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四日目 西の端の図書館へ 

 目が覚めたら十二時近かった。ずいぶん寝たなあ。

 昨日はちょっと飲み過ぎちゃったわね。反省反省。


 カーテンを開けると地面が濡れていた。寝ているあいだに雨が降ったらしい。庭を見下ろすと、フレイア様の石像にたくさん葉っぱがくっついていた。


「わあ、あれは取ってあげなきゃ」


 二日酔いにはならない体質なので、しっかりと昼食を済ませ、動きやすい服装に着替えて一階に下りた。

 受付に置いてあったつばの広い帽子を被って外に出ると、強い日差しが降り注いだ。

 

「うー、まぶしい……日向はやっぱり暑いなあ」


 私はすぐに木陰に移動した。

 この庭にある木は葉っぱが多くて枝が広がっているから、たくさん緑陰りょくいんがあって助かる。


「雨上がりの土と草の匂いがする。今なら湿ってるから雑草もすぐ抜けそうね。こんにちは、フレイア様。お身体拭かせていただきますね」


 あちゃあ、普段は放置してるから結構汚れちゃってるなあ。ごめんなさい、フレイア様。

 石像にくっついた葉を取り除きながら、タオルで念入りに拭いていく。

 汗が首筋に流れる頃には、元の美しい姿になっていた。


 庭というより林のような景観だが、フレイア様の石像は見事に溶け込んでいる。 美術館の屋外展示場のように、もっと色々な石像を置いてもいいかもしれない。最近、資金に余裕が出てきたから、新しい石像の一つや二つ買えるはず。


 実は、ギガ教の襲撃事件の後から、図書館に献金してくれるひとが増えてきているのだ。どうやらあの事件のせいで、『ギガ教が妬むほどご利益がある図書館』だと評判になっているらしい。


 なかには、お忍びの高位貴族なんかもいて、びっくりするくらいの金貨が袋に入っていることもある。少し気がとがめたが、図書館の運営資金と割り切って受け取ることにした。



 石像のまわりに生えていた雑草を抜いたら、根っこからスポンと抜けたので楽しくなった。根が地中深く張ってるのは、いくら地面が濡れてても抜けないから無視。むきになってもストレスがたまるだけだ。


(石像を増やすなら、もっとベンチを増やして、ゆっくり鑑賞できるようにしたほうがいいかも)


 雑草を抜いていたら、そんな考えが浮かんだ。


 ついでに飲み物でも売ればみんな喜ぶかな。でも、ゴミ問題とか騒音トラブルとか、別のことで頭を悩まさせそうな気もする。そうなると面倒ね。


 いっそ、館内にカフェを作るとか。でもスペースがなあ。特別室を作ったときみたいに広げればいいんだろうけど、今のレイアウトで落ち着いてるから変えるのもねえ……。


 ふと、青々と茂る草木や、可憐に咲く野花が目に入った。


 そういえば、景色の良いカフェって前世で人気があったわね。大きなガラス張りの店内から見れば、ここもなかなか素敵な景色に見えるんじゃないかしら。

 もし、ここでカフェをやりたいってひとがいれば、別館という名目で店を作ってもいいかもしれない。


「ナビ、図書館の横にカフェを併設したいんだけど、別館って作れるの?」

『ハイ可能です』


 やっぱり! 修道院にビアホールがあるくらいだから、いけると思ったんだ。前世でもカフェのある図書館って結構あったものね。


 

 その後は、本を読んだり昼寝をしたりして、ダラダラと過ごした。石像を綺麗にして草むしりしただけでも偉いと、自分を甘やかした一日だった。


 ***


 夏季休暇四日目。


 今日は、エメラルド王国の西の端にあるジョリアナ図書館に行ってみようと思う。

 ジョリアナ図書館はエメラルド王国で一番古い図書館と言われていて、歴史的に貴重なうえ美しい図書館なので、文化遺産として国から保護されているらしい。


 朝食を終えてから、とっとと転移した。もう慣れたものだ。ダイアナに「ひとりで行くなんてずるいです」なんて言われそうね、ふふ。



 ジョリアナ図書館の天井はカラフルなフレスコ画で、そのまわりは金の装飾で何重にも囲まれている。大広間にも金泥きんでい細工が施された書架が整然と並んでいて、あまりの豪華さに目がくらみそうだ。


 壁の中央には、この図書館の創設者である何代か前の国王の肖像画がドドンと飾られていた。びっくりするほど大きな肖像画で、その額縁にも金泥細工が施されている。創設者が王様だとここまで豪華絢爛になるのだと知った。


 他にも部屋があったのでのぞいてみたら、気になるものを見つけた。

 天井から何か黒い物がぶら下がっているのだ。


 なにあれ……?

 もっとよく見ようと近づいていくと――


「え、コウモリ? なんで図書館の中にコウモリが⁉」

 誰か教えてとばかりにキョロキョロしていると、恰幅の良いおじさまと目が合った。


「もしかして、初めて見たのかい?」


「は、はい」


「そりゃあ驚いただろうねえ」

 ホッホッホと、おじさまが頬の肉を揺らす。


「あの、あれってコウモリですよね」


「そうだよ」


「なんでこんなところにいるんですか?」


「あのコウモリたちは本の虫を食べてくれてるんだ」


「本の虫?」


「本を食い荒らす害虫のことだよ。夜になると天井や本棚の裏から飛び出してきて、本の虫を食べてくれるんだ。パトロール兼食事だね」


「知らなかった。コウモリがそんなお仕事を……あ、でも大丈夫なんですかね。その、フンとか」


「本棚には網がかけてあるから心配ないよ。でも、フンくらいは我慢しなきゃ。そりゃあ、貴重な家具には毎日カバーをかけなきゃいけないし、床に落ちたフンをこすり洗いしなきゃいけないけど、そのおかげで貴重な本が守られてるんだからね」


 自分がフンの掃除をしているわけじゃなかろうに、おじさまはなぜか自慢げに答えた。


「なるほど……」


 まさか豪華絢爛な図書館とコウモリがそんなふうに共存しているとは。

 色々な図書館があるものだと驚かされた。

 


 図書館を堪能したあとは、海岸沿いにあるシーフードレストランにランチを食べに行った。店の中はかなり混んでいたけど、オープンキッチン前の席がちょうど一人分空いたので案内された。

 キッチンの中を怒号が飛び交い、あちこちで大きな炎が上がる。その様子からして、豪快な料理が多そうだ。


 メニューには珍しい料理名がたくさん載っていた。


《カニを()()()()()()マッドマッククラブ・ブラックペッパー》

 強靭なハサミの中にたっぷりとカニ肉が入った、ボリューミーな料理……ちょっと食べづらそうね。


《サンバドル・ウダンのエビチリ》

 ()()()()()()()の海エビ……もっと小さいのはないかしら。


《ベイクド・フィッシュ》

 あら、お魚ね。

 シャカップルという白身の魚に()()()()()をたっぷり載せて蒸し焼きにした……。

 

 まあ……今回は無難なやつにしておきましょう。  

 結局、牡蠣やムール貝を食べたけど、新鮮だから凄く美味しかった。

 今日もいい一日だったわ。


 

注;金泥きんでいとは金粉を溶液に溶かして泥状にしたもののこと

 

いつもお読みいただき、ありがとうございます。

今回出てきた図書館はポルトガルにあるコインブラ大学ジョアニナ図書館をモデルにしています。なんと現在もコウモリが活躍しているそうですよ。


一人旅はこれでおしまいですが、休暇はまだまだ続きます!

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