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不思議な図書館(ダイアナ視点)

 わたしはダイアナ・ミュラー。ミュラー子爵家の娘で、兄と三人の姉がいる。

 姉たちはそれなりの家格の家に嫁いでいるが、わたしには婚約の申し込みさえこなかった。理由はわかっている。わたしは背が高すぎるのだ。


 子どもの頃は、大きくなったら姉たちのように、普通に望まれてお嫁にいくんだと思っていた。

 だが、十歳くらいから背がどんどん伸びて、十六歳で成人したときには同世代の男性にわたしより背が高いひとはいなくなっていた。


 出会いを求めてパーティーに出席しても、わたしをダンスに誘うひとは誰もいない。


「おい、かわいそうだから誘ってやれよ」

「嫌だよ。俺の背が低く見えるだろ」


 そんな心無い会話が聞こえてきて、惨めな思いをすることもあった。


 もう男のひとに期待するのはやめようと決めてからは楽になった。

 父の冷たい視線を受け流し、婚活もせずに家に引きこもっていたのだが、兄の結婚が決まったのを機に独り立ちすることにした。


 下位貴族の娘が働くとしたら、大抵が高位貴族の侍女だ。

 誰に頼もうかと考えていたとき、母の友人で昔から私のことを可愛がってくれるキャサリンさんにお茶会に呼ばれた。


「ダイアナ、お仕事を探してるんですって?」

「母から聞いたんですか?」

「ええ。そういうことなら悪い話じゃないと思って。実はね……」


 キャサリンさんの話によると、新しくできた図書館で子どもの向けの本を置くことになった。そのために字の読み書きができて、子どもの世話もできるひとを探している。賃金は安いが、住み込みだし、希少な本をタダで読ませてもらえると聞き、私はその話に飛びついた。


「どうかしら? あなたさえよければ、一度話を聞きに行ってみない?」

「行きます! 行きたいです!」


 大好きな本に囲まれた仕事があるなんて思いもしなかった。断ったら絶対後悔する。住み込みなら家賃もかからないし、図書館だから本代もかからない。なにより、希少な本というのが気になる。もしかしたら、絶版になった本もあるかもしれない。


 キャサリンさんはわたしを連れて、前触れもなく図書館へ向かった。

 

 驚いたことに、図書館長はわたしより年下の女性だった。

 少し不安になったが、少女のような見た目とは裏腹に、言葉使いの綺麗な落ち着いた女性だった。きっと賢いひとなのだろう。でなければ、この若さで図書館長になれるはずがない。


 彼女は、わたしが貴族だということに引っかかっているようだった。

 このままでは断られると思い、本音をさらけ出してアピールしたら、「よかったら館内を見てみますか?」と言われた。


 それからは驚くことばかりだった。

 

 本棚には王立図書館でも見たことがないような本があちこちに並べられていて、興奮して声が出るのを抑えるのに苦労した。


 それだけではない。特別室と呼ばれる有料の部屋の本棚には、希少本がズラリと並んでいたのだ。


「鼻血が出そうです」と言ったそばから、本当に鼻血が垂れてきて、慌ててハンカチで鼻を抑えた。興奮しすぎたのだろうか。恥ずかしかったが、館長さんにはうけたようだ。


「ここで働くようになったら、特別室の本も無料で好きなだけ読めますよ」とささやかれ、思わず「ふわわわわ」と変な声が出てしまった。


 一番驚いたのは、館長さんが魔法使いだったこと。キャサリンさんも知らなかったと驚いていた。


 館長さんの話を聞いていると、ずば抜けた発想の持ち主だということがわかった。

 このひと、めちゃくちゃ面白いな。このひとと一緒に働けたら楽しいだろうな。

 そう思ったので、採用が決まったときは本当に嬉しかった。


 引っ越しの片付けを終えてから一階に下りると、館長さんから想像もしなかったことを言われた。


「実は、私も知らなかったんだけど、雇用契約をしたことで私のスキルの一部をあなたも使えるようになったんですって。どうする? 使う?」


 そんな「この塩使う?」みたいなノリで訊かれても。


「えっと……たとえば、どのようなスキルが?」


「たとえば、この図書館には私と契約している本の妖精が住んでるんだけど、〝妖精が見える目〟というスキルがあれば、その妖精が見えるようになるの」


「ほ、本の妖精⁉ 見たい! 見たいです! ください、スキル!」


 私は即座に食いついた。


 妖精が見える目を持つひとは千人にひとりと言われている。彼らは皆、多かれ少なかれ魔力を持っており、妖精たちに魔力を与えることで契約が成立する。   


 私には魔力がないので、当然、妖精は見えなかった。

 乳母が読んでくれた本には、妖精がよく出てきた。風の妖精、水の妖精、他にも色々な妖精がいた。

 確か、本の妖精は本から得た膨大な知識を持ち、滅多に人間と契約しないはず。そんな妖精と契約したなんて、館長さんはやっぱり凄いひとだ。


 契約期間限定とはいえ、スキルのおかげでわたしにも妖精が見えるようになった。

 本の妖精たちの名まえはララとルル。ふたりとも綺麗な光る羽を持っている。


「ララちゃんとルルちゃん……わたしはダイアナです。これからここで働くのでよろしくお願いします!」

「ダイアナ」

「ヨロシクー」


「まさか、妖精が見られる日が来るなんて……」

 感激して涙ぐんでいると、

「これからは一緒に働くんだから早く慣れてね」

 と館長さんに言われた。


「はい! 粉骨砕身、がんばります!」

「固い固い」

「カタイ」

「カタイ」


 館長さんの真似をするララとルルが可愛すぎて、大きな声で笑ってしまった。



 その後、〈こどもの部屋〉は無事にオープンし、少しずつ子どもたちが来てくれるようになった。

 赤ちゃんのいるお母さんたちのあいだでも評判になってるみたいだし、色々と頑張った甲斐があるわ。


 それにしても、インベントリって何なんだろう。謎過ぎて考えるのはやめたけど、あの本棚はすごかったなあ。あのあと、図鑑や画集を探しにもう一度連れていってくれたけど、他にどんな本があるのか凄く気になる。


 図書館はどんどん不思議さを増していく。

〈祈りの部屋〉があるのにも驚いたけど、外にフレイア様の石像が置かれたのにも驚いた。驚いてばっかりね。


 図書館で働くようになってから、やけに肌や鼻の調子が良いと思っていたら、どうやらフレイア様の恩恵を受けていたみたい。

 館長さんに感謝の気持ちを伝えたけど、わざと聞こえない振りをしていた。謙虚なひとなのだ。

 これからもずっとこの不思議な図書館で、館長さんや妖精たちと一緒に働けるといいな。

 

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