ドレスを買いに
「エリックさん、あなたダイアナのことをどうするつもり?」
「どうするって……」
「あの子はもうすぐ行き遅れと言われる歳になるんですよ!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよぉ」
私とキャサリンに詰め寄られ、エリックさんは壁際まで後退した。
彼は黒曜騎士団に所属しているオルレアン男爵家の次男。茶髪に青い目をした好青年だ。ダイアナとはかなり親しくしているが、なぜか付き合っているわけではない。
そんな二人をどうにかしたいと焦れた私たちは、若い騎士と話をつけるべく、図書館の三階へと連行してきたのだった。
「だいたい、三階なんていつ出来たんですか⁉」
「そんなことどうでもいいから、さっきの質問に答えてください」
「そうですよ。あなたが駄目なら、べつに他の騎士の方でもいいんですから」
「「えっ⁉」」
キャサリンが物騒なことを言い出した。ダイアナに図書館の仕事を紹介した手前、いつまでも結婚しないことに責任を感じているのかもしれない。
「そんなこと言わないでください。僕だって、いずれはダイアナさんと結婚したいと思っています! だけど、彼女のほうはどう思ってるかわからないので……」
「あなた達は相思相愛なんだから、あなたが結婚を申し込めばいいだけのことでしょ!」
グダグダ言っているエリックさんに、キャサリンが活を入れた。
「私もそう思うわ。ダイアナが何か言うのを待ってたら、いつまで経ってもこのままよ」
「館長さん……そうですよね。あんなに素敵なひとなのに、背が高いというだけで嫌な目にあってきて、読書という素晴らしい趣味さえ、父親に理解してもらえなかったと聞きました」
「そうなのよ。あんなにいい子なのに……」
キャサリンがため息をつく。
「おまけに、自分のほうが三つ年上ということも気にしてるから、エリックさんが相当がんばらないと結婚するのは難しいと思うわ」
「そんなこと気にすることないのに……」
「そうね。だからこそ、自分は誰よりも愛されてるんだって、ダイアナに自信を持たせてあげて欲しいの。これは、エリックさんにしかできないことなんだから」
キャサリンも強くうなずいている。
「わかりました。今まで嫌われるのが怖くて踏み込めなかったけど、もっと勇気を出してみます!」
「そうよ、その意気よ!」
「頑張ってね、エリックさん!」
「あとはプロポーズのタイミングね……もうすぐ騎士団のジョディさんの結婚式があるから、そこでどうかしら?」
「あら、それはいいわね。素敵な結婚式って、未婚の女性の憧れですもの」
私とキャサリンはキャッキャと盛り上がる。
「あの、すぐにプロポーズしないなら、僕はそれまでどうすれば……?」
「エリックさんはダイアナを褒めまくって、うっとおしいくらい愛情をアピールしてちょうだい。そうして徐々に自信を取り戻させてからプロポーズしましょう!」
「ダイアナがどんな反応をしても、めげずにアピールし続けるのよ。あなた、ヘタレだからちょっと心配だわ」
「うっ、頑張ります」
ヘタレと言われて、エリックさんがへこんでいる。
「そういえば、ご両親にダイアナのことは話してるの?」
「いえ、まだ正式にお付き合いしているわけじゃないので」
「だったら早めに結婚したいひとがいるって伝えておいて。もし、ご両親が反対ならプロポーズは中止しなきゃ」
「うちの方が家格が下なのでそれはないと思いますが、念のため実家に帰って話をしてきます」
「うん、よろしくね」
「上手くやるのよ」
「はい!」
***
ジョディさんの結婚式が近づいてきたので、私とダイアナはドレスを買いに王都に行くことになった。
王立図書館に転移したのは二度目だ。相変わらず煌びやかな図書館だが、今回はすぐに外に出てドレスショップに向かった。
華やかな街のショーウインドウには、素敵なドレスや豪華な宝石が飾られていて、通りを歩く人々の目を楽しませている。
「お金は多めに持ってきたけど足りるかしら。予算内で買えるドレスがあるといいんだけど……」
「心配しなくても大丈夫ですよ。このお店はちょっと特別なんです」
ダイアナは大通りにある高級そうな店の前で立ち止まると、ガラスのドアを開けて店の中に入った。
広い店内には、ドレスの他に靴やアクセサリーなども飾られていて煌びやかだ。赤いドレスを着た女性が、ソファに座ってデザイン画を見ながら店員さんと話をしている。
「いらっしゃいませ、ダイアナ様。お久しぶりでございます」
「マダム、今日はこの方がパーティーで着るドレスを見に来たの」
「さようでございますか」
黒のドレスを身に纏ったスレンダーなマダムが、私に笑顔を向けた。
「当店にお越しいただき、ありがとうございます。ご希望のお色やデザインなどはございますか?」
「いえ、特にはないのですが……」
恥ずかしかったけど、正直に予算を伝えると、マダムは私たちを二階に案内してくれた。
白い螺旋階段を上りきると、若い女性たちが所狭しと並べられたドレスを楽しそうに選んでいた。
「一階とは全然雰囲気が違いますね」
「高位貴族の女性は同じドレスを何度も着ることはありません。その反面、経済的に困窮している貴族は、パーティーで着るドレスを新調する余裕がない。そこで、不用になったドレスを買い取り、装飾などに手を加えたものを販売してはどうかと考えたのです。年配の方には抵抗があるようですが、若いお嬢様方には喜んでいただけています。ここにあるドレスなら、すべてお客様のご予算内に収まると思いますよ」
つまり、二階はリサイクルショップなのね!
もちろん私も抵抗はない。前世でもよく利用していたもの。このマダム、かなりのやり手ね。
「サイズはある程度は直せますので、好きなデザインがあればおっしゃってください」
「ありがとうございます」
私とダイアナは、じっくりとドレスを見て回った。どれも新品同様だ。
「こんなにたくさんあると迷っちゃうわね」
「そうですねえ……あ、これなんかどうですか?」
ダイアナが手に取ったのはレモンイエローのドレス。袖の部分がレースで、胸元やチュールのスカートに美しい花柄の刺繍が施されている。
「わあ、可愛い」
「きっと似合いますよ」
「じゃあ、これにしようかな」
「まだ決めちゃ駄目ですよ! もっと他のも見ないと」
ダイアナは私に似合いそうなドレスを選んでくれた。
オフショルダーのピンクのドレス、複雑な刺繍が施された水色のドレス、柔らかそうなシルクシフォンの赤いドレス。
ため息が出るほど美しいドレスを次々と試着し、お姫様になった気分だ。
悩んだ末に、最初にダイアナが選んでくれたレモンイエローのドレスに決めた。少し可愛すぎる気もするが、外見は若いんだから挑戦してみよう。
「わたしもそれが一番似合うと思います」
「じゃあ、次はダイアナのドレスを選ぼう!」
「いえ、わたしは……」
「お願い! 試着するだけでもいいから」
「うっ……わかりました」
ダイアナのクローゼットにあるドレスは、どれも地味な物だと知っている。顔もスタイルもいいんだから、私のドレスを選んだセンスを自分にも発揮して欲しい。
だが、思った通りというか、ダイアナが選んだのはチャコールグレーのシンプルなドレスだった。
「それじゃないでしょ」
私はダイアナが選んだドレスを取り上げ、ロイヤルブルーのドレスを渡した。
「な、なんで」
「本当はこっちのドレスのほうが気に入ってたくせに。じっと見ていたの知ってるんだから」
「こんな綺麗な色、わたしに似合うわけありません」
「いいから着てみて!」
数分後、ダイアナが恥ずかしそうに試着室から出てきた。
「わお……!」
華やかなロイヤルブルーのAラインのドレスは、ダイアナのスラリとした体形やブルーグレーの目によく似合っていた。
オフショルダーなので、ほっそりとした首すじや形の良い鎖骨が見えるのもいい。エリックさんが見たらメロメロだろうな。
私は店員さんに頼んで、ダイアナの茶色の長い髪をアップにしてもらった。
「素敵! すっごく似合ってる!」
「そ、そうでしょうか。わたしには派手なような……」
「そんなことない」
私は大きな姿見の前にダイアナを押し出した。
「ほら、ちゃんと自分の目で見て」
「え……これが、わたし……?」
ダイアナは不思議そうに鏡に映った自分を見ている。
「そうよ。華やかなドレスがスタイルの良さを際立たせてるでしょう。初めて会ったときは、少し猫背で、自信がない表情をしていたけど、今は姿勢が良くなったし、表情も明るくなった。きっと今の姿が本来のあなたなのね。とても綺麗よ」
「館長さん……」
「本当にお似合いです。お美しくなられましたね」
「マダム……お二人とも、ありがとうございます!」
そう言ってダイアナは、まぶしいほど晴れやかな笑顔を見せてくれた。




