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こどもの部屋 オープン

 図書館の庭の木々が色づく頃、〈こどもの部屋〉をオープンした。


 宣伝というほどではないが、図書館の敷地に子どもがいたら声をかけるようにしていた。チラシを作っても読めないなら意味がないから、私もダイアナも言葉で伝えるしかなかったのだ。


「来てくれますかねえ」

「まあ、あまり期待しないで待ちましょう」


 私は一階の受付で待機し、ダイアナには二階に上がってもらった。ララとルルにはダイアナの補助をするように伝えてある。


 開館してすぐ、市場の果物屋さんの奥さんが、八歳くらいの娘さんを連れてきてくれた。二階に案内したあと、母娘の反応が気になったので、少しだけならとその場に残った。


 奥さんがダイアナの説明を聞いているあいだ、娘さんは気もそぞろに目をキョロキョロさせている。うんうん、早く見たいよねえ。

 

 最初に娘さんが手に取ったのは、花の絵が表紙の本。

 よっしゃ!

 あの本には私の描いた様々な花の絵を載せているが、実はちょっとした仕掛けがある。


「おかあちゃん! ここにさわると、おとがでた!」

「どれどれ……ほんとだ! すごいねえ」


 娘さんだけでなく、お母さんも驚いている。

 がんばった甲斐があるわ。


 あの子が押したのは、絵の下に書いてある文字――花の名まえだ。


 字が読めなくても、字と音が結びつけば形で覚えられるかもしれない。そう思い、小さな魔石にナビの声を入れて作った、私の絵とナビの声による合作『音の出る本』だ。

 この『音の出る本』シリーズは、動物や楽器もあるので男の子も楽しめるはず。


 ダイアナを見ると、ニヤニヤしながら母娘を見ていた。わかる。嬉しいよね!


「ダレカキタ」とルルが教えてくれたので、慌てて一階に下りると、赤ちゃんを抱っこして子どもの手を引いた女性が不安げに立っていた。


「ようこそ。〈こどもの部屋〉は二階なのでご案内します」


 親子を連れていくと、ダイアナが目を輝かせて私を見た。

 アレの出番ですね! と思っているに違いない。


 ダイアナは親子の相手をしながら、さりげなくマットを敷いたエリアに連れていく。


「ここでは靴を脱いでくつろいでください。厚手のマットを敷いているので、赤ちゃんをおろしても大丈夫ですよ」


「そんなこと言われたの、初めてだよ。ほんとにいいのかい? どれ、失礼して……」

 赤ちゃんをマットの上に置くと、コロンと寝返りを打った。

「へえ、これなら安心だね。あたしも楽だし」


 お母さんが笑顔を浮かべたのを見て、私も嬉しくなった。ダイアナが小さくガッツポーズをしている。この世界でも嬉しいときはあのポーズなのね。


 その後もぽつりぽつりと子ども連れの親子や、前世でいうと小学生くらいの子どもたちがやってきた。


 みんな最初は戸惑っていたけど、本を手に取るとすぐに夢中になった。字が読めないのに図書館に来てくれたということは、もともと本に興味があったのだろう。


 貸出システムも説明しているが、実際に借りていく子は少なかった。


「もっと多いかと思ってたんですけど……」

「そのうち嫌でも増えるわよ。それに、これ以上増えたらあなたが大変なのよ?」


 確かに、とダイアナは苦笑いをする。


 たぶん、本は高価なものだから、汚したり破いたりしたらどうしようという不安があるのだろう。徐々に借りるひとが増えていくといいな。



 その日の夜、興奮しているのかなかなか寝付けなかったので、少し本を読もうと一階に下りた。

 私の部屋は三階に移す際に少し広げて2DKにした。他の空いているスペースはそのうち活用方法を考えよう。


 三階に移ると決めたとき一番気になったのが、階段での上り下りだ。二階のバリアは解いたけど、三階があることを知っているのはダイアナと妖精たちだけ。できれば目立たないように館内を行き来したい。

 

「ナビ、なにか良い方法はある?」


『転移魔法を推奨します』


「は? 転移って、行きたいところへ一瞬で行くことだよね。そんな魔法も使えるの?」


『ハイ。ただし、図書館内または他の図書館への移動に限られます』


「なんだ館内だけ……今、なんて言った?」


『図書館内または他の図書館への移動に限られます』


「それって、国内の図書館ならどこでもってこと?」


「イイエ〝マドモ・アーゼル〟にある図書館ならどこでも可能です」


「うそっ! それって、世界中の図書館に移動できるってことじゃない!」


 凄いわね。日本でいうなら『ちょっとパリの図書館まで行ってくる』みたいな感じでしょ。

 異世界言語スキルのおかげで言葉は通じるんだし、色々な国の図書館に行って、ついでに観光や買い物をするのも楽しそうね。


「それはさておき、館内を転移するにはどうしたらいいの?」


 ピコン!


 目の前にいつもの画面が現れた。一階から三階まで、すべての階の詳細な見取り図が並んでいる。机と椅子の数まで正確だ。


『転移先をタッチしてください』

「え、じゃあ……」


 二階の〈こどもの部屋〉の受付をタッチすると、瞬く間にそこに転移していた。

 しばし呆然としていたが、我に返ったとたん、笑いがこみ上げてきた。


「あははは、なにこれ! ほんとに転移しちゃった!」


 楽しくなって、館内のあらゆるところに転移してみた。

 二階から三階の私の部屋、私の部屋から一階の〈図書室〉、〈図書室〉から二階のトイレ、トイレから一階の〈祈りの部屋〉。


「わははは、すごいね、ナビ! ねえ?」


 返事がない。もしかして呆れてる?


「ナビって、妙に人間くさいとこあるよね。もしかして、フレイア様が作ったからかな。フレイア様も、女神のくせに妙に人間くさくて可愛いとこあるから」


「なんですって?」


 いきなり目の前にフレイア様が現れた。

 そういえば、ここ〈祈りの部屋〉だった。


「べ、べつに悪口じゃないですよ。可愛いって言ってたの聞こえましたよね」


「まあ、いいでしょう。図書館は順調のようですね」


「はい。今日から子ども向けの本の貸し出しを始めたんです」


「知っています。祈りを捧げてくれた子どももいましたから。今日は神託を授けに来ました」


「神託?」


「明日、この像を作ったジャンという者が図書館に来ます」


「そうなんですか?」

 陶器通りの店で会った、メガネをかけた中年の男性を思い出す。


「彼の提案を受け入れなさい」


「わかりました。提案ってどんな――あ、もう消えちゃった。まあ、明日になればわかるか……ふわぁ、そろそろ寝よう」


 眠くなってきたので、自分の部屋のベッドをタッチした。


カクヨムから読み返しにきていただいている読者様、深く感謝いたします!

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― 新着の感想 ―
今回の話だと最初に転移を使った時ってこんなに楽しんでたんだとか改めて読み返すと忘れていることとか初めて気が付くことなどもあって楽しんでます! 1話ずつ公開なのも読み返しにちょうど良くて有難いですし。 …
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