レオンとテラの畑作り
レオンの朝は忙しい。
朝起きてすぐに店長のハリーと市場に仕入れに行き、帰ってきたら店内の掃除と仕込み。それが終わってから、やっと朝食だ。
だが、レオンに不満はない。ハリーの作るおいしい朝食をお腹いっぱい食べられるし、開店までの時間、土の妖精テラと話をすることができるからだ。
レオンの勤めているカフェ「ラピスラズリ」は、図書館の庭の一角にある。
テラは、この図書館の館長アンの契約妖精で、彼女に言われて店の周りを綺麗にしてくれている。
レオンは昔から妖精を見ることができたが、亡くなった母との約束を守り、誰にもそのことを言わなかった。
だが、ハリーとアンが楽しそうにテラと話しているのを見てから、胸のなかがモヤモヤしていた。
(俺だって妖精が見えるのに、なんで言っちゃ駄目なんだろう)
モヤモヤはどんどん大きくなっていき、ある日ついに爆発した。
「ずるいよ! 俺だってテラとおしゃべりしたいのに!」
「レオン、もしかしてテラが見えるのか?」
ハリーに訊かれて、レオンは小さくうなずいた。
「どうして今まで言わなかったんだ?」
「お母さんが病気で亡くなる前に、妖精が見えることは誰にも言わないって約束したから。でも、ハリーと館長さんがテラと話しているのを見て、なんで俺だけ駄目なんだってモヤモヤして……ずるいなんて言ってごめんなさい」
「いいのよ。教えてくれてありがとう」
アンがレオンを気遣う。
「だけど、お母さんとの約束、破っちゃいました……」
「大丈夫よ。きっとお母さんが生きてたら『信頼できるひとになら話していいよ』って言うはずだもの」
「そうでしょうか」
「うん。絶対そうだよ」
(そうかな……うん、きっとそうだ。お母さんは俺を守るために秘密にしなさいって言ったんだから、秘密を打ち明けるほど信頼できる人達に会えたことを喜んでくれるはず)
「テラ、これからは俺ともおしゃべりしてくれる?」
「ウン」
レオンの胸のなかのモヤモヤは、いつのまにか消えていた。
***
レオンは店の裏に畑を作ろうと思い立ち、ハリーとアンに許可をもらった。
(孤児院の畑で野菜の収穫は手伝ってたけど、一から作るのは初めてだ。上手くできるといいな)
「テラ、畑作りを手伝ってくれる?」
「イイヨ」
「まずは土を耕さないとな。雑草や小石を取り除いてから、土を掘り起こして、次に鍬を使って土の粒子を小さくするんだよね。孤児院で先生たちに教えてもらったんだ」
「テラガヤ――」
「レオン! じゃがいも、もっと用意してくれ」
「あ、うん。じゃあね、テラ」
レオンが店の奥に引っ込むと、ハリーがテラに言う。
「ひとりでやるなんて言うなよ。あいつはテラと一緒にやりたいんだから」
「ナンデ?」
「人間ってのは、友だちと協力して何かをするのが楽しい生き物なんだ」
「トモダチ?」
「仲が良いやつのことさ」
***
ぽかぽかと春の日差しが降り注ぐ朝。レオンとテラは店の裏で土を耕す作業を始めた。せっせと石やゴミなどを取り除きながら、雑草を抜いていく。
「ここの雑草って、すごく抜きやすい。思ったより早く終わるかもね」
とレオンが笑顔を見せる。
前もって大きな石を粉砕し、土を柔らかくしておいて良かったとテラは思った。
「トモダチ」
「なんか言った?」
「ウウン」
雑草や石を取り除き終わると、次の作業にかかった。
大きなシャベルで一生懸命土を掘り起こすレオン。テラもレオンと同じスピードで土を掘り起こしていたが、ある地点で動きがピタリと止まった。
「どうしたの?」
「ココ ウマッテル」
「何が?」
「ツボ」
「壺? へえ、何か入ってるのかな」
「ウン」
「ほんと? じゃあ、掘り出してみようか!」
レオンが弾んだ声を出す。
「テラガ ホル」
「いいの?」
「ウン」
返事をするなり、テラは土の中へ姿を消した。
やがてポコポコと土が盛り上がってきて、壺らしき物と共にテラが地中から飛び出した。壺は泥だらけだが、不思議なことにテオはまったく汚れていない。
泥を落とすと、なかなか立派な壺だった。地肌は濃い茶色で、口は小さく、胴体が大きくふくらんだ形をしている。
「うわあ、古そうな壺だね……どうしよう、開けてみる?」
「ウン」
「よし……じゃあ、開けるよ?」
レオンはごくりと唾を飲む。
(何が入ってるんだろう。骨とかだったらやだなあ)
ドキドキしながら壺にはめてあった硬い蓋を開けると――ぎっしりと金貨が詰まっていた。
「うわあ! テラ、見て! これ、全部金貨だよ」
「ウン」
「凄い。いったいいくらあるんだろう……ハリーと館長さんに知らせなきゃ! テラ、館長さんを呼んできて。俺はハリーを呼んでくる!」
「ワカッタ」
レオンは店の二階に駆け上がり、まだ部屋で寝ていたハリーを叩き起こした。
「うーん、なんだあ……」
「起きてよ! 大変なんだ。土の中から壺が!」
「つぼぉ……?」
「金貨がいっぱい入った壺が出てきたんだよ!」
「なんだって⁉」
レオンがハリーを連れて店を出ると、ちょうどアンとダイアナが図書館から出てきたところだった。
「館長さん!」
「ちょうど良かったわ。私たちも連れていってくれる?」
「はい! こっちです」
レオンに先導され、みんなでゾロゾロと店の裏に向かった。
「うわっ、ほんとにある!」とハリーが声を上げた。
「ずいぶん古そうな壺ね」
「そうですね。百年くらい経ってそうです」
壺を皆で囲み、順番に中身をのぞき見た。
「どれくらい入ってるんですかね?」
「下のほうは石だったりするかもよ」
ダイアナとアンがひそひそと話をする。
「出してみましょうか? いいよな、レオン」
「いいよ。俺も気になる」
ハリーが壺を持ち上げて傾けると、中に入っていた物がジャラジャラと音を立てながら地面に落ちた。
「金貨だ」
「金貨ね」
「金貨ですね」
同じ言葉を繰り返す三人にレオンが訊く。
「これ、どうしたらいいんでしょう」
「見つけたのはレオンだけど、この土地の持ち主の物になるんじゃないかな。館長、この土地は館長の物ですよね?」
ハリーに訊かれて、アンは首を傾げる。
「どうなんだろう……ちょっと待ってね。ナビ、この土地の所有者って誰なの?」
『土地の名義は王家です』
「王家だって」
「「「王家?」」」
ナビの声が聞こえない三人が声を上げた。
「館長さん、どういうことですか⁉」
「落ち着いて、ダイアナ。私だって知らなかったんだから。あ、だから税金の徴収とか来ないんだ」
「もう、なにのんびりしたこと言ってるんですか!」
「この金貨、王家に渡したほうがいいんじゃないですか?」
青い顔をしたハリーが言う。
「うーん、それはそれで面倒なことになりそうだし……レオンが見つけたんだから、レオンの物にしちゃえば?」
「とんでもない! 王家の物なんて怖くてもらえませんよ!」
「どうせバレないから大丈夫よ」
「無理です!」
「じゃあ、確認してくるからちょっと待ってて」
アンは図書館の中へ引っ込み、しばらくすると笑顔で戻ってきた。
「大丈夫、問題ないわ。名義は王家だけど、この土地は不可侵領域だそうよ」
「「「不可侵領域……?」」」
またしても三人の声が揃った。
「ダイアナはどう思う?」
「館長さんがそう言うなら大丈夫だと思いますけど……」
「ハリーは? まだ心配?」
「まあ、せっかくテラが見つけたんだし、罪にならないなら……」
皆の視線がレオンに集まる。
「……わかりました。本当に捕まったりしませんよね?」
「大丈夫。約束するわ! 不安なら使い道が決まるまでここに埋めておけば?」
「でも、ここは野菜畑にしたいから」
「じゃあ、あの辺ならいいかしら」
アンが店と畑のあいだを指さすと、ハリーが金貨を拾い集めて壺に戻した。
「テラ、この下に壺を埋めてくれる? すぐに掘り出せないくらい深いところにお願いね」
「ワカッタ」
テラが壺の上にピョンと飛び乗ると、壺がみるみる地面に沈んでいく。
まったく見えなくなったと思ったら、テラだけが地上に戻ってきた。
「ありがとう、テラ。レオン、今後お金が必要になったときは、いつでもテラに言って取り出しなさい。私に報告はしなくていいから」
「わ、わかりました。ありがとうございます! ありがとな、テラ」
「ウン」
このあと、テラはアンに魔力をたくさんもらい、ハリーとレオンに美味しいクッキーをお腹いっぱい食べさせてもらった。
よく働いてよく食べた一日だったと、テラは思った。




