カフェ・ラピスラズリ オープン
図書館の開館と同時にカフェ・ラピスラズリがオープンすると、近所の人たちや図書館の利用者たちが、お祝いがてら駆けつけてくれた。
私は何かあれば助けられるように店の中で待機中だ。
ハリーとレオンが店頭に立ち、お客様たちに明るく声をかけている。
「いらっしゃいませ。カフェ・ラピスラズリへようこそ!」
「順番にご案内しますので、並んでお待ちください」
客は店内に入ると、まず窓の大きさに驚く。天井も高くしたので、かなり開放的な雰囲気になった。
「まあ、素敵な眺めね」
「いい景色だな」
鮮やかな緑が窓いっぱいに広がっていて、客の目を楽しませてくれる。
最初に窓際の席が埋まったのは予想通りだけど、真ん中の席でも景色は十分楽しめるので文句を言うひとはいない。
レオンがオーダーを取り、ハリーが手早く料理を用意する。なかなか息の合ったコンビだ。たまにオーダーミスや会計が滞ることがあったので、そこは私がカバーした。
「ママ、これおいしいね」
「ほんとね、すごく美味しいわ」
「ほお、味わい深いコーヒーだな」
「わたし、チョコレートケーキも頼もうかしら」
お客様たちの声に耳をすませていると、気になる会話が聞こえてきた。
「冷たいコーヒーもあるわよ。珍しいわね」
「ほんと? 冷たいものが飲みたかったから、それにしてみようかな」
「よろしかったら、コーヒーフロートというものもありますよ。アイスを入れるので、そのぶん値段は高くなりますけど」
さりげなくレオンが勧めると、女性客が驚いた。
「アイスをコーヒーに入れるの⁉」
エメラルド王国では冷たい飲み物といえばジュースが定番で、コーヒーはホットしか飲まない。そう聞いたときは、私のほうが驚いた。
「信じられない! 夏のカフェでアイスコーヒーが飲めないなんて!」
私はハリーにアイスコーヒーを提案し、さらにそこにバニラアイスを浮かべてみせた。
「とにかく飲んでみてよ、絶対美味しいから! アイスは最初にスプーンで食べてから、少しずつ混ぜるのがオススメよ」
クリームソーダと違って泡がこぼれる心配もしなくていいし、甘い物が食べたいけど飲み物も欲しいってときは、コーヒーフロートが一番だと思うの。ケーキとアイスコーヒーを頼むよりは安上がりだしね。
ハリーは抵抗があったようだが、コーヒーが苦手なレオンは「冷たくて甘い! これなら俺でも飲める」と喜んでいた。
それならとハリーが渋々メニューに加えてくれたけど、誰も飲まなかったらどうしようって、ちょっと不安だったのよね。
だけど安心したわ。さっきの女性がコーヒーフロートを飲んでるのを見て、他のお客様も同じ物が飲みたいと注文してる。きっと夏の定番になるはずよ!
店の外で待っているひともいるので、気を利かせて早めに席を立つひとが多い。
「また来るわね」
「美味しかったよ」
「「「ありがとうございました!」」」
みんなが笑顔になる瞬間がたまらない。
結局、閉店するまでお客様は途絶えず、開店初日は大盛況だった。
***
「ハリー、レオン、お疲れ様」
「色々とありがとうございました」
「すみませんでした。俺、ミスばっかりして……」
レオンが落ち込んでいる。
「いや、俺も思ったより動けなかった……」
今度はハリーまで。
「なに言ってるの。二人ともよくやったわよ! まだ初日なんだし、あんなにたくさんのひとが来たんだからミスするのは当然よ。みんな美味しいって喜んでたじゃない」
「館長……!」
「館長さん!」
「約束通り四日間は手伝うから、明日もがんばりましょうね」
「「はい!」」
あれ? おかしいな。今世は、のんびり手を抜いて生きるはずだったのに……。
まあ、手伝うのは今だけだし、そのうち落ち着くでしょう。図書館のほうもダイアナに任せきりじゃ悪いしね。
こうして私は四日間めいいっぱい働いた。
当然、休みの日は何もせずに部屋でゴロゴロして過ごした。やはり、こうでなくては。
ダイアナもひとりで一階と二階を行ったり来たりしていたので疲れたみたいだから、元気が出るように特別手当でも出してあげようかな。いや、それよりもインベントリに一日中入れてあげたほうが喜ぶかも。
予想通り、ダイアナはインベントリにこもることを選んだ。
目がらんらんと輝いていて、ちょっと怖かった。
その後はハリーたちに店を任せていたけど、オープン当時よりは客足が落ち着いてきたせいか、二人にも余裕が出てきたようだ。
客の少ない時間を狙って店を訪れると、レオンが私の好きな席に案内してくれる。
窓際でコーヒーを飲みながら、窓の外の青葉若葉に癒される至福のひととき。
(あ、アルベールさんに見つかっちゃった。カイはララたちに会いに図書館に行ったわね)
剣の妖精と本の妖精。真逆だと思うのに、なぜか仲が良い。まあ、一つのものを突き詰めてるところは似てるのかもね。
アルベールさんが店内に入ってきて、私の席の向かい側に座った。
「図書館に来たのに、なんでいつもそこに座るんですか?」
「俺はこの店のチョコレートケーキが気に入ってるんだ」
「アルベールさんって、意外と甘い物好きですよね」
「顔に似合わずって言いたいんだろ」
「そんなことないですよー」
こんなふうに、くだらないことを言いながら二人で過ごす時間も楽しい。
アルベールさんといると、同じ本好きだからか、お父さんを思い出すからか、自然と力が抜けて甘えたくなる。いい年をして、おかしいわね。
「最近は変わったことはないか?」
「特にありません。平和なものですよ」
「それは良かった。アンは図書館の外に出るとスキルは使えないんだろ?」
「そうなんです。門から一歩出るだけで、ナビも返事しなくなるし。あ、そういえば図書館の中なら外国でも通じたわね」
「……いつ外国の図書館に行ったんだ?」
しまった! 密出国って違法だよね。
「えーっと、いつだったかなあ」
「はあ……今のは聞かなかったことにしよう」
「そうしていただけると助かります」
「とにかく、外出するときは気をつけろよ」
「お父さんは心配性ね」
「誰がお父さんだ」




