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図書館の謎

 子どもたちに本を貸し出すなら、専用の部屋が必要よね。


 大人の利用者たちに迷惑をかけるわけにはいかないから、二階の空いているスペースを使おうかな。騒がしくなるだろうから、階段も含めて防音バリアを張っておかなきゃ。


 受付も二階にするとして……さすがにララとルルに受付は無理だから、今度こそ従業員を雇わないといけないわね。

 

「ナビ、二階の空きスペースを子ども向けの本を置く部屋にしたいんだけど」


『了解しました。家具と本棚を選んでください』


「わかった。レイアウトも考えないとね」


 表紙が見えるようにマガジンラック型の本棚にしようかな。字が読めないなら、背表紙だけじゃ何の本かわからないものね。


 あと、靴を脱いでリラックスできるスペース! 子どもが小さいときは絶対あったほうがいい。親も楽だし。


 それから、子ども向けの椅子と机をいくつか置いて……そうだ! 子供用のトイレも設置しなきゃ。トイレ汚れそうだなあ……そういえば、掃除ってどうなってるんだっけ。いつも綺麗だから気にしたことなかったわ。


「ねえナビ、図書館に自動クリーン機能みたいなの、ついてるの? 汚れたら勝手に綺麗になるやつ」


『ありますが、設定が必要です』


「やっぱりあるんだ。……あれ? でも今は機能してないんだよね。なのにどうして……」


 気になったので、アルベールさんにも訊いてみた。

「この図書館って綺麗だと思いませんか?」


「思うぞ。ゴミが落ちてるのを見たことないし、トイレも綺麗だよな」


「そうですよね! 実は、図書館を始めてから一度も掃除してないんですよ。なのに、なんでこんなに綺麗なのか不思議で……」


「もしかして、気づいてないのか?」

 アルベールさんが怪訝な目で私を見た。


「え、何にですか?」


「実は、この図書館にいるらしいんだ」


「な、なにが……?」


 ゴクリと唾を飲む。幽霊とか言われたらどうしよう。


「シルキーっていう、白いシルクのドレスを着た大人の妖精」


 幽霊じゃなくて安心したけど、大人の妖精⁉ 

 大人ってことは、大きいのかしら。


「アルベールさんは見たことあるんですか?」


「いや、俺はないけど、カイがそう言ってた」


「つまり、そのシルキーさんが、今まで図書館の掃除をしてくれてたってこと?」


「たぶんな」


「そんな……どうしよう、無給で働かせてしまったわ!」


「気になるとこ、そこか」

 アルベールさんがゲラゲラと笑う。


「シルキーは気に入った家の掃除をするのが好きらしいから、無給でも文句は言わないだろ」


「でも、せめてお礼くらい言いたいです。姿を見せてくれないかなあ」


「言い伝えだと、シルキーは恥ずかしがりやだから、家の主人が寝静まってから働くらしい」


「まあ、なんて謙虚なの」


 ぜひとも一度お会いしてお礼が言いたいものだ。

 


 ***


「子どもたちが本を読めるような部屋を作りたいと思ってるんです」

 とキャサリンに打ち明けた。


「まあ、素敵ね。本は高価だから、子どもを立ち入り禁止にしているところがほとんどなのよ。みんな喜ぶでしょうね」


「それで、受付や子どもたちの面倒を見てくれるひとを雇いたいんですけど、読み書きができて、子どもの世話を嫌がらず、住み込みなら賃金が安くても構わない。そんなひと、見つかると思いますか?」


 無理でしょうという言葉が返ってくるかと思いきや。


「そうねえ……たとえばだけど、特別室の本をタダで読めるとか、読みたい本を取り寄せてくれるとか、本好きなひとが思わず飛びつくような特典があれば、見つかるんじゃないかしら」

 

 そうか。本好きが食いつきそうなエサを用意すればいいんだ! さすがキャサリン。


「私も知り合いの伝手つてをたどってみるから、少し待ってて」

「ありがとう、キャサリン。よろしくお願いします」



 数日後。

 キャサリンが、ひょろりとした背の高い女性を連れてきた。長い茶色の髪を一つに結んだおとなしそうなひとだ。


 私は彼女たちを受付奥の部屋に案内した。大きなソファセットを置いてあるので、最近はここを応接室代わりに使っている。


 紅茶を三人分用意してから、キャサリンたちの向かい側に座った。


「彼女は知り合いの娘さんでね。あなたのいってた条件にぴったりだと思って話をしてみたら、興味を持ってくれたの」


「初めまして。ダイアナ・ミュラーです」


「初めまして。館長のアンです。失礼ですが、苗字があるということは、ダイアナさんは貴族の方ですよね」


「はい。ミュラー子爵家の四女です」


「どうして図書館員の募集に応募なさったんですか?」


 まさか貴族のひとが来るとは思わなかったわ。もっといい仕事があるでしょうに。


「このたび兄の結婚が決まりましたので、これを機に家を出て働きたいと考えていたんです。そんなとき、キャサリンさんからこちらで図書館員を募集しているというお話を聞き、ぜひ働かせていただきたいと思ったのです」


「そうですか。ですが、うちは賃金も低いですし、貴族の方に満足いただけるかどうか……」


 意欲は買うけど、すぐに辞められても困る。

 私が乗り気じゃないのを察したのか、ダイアナさんが本音を話してくれた。


「実は、わたしは本を読むのが大好きなんです。キャサリンさんから、賃金は安いけど、住み込みだし、貴重な本も読ませてもらえると聞き、ぜひこちらで働きたいと思ったんです。父には『ただでさえでかくて嫁の貰い手がないのに、余計な知恵をつけるな』と叱られますけど、わたしは本を読んでるときが一番幸せなんです!」


「なるほど。そういうことでしたら大丈夫かもしれませんね。話してくれてありがとうございます。それにしても、ずいぶん古い考えのお父様ね。女に知識は必要ないと思ってるのかしら」


「まだまだそういう考えを持つひとが多いのよ。貴族ですら、女は最低限の読み書きができればいいと思ってるの」

 キャサリンがため息をつく。


「ダイアナのお母さまはおとなしいかただけど、彼女の行く末を案じてらっしゃるの。今回の話をしたら、ぜひお願いしたいとおっしゃってたわ」


「そうですか。ダイアナさん、良かったら館内を見てみますか?」


「いいんですか⁉」 


 ダイアナさんは元気良く立ち上がった。


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