【書籍化御礼SS】本の好みは人それぞれ
図書室の中をずっと歩き回っている女性がいる。
また騎士様目当ての人かなと思ったけど、どちらかといえば私の方を気にしているみたい。ときどき目が合うけど、すぐに逸らされてしまう。
もしかして、聞きづらいような本を探してるのかな。
本の好みは人それぞれ。当然、人にはなかなか言えないような本を好む人もいる。そんな人たちの気持ちに寄り添うのも、図書館員の大切な務めだ。
「よし」
私は女性の後ろに回り込み、そっと声をかけた。
「何かお探しですか?」
「ひうっ……!」
女性はびくっと肩を震わせた。
「驚かせてすみません。私は図書館員なので、よかったらお手伝いさせていただけませんか?」
「え…………」
どうしようかと迷っているようなので、静かに返事を待った。
おとなしそうな女性だけど、いったいどんな本を探してるんだろう。
ちょっと過激な恋愛小説あたりなら私にもわかるけど、マニアックな本は自信がない。ダイアナならわかるかな。
などと考えていたら、女性が蚊の鳴くような声で何か言った。
「……ぉ……ぃ」
「え? すみません、もう一度お願いします」
聞き直すと、彼女は顔を赤くして、ひと息に告げた。
「男同士の深い絆を感じられる小説はありますか?」
「ええ。もちろん、たくさんありますよ」
なにしろ、騎士や魔法使いがいる世界なので、訓練や任務を通じて固い友情を結ぶ小説はいくらでもある。
「たとえば、『ガーデラン砦の攻防』や『閉ざされた塔』などは、追い詰められた状況で絆を深めていく主人公と仲間たちが……」
「それは両方とも読みました! どっちも面白かったけど、そういうのじゃなくて……その、友情を超えた愛情というか」
「あ、BLですか」
「びーえる……?」
しまった。孫がよく読んでたから、つい。
ボーイズラブ、略してBL。男性同士の恋愛を描いた作品のこと。ちなみに女性同士はGLというそうだ。
孫が『あたし、実は腐女子なの』と、嬉々として教えてくれた。
『ばあばも読んでみる? ライトなやつ貸してあげるよ』
お母さんには内緒だからねと念を押され、きれいな顔をした男の子たちが表紙の小説を渡された。
正直、あまり期待せずに読んだのだが……涙が出るほど感動してしまった。
〝ライトなやつ〟だからなのか、性表現は少なく、耳の聞こえない強気な大学生と自信のないピアニストが、衝突しながらも次第に惹かれ合っていく描写が秀逸だった。
それからも、ライトなBL小説や漫画を何冊も貸してもらい、すっかりはまってしまった。孫に言わせると、私も立派な〝腐女子〟になったらしい。いくつになっても新しい扉は開くものだ。
この世界にも同性カップルは普通にいる。どちらかといえば、前世よりオープンかもしれない。街中で体を寄せ合って歩く同性カップルを何度か見たことがあるけど、特に注目されてなかった気がする。
さすがに過激な表現のある本は置いていないが、もしかしたらと匂わせる作品はたくさんある。ダイアナにも協力してもらって、おすすめの作品をかき集めた。
応接室に三人で集まり、テーブルにおすすめの本を並べた。
「わあ、こんなにあるんですね……!」
探していた女性は目を輝かせている。
「ただ、過激なものはないので、ご期待に添えられるかどうか……」
私の言葉を聞いた女性が頬を真っ赤に染めた。
「過激なものを求めているわけじゃないので、大丈夫です」
「でしたら、ここにあるのは内容も人物描写も素晴らしい本ばかりなので、自信を持っておすすめできます」
私は女性に本の紹介を始めた。
「まずは、『決戦前夜』から。敵地に攻め込む前夜、親友のふたりが語り合うシーンでは、隠していても互いに溢れ出る想いに胸が熱くなります」
「いいですねぇ……」
「ちょっと待ったー!」
本を手に取ろうとする女性を、ダイアナがすばやく制した。
「それもいいですが、こちらの『月の裏側』は、幼なじみが結婚するとわかったとき、自分の恋心に気づいた男性の心情が繊細に描かれていて、キュンキュンしますよ」
「キュンキュン……!」
「だったら、『禁断の果実を僕に』は? あれはキュンキュンどころじゃないでしょ。寮生活では見てはいけないと思いながらも――」
「館長さん! その先を言うのはずるいですよ」
「み、見てはいけないって、いったい何を……⁉」
なぜか張り合う私たちと、妄想を膨らませる女性。
「だったら、わたしも言っちゃいますけど、『ささやかな魔術』では愛する人のために、自分の魔力をすべて――」
「わーっ! ダイアナ、それはネタバレになっちゃう!」
「はっ、それもそうですね」
「いったん落ち着こう」
「うぅ、ネタバレが気になります……」
三人とも無言で並べられた本を見ていたら、「ふっ」と女性が笑みをこぼした。
「あ、すみません。なんだかおかしくて……実は、ここに来るまではドキドキしてたんです。こんなことを聞いたら馬鹿にされないかな、下品な女だと思われないかな、って。でも、おふたりが真剣に選んでくれて、嬉しかったです。本の知識もすごくて、さすが図書館員さんだなって思いました」
「いえいえ、そんな」
「つい白熱してしまって」
照れる私たちに女性は言った。
「時間はかかるでしょうけど、今回選んでいただいた本は、すべて読ませていただきます。どれも面白そうだし、一冊だけに絞る必要もないですもんね」
「確かにそうですね。すみません、むきになってしまって。ダイアナもごめんね」
「いえ、最初に口をはさんだのはわたしですから」
顔を見合わせ、ふたりして苦笑いを浮かべた。
今回選んだ本の題名と著者名は、すべて紙に書いて女性に渡した。
きっと、しばらくは図書館に通ってくれるだろう。
彼女がどういう順番で読むかは触れないことにしよう。
私とダイアナのあいだに、暗黙の了解が生まれた。
本日、MFブックス様から書籍発売!
応援してくださった皆様、ありがとうございました♬
☆ネットで読んだからいいやという読者様へ☆
書籍では書き下ろし『収穫祭』や、新エピソード『図書館の名前』の他、ギガ教が襲撃してくる前に起きた事件なども掲載していますよ~
( ̄▽ ̄)グフフ




