新たな妖精
ダイアナが変わったのは、あの襲撃事件がきっかけなのかもしれないと、ふと思った。
ギガ教を激しく罵ったかと思えば、震えていた私の手を握り「わたしがついています」と励ましてくれた。ダイアナだって怖かったはずなのに。
それに、男の人と話すのが苦手だと言っていたのに、騎士団との話し合いでもきちんと自分の意見が言えていた。
最近、新人騎士のエリックさんとはよく二人で話をしてるし。
いつのまにか、苦手なことを克服して、強さと優しさを兼ね備えた女性に変わりつつあるのね。
それにしても、エリックさんとはどうなってるのかしら。キャサリンから紹介されたお嬢さんだし、異性関係はきちんと把握しておくべきよね。
「ダイアナは図書館の外でもエリックさんと会ったりしてるの?」
「そうですね。たまにお食事に行ったりしてます」
「……もしかして、お付き合いしてるの?」
「ち、違います! 彼とは良いお友だちです」
「あら、そうなの?」
「前に〈こどもの部屋〉の家具を設置してもらってから、少しずつ話をするようになったんです。エリックさんは新人騎士で、わたしも似たような立場だったから、他の人達より話しやすかったんですよね。それに、明るくて優しくて、本の知識もあるから一緒にいるとすごく楽しくて――」
ダイアナがニヤニヤしている私に気づいた。
だってねえ、これって馴れ初めを聞いてるようなもんでしょ。
「と、とにかく、ただのお友だちなので誤解しないでください! だいたい、黒曜騎士団のひとって女性に人気があるんですよ。若くて可愛い子がいっぱい寄ってくるのに、わたしみたいな年増と付き合うわけないじゃないですか」
「年増って……確かに十代と比べたら年増でしょうけど、あなたまだ二十三でしょ。 エリックさんも同じくらいじゃなかった?」
「三つ下です……」
「それくらい気にすることないわよ。いい? 私が言うのも変だけど、若ければいいってもんじゃないのよ」
私が、騎士団の人達が三人娘から逃げ回ってたことを話すと、ダイアナは楽しそうに笑った。
エリックさんがダイアナに好意を持ってるのは明らかなのに、ダイアナは自己評価が低いから彼の気持ちに気づけないんだわ。
少しだけエリックさんを煽ってみようかしら……。
自信のない女性が年下の男を口説くのはハードルが高いから、彼にがんばってもらいましょう。
***
涼しくなってきたので、また庭の草むしりをすることにした。
石像の周りだけはがんばって抜いたのに、いつのまにかまた生えてきている。しぶとい雑草め。
「全部スポッと抜ければいいんだけど、しつこいのがあるからなあ。これもっ……!」
しぶとい雑草を引っ張っていると、目の前に赤いとんがり帽子を被った妖精が、突然目の前に現れた。ララたちと同じ手のひらサイズだ。羽がないせいか、ちっちゃくなった人間の男の子みたい。
「きみ、土の妖精だよね?」
土の妖精には羽がなく、地中を泳ぐように移動すると『世界妖精図鑑』に書かれていた。
「テツダウ」
「雑草を抜くのを手伝ってくれるの?」
「ウン」
「嬉しいな。じゃあ、この赤い根っこのがなかなか抜けないから、お願いしていい?」
「ワカッタ」
土の妖精ってずいぶん親切なのね。
妖精が土の上を走ると、踏まれた土がボコボコと盛り上がり、あんなに抜けなかった雑草が、土からポンッと飛び出した。
タッタカ ポコポコ ポンッ! と繰り返しているうちに、雑草の山ができた。
「もうそのへんでいいよ。あんまりいっぱい抜くと片付けるのが大変だから」
「ワカッタ」
「ありがとう。おかげで助かったわ」
「ウン」
「お礼がしたいけど、何がいいかなあ」
「マリョク」
「魔力が欲しいの?」
「ウン」
「ちょっ、ちょっと待ってね。ララ、ルル、こっちに来てー!」
「ナニー」
「ヨンダー」
すぐに館内から飛んできてくれた。ふたりともいい子ね。
「聞きたいことがあって呼んだの。この妖精さんがたくさん雑草を抜いてくれたんだけど、お礼に私の魔力が欲しいんですって。あなたたちと契約してるのに、他の妖精に魔力をあげてもいいの? もちろん、ララとルルが嫌ならあげないけど」
「アゲテモ イイヨ」
「ケイヤク シナイト」
「ええっと、魔力はあげてもいいけど、契約しないと駄目ってことね。土の妖精さんも聞いてたよね? 契約しないと魔力をあげられないんだって」
「スル」
「え、契約するの?」
「ウン」
「そんな簡単にしちゃっていいのかなあ……」
「イイヨ」
「イイヨ」
「うーん、ララとルルはもう戻っていいわ。教えてくれてありがとう」
ふたりが館内に戻ったところで、私は土の妖精にもう一度確認した。
「本当にいいのね?」
「ウン」
「わかった。じゃあ、名まえをつけなきゃ。そうねえ……テラはどうかな。地球って意味があるらしいし、ララとルルと同じ二文字だから」
「テラ!」
妖精がピョンピョンと跳ねたので、赤いとんがり帽子が揺れた。どうやら気に入ったみたいね。
『契約が成立しました』
とナビの声が聞こえた。
「契約が成立したよ。これからよろしくね、テラ」
「ヨロシクネ」
「これからは、庭の整備を頼んでもいいかしら」
「イイヨ」
「特に、フレイア様の像の周りと、あっちにあるカフェの周辺を中心に綺麗にしてくれる?」
「ウン」
図書館の入り口付近は何もしなくても綺麗なので、気になるところをやってもらおう。
次の日、店長のハリーにテラのことを紹介したら、
「ララたちとはまた違った可愛さですね」
と、にやついていた。
「これからは、テラが店の周りを綺麗にしてくれるから」
「ほんとに? ありがとう、テラ。俺とも仲良くしてくれよ」
「ウン イイヨ」
「お、いい子だなあ。そうだ! ちょっと待ってて」
ハリーさんは店の中に戻ると、何かを手にして戻ってきた。
「チョコチップクッキーだ。食べな」
「あ、テラはそういうのは……」
食べないと言おうとしたが、テラの目はチョコチップクッキーに釘付けだった。
「テラ、食べたいの?」
「ウン」
「ミルクも飲むか?」
「ウン」
テラは美味しそうにクッキーをほおばり、ストローでミルクを飲んだ。
ララとルルが魔力にしか興味がないから、妖精はみんなそういうものだって思い込んでたわ。考えてみたら、シルキーはミルクや甘い物が好きなんだから、妖精によって好みが違うってことよね。
「これからは、お礼に俺がおやつを用意するから、いつでも来いよ」
「ウン」
ハリーの言葉に、ほっぺたにクッキーのかすをつけたテラが、嬉しそうにうなずいた。




