リクエストカード
「リクエストカード?」
アルベールさんが受付に置いてある紙を手に取り、不思議そうにつぶやく。
「あ、そこの張り紙に詳しいことは書いてあるんですけど」
階段の横の掲示板を指さすと、アルベールさんは後ろを振り返った。
「ああ、悪い。気がつかなかった。なになに……読みたい本のリクエストをお受けします。リクエストカードに詳しいことを書いて受付に提出してください。なお、ご要望に応えられないこともあります……」
アルベールさんは張り紙を読んで黙り込んでしまった。
「すみません。できるだけお応えしたいと思っていますが、購入するとなると予算の都合もあるので」
「いや。読みたい本をリクエストできるなんて考えたこともなかったから驚いただけだ。もう一度、カードを見せてくれ」
「はい、どうぞ」
リクエストカードを手渡すと、アルベールさんは確かめるように言う。
「書名と著者名と出版社を書けばいいんだな」
「その下に自分の名まえも忘れずに記入してください。本の用意ができたら、掲示板に貼っておきます」
「わかった。本はその日のうちに読まなくてもいいのか?」
「もちろんです。途中までしか読めなかったら受付で預かってもいいですよ」
「それは有難い。途中まで読んだ本を誰かが読んでいると辛いからな」
「そうですよねえ」
早い者勝ちだから仕方ないけど、楽しみにしていた本の続きが読めないのは辛いわよね。貸し出しは子どもの本だけで手いっぱいだし。
そういえば、前世の図書館で貸出と返却を自動で行うシステムを導入しているところがあったっけ。誰かそういう魔道具を開発してくれないかな。
***
リクエストカードは少しずつ集まってきたが、書いてある情報が曖昧なものや間違っているものが少なからずあった。
ナビに検索してもらえば、インベントリにあるかどうかすぐにわかるけど、さすがに書名と著者名くらいは正確に記入していないと探すのは難しい。
仕方がないので、リクエストカードを書いたひとに聞き取りをして、うろ覚えの著者名や、あやふやな内容から推理することに。
「階段から落ちて過去に戻る話なら、『深紅の復讐』じゃないですかね」
「でも、婚約者が親友と浮気するなら『偽りの愛』かも」
私とクリスティーヌさんがリクエストの恋愛小説について考えている横で、ダイアナとパトリックさんが推理小説について意見を交わしている。
「冒頭で次々と殺されるなら『ヘルシング城の怪人』だと思います」
「いや、作者はゴーなんとかだと言っていたから、ゴーン・グラハムの『青い古城』かもしれません」
どの本にもたくさん候補が挙がってくるので、絞り込むのが大変だった。
だからこそ、お目当ての本を探し当てたときには、リクエストしたひとを含め、皆で大いに喜んだ。全部機械に任せていたら、こんな気持ちは絶対に味わえないだろう。
読み終わった本は入口近くの棚に置いておけば、我先にと手が伸びる。
もっと本の入れ替えをしたほうがいいのかな。今度、ダイアナたちの意見を訊いてみよう。
今回、リクエストされた本を探してみたら、インベントリにない本が何冊かあった。どれも最近出版された本だったから、そろそろ自分で用意しろってことかもしれない。
確かに、フレイヤ様に甘えてばかりじゃ駄目だよね。よし、ここにない本はちゃんと本屋さんで購入しよう。
「次の休館日に、本屋さんにリクエストされた本を買いに行ってくるね」
「わたしも一緒に行きます!」
本屋と耳にしたダイアナが食いつく。
「駄目。ダイアナは結婚式の準備で忙しいでしょ。花嫁を勝手に連れて行ったら、私がキャサリンに怒られちゃうわ」
「うぅ……わかりました」
キャサリンはダイアナの母親の友人なので、積極的に母娘の連絡係になってくれている。ありがたいことだ。キャサリンがいなければ、ダイアナはとうに図書館を辞めていたかもしれない。
ダイアナもエリックさんも貴族なので、庶民の結婚よりも準備が大変なんだと思う。実際、婚約してからダイアナは休みのたびにどこかへ出かけている。
「どうせなら大きな本屋さんに行きたいな。自分の本も買いたいし」
「だったら、王都にある『エル・アテナ』がお勧めです。元は劇場だった建物が本屋になっているので、見たらびっくりすると思いますよ」
「劇場が本屋に? えー、想像できない」
前世でも劇場に行ったことなんて数えるほどしかないけど、あれが本屋になるなんて想像もつかないわ。
「他国の本も取り扱ってるから、きっとジャポールやタンザナイトの本もありますよ。三階には絵画も展示してあるので、ぜひ行ってみてください」
「へえ、なんか面白そうね。エル・アテナ、行ってみようかな」
「エルアテナ イク?」
「え?」
「イキタイ」
「えっ、ララとルルも行きたいの⁉」
「「ウン」」
びっくりした。この子たちが自分からどこかに行きたいなんて初めてじゃないかしら。きっと知っている場所なのね。
「いいわ。一緒に行きましょう」
「ヤッター!」
「ワーイ!」
こうして私と本の妖精たちは、王都にある本屋『エル・アテナ』に行くことになった。




