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図書鑑定スキル

ブックマーク、ありがとうございます!

 異世界に来てから三日が経ったが、相変わらず私はのんびりダラダラと過ごしている。


 なにしろ図書館にある本は読み放題。おまけに他に誰もいないので、どこでも好きな場所で読むことができるのだ。楽しくて仕方ない。

 

 本の紙質や印刷技術は前世とは比べ物にならないけど、その分、心を込めて作られている気がする。なかには手書きで書かれたような古い本もあったけど、破れそうで怖いから読むのは諦めた。


 それにしても、冷蔵庫の中の食材がみるみる減っていくなあ。まあ、買い足してないから当然だけど。


 はたと恐ろしいことに気づいてしまった。

 お金って……あるの?


 慌てて部屋を探してみたけど、以前お金をしまっておいた場所にはなかった。

 そりゃそうよね。あってもこの世界じゃ使えないし。

 まずいわ。どうしよう……どうにかして、あくせく働かずにお金を稼ぐ方法を考えなきゃ。


「最悪の場合、図書館の本を売って食いつなげば――」

 

 ビーッ! ビーッ! ビーッ!


 突然、警報のような音が鳴り響いた。


『警告。この世界では本の価値が非常に高く、図書館にある希少本を許可なく売買すれば、三年以下の懲役または高額の罰金が科せられます』

 

「ひえっ! すみません、言ってみただけです! 大事な本を売ったりしませんから!」


 こわっ、ちょっとつぶやいただけなのに。

 気をつけよう。本に何かあれば私のほうが消されかねない。もし貴重な本を紛失したりしたら……考えただけで顔から血の気が引いた。


「あの、ナビさん? もしも、もしもですけど……本が盗まれたりしたらどうなるんですか?」

 恐る恐るナビに訊いてみた。


『この図書館にある本には回帰魔法がかけられています。なお、一度でも本を盗んだ者は二度と図書館に入館できません』


「すごおい。そんな便利な機能がついてるなら安心ね。ちなみに、この図書館の蔵書数はどれくらいあるの?」


『館内にあるのは約十万冊。インベントリにある本を足すと百万冊を超えます』


 インベントリ? 倉庫みたいなものかな。


「その百万冊のなかで、ナビが特に貴重だと判断している本は何冊くらい?」


『約三百冊です』


「三百冊……そんなに貴重な本があるなら、お金を払ってでも読みたいひとがきっといるわよね。そういえば、この世界の通貨ってどうなってるの?」


『通貨は金銀銅で作られていて、それぞれの含有量は国によって異なります』


「だいたいでいいから、日本の円に換算してみて」


『銅貨が百円、銀貨が千円、小金貨が一万円、金貨が十万円くらいだと推定します』


「じゃあ、もし図書館の入場料を取るとしたら銀貨一枚くらい? 五人で一日五千円か。家賃がタダなんだから、それだけ稼げれば余裕かな。だけど、そうするとお金のない人は入れなくなっちゃうわね。うーん……」


 正直、私も図書館にはずいぶんお世話になった。お金に余裕がなかったから、読みたい新刊が出ると必ず予約してたし。

 人気のある新作なんて、三百人待ちも珍しくなかったな。


 子どもたちが小さい頃は、おはなし会に参加したり、ちびっこシアターで映画を見たりして、三人も連れていくのは大変だったけど今では良い思い出だ。


「……やっぱり、入館は無料にして他の方法を考えよう」


 恩を仇で返すようでなんか嫌だ。


 うーん、何か良い案はないかな。

 無い知恵を必死に絞っていたら、いいことを思いついた。


「貴重な本だけを集めた特別室を作って、その部屋だけお金を取ればいいんじゃない? お金持ちなら銀貨の一枚や二枚、余裕でしょ」


 我ながら良いアイデアだ。

 若返ったから脳も活性化してるのかもしれない。


「特別室は受付のそばがいいな。変なひとが近づいたらすぐわかるし。……この辺がもう少し広かったらいいのに」


 受付の横を見ながら呟くと、ナビが反応した。


『建物を拡張しますか?』

 

「そんなことも出来るの!?」


『ハイ。部屋の間取り図をタッチしながら拡張してください』


 目の前に例の画面が出てきて、一階と二階の間取り図が浮かんだ。

 ほんとかなと思いながら、マウスポインタをドラッグする要領で、広げたい壁の部分をタッチしながら動かす。


 年寄りだとあなどるなかれ。夫を看取ったあと、心配した孫にうながされて初心者向けのパソコン教室に通ったことがある。最初は「こんな年だし」と尻込みしていたけど、講師は優しい女性で、生徒も同じくらいの年齢のひとばかりだったので、楽しく覚えることができたのだ。


 私の指の動きに合わせて、部屋がじわじわと広がり始めた。

 

「ふおおおおお、すごい! わっ、二階も連動してる!?」


 まるで巨大なロボットを操縦しているみたい。心臓がバクバクしてきた。

「よし、これくらい広げればいいか」


 ほどよい広さで止めて、壁とドアの設置に取りかかる。

 受付と特別室のあいだを少し開けて通路を作り、その奥に特別室のドアを設置した。通路の入口にバリアを張れば、私が解除しない限り部屋に近づくことすらできない。

 

「受付の奥にある部屋も一緒に広がったから、昼寝用に大きなソファでも置こうかな」


 こうして、あっという間に特別室が完成した。


「本当に出来ちゃった……そうだ、本棚どうしよう。ナビ、空いてる本棚ってある?」


『インベントリに収納しています』


「え? インベントリって本の倉庫じゃないの?」


『図書館を維持するのに必要と思われる物はすべて入っています。ちなみにインベントリは容量無制限のうえ、内部は本を保管するのに最適な温度22度、湿度55%に保たれています』


「へえ、徹底してるのね。じゃあ、そこにある本棚のなかで一番高級そうなのを出して」


『了解しました』

 

 一瞬で、草花の浮彫が入った重厚感溢れる本棚が現れた。

 

「あら、アンティークな感じで素敵ね! ナビ、さっきいった三百冊をこの本棚に移動させて」


『了解しました。特に貴重だと思われる本を特別室の本棚に移動します』


 すると、選ばれた本だけがあちこちの本棚から飛び出し、特別室に向かって飛んできた。


「うわーっ!」

 まるでファンタジー映画みたいだ。


 インベントリにあった本も含め、最終的にはすべての本が高級本棚の中に綺麗に収まった。

 ひょっとしたら、本のサイズや冊数も考えて本棚を選んでくれたのかな。優秀なナビね。


 特別室のドアはわかりにくいところに設置し、ドアの前にカーテンを引いて一般客からは見えないようにした。


 秘密基地みたいな部屋にあるのは、この国に数冊しかないような貴重な本ばかり。本好きなら喜んでお金を払うに違いない。


「入場料をいただくなら図書目録くらいあったほうがいいかな……」


『図書鑑定スキルを使いますか?』


「いいタイミング。もちろん使うわ」


 図書鑑定スキルかあ。どんなことがわかるのかな。

 さっそく魔法書を一冊手に取ってみると、表紙の上にその本の情報が浮かび上がった。


〈究極の水魔法〉

 アーサー・ギンガム 

 カクール出版

 977年 254頁 20センチ

 水魔法の天才アーサー・ギンガムが効率化した新しい魔法陣を掲載


 おお! 書名の他、著者名、出版社、出版年、頁数や大きさの他、簡単な内容までわかるんだ。

 どれどれこっちの本は?


〈失われた古代の料理レシピ〉

 マーガレット・ポミエ

 ロベール社

 1025年 56頁 25センチ

 冒険家のマーガレット・ポミエがガルルア族に教わった幻の料理レシピ集


 おお、こっちも見えた! 図書鑑定スキルってすごいのね。


 興奮した私は本以外の物もあれこれ触ってみたが、当然何も見えなかった。


「まあ、それはそうよね……。さて、図書鑑定スキルがどんなものかわかったし、そろそろ休憩しようかな」


 図書目録は……後でいいや。


 どんなすごいスキルを手に入れても、やる気がなければ宝の持ち腐れだな、と他人事ひとごとのように思うのだった。



 




読んでいただき、ありがとうございます♬

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