カフェを作ろう
夏季休暇六日目。
門の外で待っていると、アルベールさんとハリーさんの姿が見えた。
「こんにちは。来てくださってありがとうございます」
「あ、どうも」
ハリーさんがお辞儀をすると、赤いくせっ毛がフワリと揺れた。
「こんなところで待ってなくていいのに」
とアルベールさんが言う。
「夏季休暇中はバリアを強化しているので、私と一緒じゃないと入れないんですよ」
「そうか」
「カンガエレバ ワカルダロ」
剣の妖精カイが、ぺしぺしとアルベールさんの頭を叩いている。
「バリアって?」
ハリーさんの足が止まった。
「まあ、その話はあとで……」
「いや、なんか気になるんですけど」
「心配すんな、行くぞ」
「でも、バリア……」
「怖くない、怖くない」
「ええっ……?」
私たちは協力してハリーさんを門の中に引きずり込んだ。
***
「どうぞ、こちらへ」
「は、はい。失礼します」
「へえ、俺もここに入るのは初めてだ。中はこんな風になってるんだな」
受付の奥の部屋に案内すると、アルベールさんまで一緒になってソワソワしている。カイはララとルルに会いに図書室のほうへ行った。
ソファで紅茶を飲みながら、私は魔法でバリアを張れることをハリーさんに教えた。
「魔法が使えるなんて凄いですねえ」
「このことは秘密なので、本当は契約してからじゃないとお話できないんですけど……」
私は意味ありげに言葉を濁した。
「契約って?」
「実は、この図書館の敷地にカフェを作ろうと思ってるんです」
「じゃあ、紹介したい店って」
私がコクコクとうなずくと、ハリーさんはアルベールさんの顔を見た。
「まあ、そういうことだ」
アルベールさんがハリーさんの肩をポンと叩く。
「そうだったんですね。それで、カフェっていつ頃完成するんですか? さすがに何か月も無職ってわけには――」
「それは大丈夫です。すぐに作りますから!」
「だけど、まだ何も……」
「アン、ハリーに直接見てもらったらどうだ?」
確かに、すぐに作りますなんて言われても不安になるよね。
「わかりました。じゃあ、外に出ましょうか」
再び図書館の外に出て、カフェを建てる予定の場所に二人を案内した。
「図書館の斜め前の、この辺りがいいんじゃないかと思うんですけど、どうですか?」
私はハリーさんに尋ねた。
「いいですね。ここからだと庭が一望できるから、窓が大きいほうがいいな」
わかりました。ナビ、ここに窓が大きくてお洒落な二階建ての別館を建てて」
『了解しました』
次の瞬間――
「うおっ⁉」
「すっげえ……」
ハリーさんが驚きの声を上げ、アルベールさんは目を丸くした。
草の生い茂っていた場所に、二階建ての立派な建物が現れた。
青い屋根、クリーム色の外壁、大きな窓。周りの景色にも溶け込んでいて違和感がない。
「すごい! 想像以上に素敵!」
「おお、すげえな、アン!」
「ハリーさんはどうですか? 気に入りましたか? ……ハリーさん?」
「おい、ハリー! しっかりしろ」
「あ、すみません。ちょっと、何が起きたのか……」
混乱しているみたいね。無理もないわ。
「とりあえず、中に入ってみましょう」
「そうだな。ほら、行くぞ」
まだ呆然としているハリーさんをアルベールさんが引っ張っていく。
建物のドアを開けると、何もない広々とした空間が広がっていた。
「うわあ……」
ハリーさんは自分から足を踏み入れた。
キョロキョロと中を見回し、嬉しそうに言う。
「窓がすごく大きいですね」
「ふふ、ハリーさんの希望通りに建てましたから。どうです? ここでカフェをやってみたくなりましたか?」
「は、はい。もちろん、やりたいです!」
「やったー!」
「これで一件落着だな」
皆で顔を見合わせて、にこやかに笑う。
「それで、さっきも言ったように、これ以上は契約しないと進められないんですけど……」
「します! 契約します!」
「ほんとに?」
「すぐに営業できるなら何の問題もありません。それどころか、こんな素敵な店を任せてもらえるなんて夢のようです」
よっしゃ! そうと決まれば、ハリーさんの気が変わらないうちに。
「ナビ、テーブルと椅子を三脚、それに契約書を出して」
『了解しました』
ボン、と丸テーブルと椅子が出てきたが、ハリーさんはもう驚かなかった。よほど建物が出てきたときの衝撃が大きかったのだろう。
ダイアナとの雇用契約と違い、ハリーさんとは賃貸契約だ。この店は図書館の物だから、賃料をもらってハリーさんに貸し出す契約を結ぶ。
「まず、賃料のことなんですが」
「……はい」
ハリーさんがゴクリと唾を飲む。高いんじゃないかと心配しているのだろう。
「一般的に、賃料は売上の一割以下に抑えるのが理想だと聞いています。ということは、売上が月に金貨一枚だとしたら、賃料は小金貨一枚以下が望ましいってことですよね」
金貨が約十万円、小金貨が約一万円だからね。
「そうですね」
「普通は最初から賃料が決まってるんでしょうけど、図書館の敷地にあるカフェなんて、どれくらいお客さんが入るかわからないじゃないですか。全然来ないかもしれないし。なので、売上が落ち着くまでは、金貨一枚の売り上げにつき銀貨七枚を賃料としていただくというのはどうですか?」
つまり、決まった金額じゃなくて、売上の七パーセントを家賃としていただくってこと。なんかフランチャイズのロイヤリティみたいだけど、これなら売上が悪くてもハリーさんの負担にならないんじゃないかな。
「そんなに安くていいんですか?」
「大丈夫なのか、アン? ハリーに気を遣ってるんじゃ」
「そんなんじゃありません」
元手がかかってないのに、これ以上もらえないわ。だからと言って、あんまり安くても作る意味がないし、これくらいがちょうどいいと思うの。
「売上が落ち着いてきたら契約を見直します。逆に損になってしまうといけませんからね。売上も大事ですが、せっかくのご縁です。一緒にここを長く愛される店にしていきましょう」
「アンさん……! ありがとうございます。たくさんお客様に来ていただけるように頑張ります!」
契約後、ダイアナと同様、ハリーさんにも妖精が見えるようになった。
カイを見て、「アルベールさんが妖精と契約してるなんて知らなかった!」と驚いている。
「カイとは長い付き合いなんだ……」
はからずもアルベールさんとカイとの出会いの話を聞くことができた。
父を亡くしたアルベール少年が剣の妖精カイと契約したくだりなんて、思わず涙が出そうだったわ。
その日のうちにざっくりと店の間取りを決めることになった。
ハリーさんの意見を聞きながらいつもの画像を使って、キッチンやトイレ、休憩室などを設置していく。
「お店は一階だけでいいの?」
「そうですね。最初は余裕がないと思いますし」
「そっか。じゃあ、とりあえず二階は住居専用にしておくね。部屋は三つくらいでいい?」
「あの、ここに住んでもいいんですか?」
「もちろんいいわよ。ただし、図書館には私と女性の従業員が住んでるから、プライベートと仕事は切り離してね」
「もちろんです! 変なことはしないので信じてください!」
「こいつが問題起こしたらすぐに俺に教えてくれ。取っ捕まえてやるから」
「ひどいよ、アルベールさん!」
あらあら仲良しね、うふふ。
ダイアナが実家から帰ってきたらびっくりするでしょうね。今から楽しみだわ。
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