夏季休暇 初日
日本と同じように、この世界にも夏季休暇がある。
それに伴い、図書館も十日間休館することにしたら、休みの前日にはたくさんの子どもたちが本を借りに来た。
最初の頃はなかなか借りてくれなかったのに、すごい進歩ね。それだけ本が身近なものになったってことかしら。
ダイアナが久しぶりに実家に帰るというので、ボーナスを奮発してあげたら喜んでいた。
「おかげで家族にお土産をたくさん買えました。ありがとうございます!」
「いつも頑張って働いてくれてるお礼よ。大変なこともあったし、ゆっくり休暇を楽しんできてね」
「館長さんも楽しい休暇を過ごしてください」
馬車に乗って去っていくダイアナを見送った。
さて、引きこもる準備をしなくては。
門を閉じて、誰も入れないようにバリアを強化した。これで誰にも邪魔されずに十日間ひとりでのんびりできる。
本当は、この世界に来たときのように、外からは完全に見えないようにしたかったけど、大騒ぎになりそうだからやめた。
市場も休みだから食べ物や飲み物は買い込んであるし、一歩も外に出なくても大丈夫。引きこもり生活、バンザイ!
ララとルルにしばらく仕事をしなくていいと言ったら、ずっと本を読んでいる。
ボーナス代わりに新しい本を読ませてあげようかな。購入しなくても、インベントリにある本と入れ替えればいいんだから。
「ナビ、ララとルルだけをインベントリに入れることはできる?」
『契約妖精なので可能です』
「良かった。ねえ、ララ、ルル」
「ナニー」
「ナニー」
「今までがんばったからご褒美をあげる。この図書館にある本とインベントリにある本をひとり十冊まで入れ替えていいわ。ただし、人気のある本と特別室にある本以外ね」
「アタラシイホン!」
「ヤッター!」
ララとルルがクルクルと飛び回る。
「喜んでくれて良かったわ。インベントリには好きなだけいていいから、出たいときはナビに伝えて。ただし、休暇が終わる日には出てきてもらうわよ」
「ワカッタ!」
「ハヤク イキタイ!」
「はいはい。ナビ、お願いね」
『了解しました。契約妖精をインベントリへ』
ララとルルの姿が見えなくなった。きっと私が迎えに行くまで帰ってこないだろうな。大好きな本がたくさん読めるんだから、あの子たちには楽しい休暇になるはず。
これで、この図書館にいるのは私とシルキーだけになった。
シルキーとはいまだに言葉も交わしてないけど、彼女もこの図書館にとって、かけがえのない存在だ。
ララとルルが言うには、シルキーは小さな子どもが好きなので、図書館のなかでも特に〈こどもの部屋〉が気に入ってるという。
だからダイアナが二階を掃除したとき、あんな態度をとっちゃったのね。
『世界妖精図鑑』で調べてみたら、勝手に物を動かしたりイタズラしたりする悪いシルキーもいるって書いてあったけど、うちにいるのは絶対良いシルキーよ。間違いないわ!
一般的には家事を手伝う妖精だといわれているが、死んだ貴族の女性の霊だという説もあるらしい。
確かに人間くさい一面もあるけど、ララとルルとお喋りするくらいだから、妖精なんじゃないかな。うん、霊だと思うと怖いからそういうことにしておこう。
夏休み初日のお楽しみはこれ!
少し前に偶然手に入れたお米。なんと、南にあるジャポールという島国から輸入された物らしい。輸入品を扱っている店で見かけたときは夢かと思った。
ちゃんと精米されているので、悪くならないうちに食べなきゃ。多めに炊いて余った分は冷凍しよう。
その店にはナスやゴボウなど、こっちの世界では見たことのない野菜もあった。喜び勇んでお会計してもらうと、
「あんた、これ全部どうやって食べればいいかわかるのかい?」
と店のご主人に驚かれた。
「わかりますよ」
「だったら、調理方法を教えてくれねえか? 食べ方もわかんないのに仕入れたのかって、かあちゃんに怒られちまってよお」
ご主人が情けない表情を浮かべるので気の毒になり、米のとぎ方や、鍋で米を炊く方法、ゴボウの下処理の仕方なんかを教えてあげた。
ついでに、この店にある砂糖、醤油、味噌、唐辛子などを使った簡単なレシピもメモ紙に書いて渡した。なんとこの調味料も砂糖以外はジャポールの物だという。
名まえも妙に日本っぽいし、もしかしてフレイア様が日本をモデルにして創った国なのかな、なんて思ったりして。
「ありがとうなあ、これでかあちゃんにも言い訳が立つよ。ほら、こいつはお礼だ」
「わあ、ミカンだ! ありがとう」
まさかミカンまであるとは。
レシピまで教えてあげたんだから、これからもジャポールの物を仕入れてくれることを期待しよう。
今日の昼ごはんは、ほかほかの白飯と、ナスと豚肉を砂糖と味噌と白ワインで炒めたおかず。
「いただきます!」
久しぶりの白ご飯だ。
「はああ……美味しい……ご飯ってこんなに甘かったっけ」
しばらくご飯を味わってから、ナスと豚肉にタレを絡めたものを口に入れる。
「んんー、たまらん」
こってりとした味付けが白ご飯に合うこと! やっぱり日本食はいいなあ。
卵かけご飯も食べたいけど、この世界に新鮮な生卵は流通してないのよね。
鶏を飼ってるひとを探すしかないのかなあ。
日本食を味わいながら前世のことを思い出していたら、少しずつ記憶が薄れているような気がして、私はもう佐倉杏ではなく図書館の館長アンなのだなあ、とつくづく思った。
「さて、デザートにミカンをいただこうかな」
プシュッと親指で皮に穴を開け、ミカンの匂いを嗅ぐ。
「ふわあ、これこれ。柑橘系の良い香り」
皮をむいて一粒口に含む。噛んだ瞬間、甘い汁が口の中に広がった。
「うーん」
懐かしい味だ。日本にいたときは、コタツに入ってミカンを食べるのが冬の風物詩みたいなものだったな。
そういえば、夏なのによくミカンが手に入ったわね。もしかすると、日本とオーストラリアみたいに、ジャポールとエメラルド王国の季節は反対なのかな。
連休初日は、昼も夜も日本食を食べ、しみじみと日本を懐かしんで終わった。




