わず、これからは毎日来てもらってもいいかしら? もちろん、その分の賃金は出すわ!」
ふたりは私の提案を快く受けてくれた。ありがたいことだ。これで紙芝居作りに集中できる。フレイア様、彼らに祝福を!
ついでに、従業員用の休憩室を広い部屋に移すことにした。
特別室を広げたときに、連動して広がった部屋があるので、ちょうどいい。大きなソファセットも置いたから、ゆっくりと昼寝もできる。
仕事の効率を上げるためにも、昼寝をしたほうがいいと布教しなければ。むふふ。
***
紙芝居に取りかかる前に、まずは絵コンテのようなものを用意した。
絵の横に文章を書きながら、少しずつ内容を固めていく。
目や口は通常より大きく描いて、遠くからでも表情がわかるようにしよう。
紙芝居はリズムやセリフが大事なので、地の文は短くする。
一枚あたり三十秒から一分くらいかな。
長すぎると子どもは飽きてしまうので、読みながら長さを調節していく。
絵の具は発色のよいポスターカラーにしよう。鮮やかな絵になるので、きっと舞台映えするはずだ。
さすがに十五枚もの絵を一人で描くのは大変なので、みんなに色塗りを手伝ってもらいながら、何日もかけて完成させた。
あとは読み手だ。もちろん私も読むけど、できれば他の人にも読んでもらいたい。
だけど、紙芝居がどんなものかも知らないんだから、練習しないと無理だろう。
「ということで、皆さんにも紙芝居の練習をしていただきたいと思います」
「ええっ!」
「は……?」
「まあ」
私の言葉に驚く図書館員たち。
「そんな、急に言われても」と慌てるダイアナ。
「私に読めるでしょうか……」不安げにつぶやくパトリックさん。
「面白そうですわね」と、不敵な笑みを浮かべるクリスティーヌさん。
いきなり上手に読めるはずもないので、閉館後にみんなで練習することにした。
当然、残業代は奮発する。
はじめに私がお手本を見せ、紙芝居をするうえでの注意点を教えた。
基本的な立ち位置は、紙芝居の後ろではなく右横(観客からすると左手)。
子どもが話しかけてきても軽く受け流す。
絵を引き抜くタイミングや抜き方も大事だ。
ゆっくり抜く、素早く抜く、半分だけ残す、がたがたと揺らしながら抜くなど、いろいろなテクニックがあるのだ。
最初はみんな声も小さくて、間違って二枚引き抜いたり、絵を落としたりしていた。だが、練習を重ねるうちに少しずつ上手くなり、次第にセリフの言い方や絵の引き抜き方にも個性が出てきた。面白いものだ。
何度も練習を重ね、いよいよ本番当日。
紙芝居の題名は『おおきなかぶ』。演者はダイアナだ。
何かあったときのために、パトリックさんとクリスティーヌさんには、両端で待機してもらっている。私は一番後ろの席に座り、全体の様子を見ることにした。
ダイアナは、ゆっくりと舞台の扉を開いた。
さあ、物語の始まりだ。
「おおきなカブ」
少し震えているけど、ちゃんと声は届いてる。がんばって!
ダイアナが表紙の絵を引き抜いた。
「おじいた……おじいさんが、畑にカブの種をまきました」
あ、噛んじゃった。うう、見ているこっちまで緊張する。
初めて見る紙芝居に、子どもたちは夢中になっている。
子どもたちの反応を見て、ダイアナもすぐに落ち着きを取り戻した。
カブが「スッポーン」と抜けた場面では、大きな笑い声が上がった。
「よかった……」
小さい子も大きい子も、付き添いで来ていた大人たちも、みんな楽しそうだ。
紙芝居が終わると、ぱちぱちと拍手が起こった。
頬を紅潮させたダイアナが、戸惑いながらも笑顔でそれに応えている。
パトリックさんとクリスティーヌさんを見ると、嬉しそうに拍手をしていた。
なんだか胸がいっぱいになって、思わず涙ぐんでしまったことは、みんなには内緒にしておこう。




