特集コーナー
日本の図書館では、よく特集コーナーが設けられていた。
旅行、料理、クリスマス、春の花など、テーマに沿って選んだ本を一か所に集めて展示するのが特集コーナーだ。
大体、部屋に入ってすぐのところにあるので嫌でも目につく。そうすると不思議なもので、普段なら手に取らないような本でも気になって読んでみたくなる。実によく考えられた演出だ。
私もやってみようかな……。
受付でぼんやりと何の特集にするか考えてみた。
「……いや、違うわね。大事なのは何の特集かじゃなく、私が何を展示したいかだわ」
私の頭には、すでに二つの題名が浮かんでいた。
一つ目は『海底探検』。
ガネット兄弟にあまり売れてないと聞いてから、どうにかしてたくさんのひとに読んでもらいたいと考えていた。
二つ目は『ウサギとカメ』。
こちらもガネット兄弟の著書だが、子ども向けの本なので一階には置いていないため、読んでみたいという声が多数上がっている。エメラルド王国初の〝絵本〟に、本好きの大人たちも興味津々のようだ。
「他に展示したい本は……」
「ナニナニ」
「テンジッテ?」
たとえ独り言であっても本と聞けば飛んでくる。さすが本の妖精たち。
「んー、あの辺に私が読んで欲しい本を展示しようかと思って」
私は図書室の入り口付近を指さした。
「ララモ!」
「ルルモ!」
「あなたたちもやりたいの? いいわよ」
「ヤッター!」
「テンジー!」
「その代わり、ひとり一冊だけ。今、一番読んで欲しい本をよーく考えて選んでね」
「ワカッタ!」
「エラブ!」
ララとルルは張り切って館内を飛び回っていたが、しばらくすると何も持たずに戻ってきた。
「どうしたの? まさか、もう飽きちゃった?」
「チガウ アンニ オネガイガアル」
あら、珍しく長文ね。
「インベントリニ イキタイ」
ああ、館内にはそこまで読んで欲しい本がなかったのね。
「そうねえ。ララとルルがインベントリに入ったのは、夏季休暇のときの一回きりだから、まだ読んでない本もたくさんあるだろうし……わかった! インベントリに連れて行ってあげる」
「「ワーイ!」」
妖精たちがクルクル回りながら喜んでいる。
まるで、遊園地に連れて行くって言われた子どもみたいね。
「あの、インベントリとは何ですか? すみません、聞こえたので気になってしまって」
二階から下りてきたパトリックさんが近づいてきた。
「そういえば、パトリックさんにはまだ話していませんでしたね。インベントリというのは、この図書館の倉庫のようなもので、私が一緒に行かないと入れない空間にあるんです」
「よくわかりませんが、大量の本がそこにあるのですね? 妖精に関する本なども」
じりじりとパトリックさんが迫って来る。どうやら彼も連れて行くことになりそうだ。
結局、クリスティーヌさんも参加したいというので、ダイアナも誘って、みんなでインベントリに入ることになった。
手を繋いで輪になり、一瞬でインベントリに転移した。
パトリックさんとクリスティーヌさんは、あんぐりと口を開けたまま、そびえ立つ書架を見上げている。
「パトリックさん、専門書はあっちの奥ですよ」
「行ってきます!」
「クリスティーヌさんは何を読みたいですか?」
「そうねえ……読んだことのない恋愛小説かしら」
「それならいいのがありますよ」
「あら、どんな?」
こそっと耳打ちすると、クリスティーヌさんの頬が赤らんだ。
一時期話題になったが、過激な内容のため発禁処分となった恋愛小説。おそらくここでないと読めないだろう。
妖精たちとダイアナはとっくに消えている。おのおの、本の大海原を泳いでいるに違いない。
私は恋愛小説や女性向けの本が置いてある場所にクリスティーヌさんを案内した。
「素敵! こんなにたくさんあるのね」
「ナビ、ソファを出して。疲れたら横になれるやつがいいわ」
『了解しました』
目の前に大きなソファがポンと出てきたが、クリスティーヌさんはさほど驚かなかった。インベントリに転移することに比べたら、どうってことないものね。
「座り心地が良さそうなソファですね」
「トイレと食事はここではできないので、戻りたいときは声をかけてください」
「わかりました」
他のひとたちは放っておいてもいいだろう。
私も面白そうな本を探しに、書架の波をかき分けていった。
予想通り、トイレと食事以外は一日中インベントリにこもった結果、それぞれ一番読ませたい本を選ぶことができた。
数日後。
〝図書館員が今、一番読んで欲しい本〟
と書かれた展示コーナーが、図書室の入り口付近に設置された。
そこに飾られていたのは――
『ウサギとカメ』
『失われた愛を求めて』
『妖精の見ている世界』
『海底探検』
『ヴェローニカの発明日記』
『賢者シャーヒルの数秘術』
『シャーヒルの神秘思想に迫る』
本棚のそばでは、図書館員たちが満足げに微笑んでいた。




