プレゼント
完成した図書目録を最初に見たのは、黒曜騎士団のセルジュさん。怪我が治ってから熱心な信者になったひとだ。
朝一番に来てくれたので、隠していた図書目録を見せたら目の色を変えた。
「ちょ、ちょっと見せてもらっていいかな?」
「どうぞどうぞ。これは見本なので」
セルジュさんは鼻息を荒くしてページをめくる。
「これは凄い。アンちゃん、俺これ欲しい!」
よし! あとは値段交渉ね。銀貨一枚じゃ高いって言われちゃうかな。
「有料でよければ……」
「もちろん払うよ! 図書目録が有料なのは当たり前だろ」
え、そうなの? てっきりこっちでも無料だと思ってた。
確かに、この世界で紙は貴重だものね。
「こんなに丁寧に作られた図書目録、初めて見た。ほんとによく出来てる……希少本の資料としても価値があると思うよ」
そこまで褒めてもらえると思わなかったから嬉しいな。
セルジュさんには見えないだろうけど、ララとルルも喜んで彼の周りを飛び回っている。
「それで、いくらなの?」
「銀貨一枚でどうですか?」
「そんなに安くていいの?」
「はい。大事にしてください」
「もちろん! さっそくだけど、特別室に入れてくれる? これを見ながら本を選びたいんだ」
セルジュさんは全部で銀貨三枚を出した。
「まいどあり……いえ、ご案内いたします」
しばらくするとキャサリンが来たので、図書目録を見せると興味津々だった。彼女が好きなのは恋愛小説だけど、旦那さんが趣味で図書目録を集めているそうな。いわゆるコレクターってやつね。
「一部いただくわ。あのひとがこれを見たらどんな顔するか楽しみ」
キャサリンが柔らかな表情を浮かべるのを見て、私も幸せな気持ちになった。
その後も、特別室を使ってくれてる利用者に図書目録を見せたら、皆さん喜んで買ってくれた。
隣国にいる本好きの友人らに送りたいと、たくさん買ってくれた常連さんもいる。いつもひとりで来て静かに本を読んでいるかたなのに、
「もちろん、国外なのでなかなか来られないでしょうが、この図書館の素晴らしさを伝えたいのです」
と力説されたので驚いた。
そういえば、アルベールさんはいつ来るのかしら。早く図書目録を見せたいのに。
***
それから四日後、アルベールさんが朝から血相を変えてやってきた。
「ようこそ」
「図書目録!」
「は?」
「図書目録をくれ!」
「あ、はい」
「銀貨一枚だったな」
アルベールさんは受付のカウンターに銀貨を置くと、図書目録を手にして目を潤ませた。
「ああ、やっと……」
「あの、何かあったんですか?」
「ひどいぞ、アン。俺が四連勤に入った日にこいつを販売するなんて。おかげでセルジュを筆頭に、先に図書目録を手に入れた団員たちから『副団長、まだ買ってないんですかあ』なんて言われちまって」
「はあ」
「いや、アンが悪いわけじゃない。ただ、ここは俺が最初に見つけたのに、なんか悔しいっていうか、ずるいって思っちまったんだ。……なんか俺、ガキみたいだな」
「ふふっ」
「笑うなよ」
アルベールさんが拗ねた口調でいう。
「すみません、私も配慮が足りませんでした。これからは気をつけますね」
「いや、謝って欲しいわけじゃ……」
「次に何か作ったときは、まっさきにお見せしますね」
「お、おお」
大のおとながあんなに必死になるなんて、なんか可愛い。
「そうだ、ちょっと頼みがあるんだ」
「なんでしょう」
「こいつを売ってくれないか?」
アルベールさんは受付カウンターに置いてある栞を指さした。
「これはサービスでお配りしているので無料ですよ?」
「いや……実は、騎士団では定期的に孤児院へ慰問をしてるんだが、この栞をあげたら子どもたちが喜ぶんじゃないかと思ってな」
「そういうことですか。でも、子どもたちって字が読めないんですよね? 栞は本に挟むための物なのに、喜んでくれるでしょうか」
「こんなに綺麗なんだから、絶対喜ぶはずだ」
ストレートに褒められて、頬が熱くなった。
「ありがとうございます……あの、孤児院の子どもたちって何人くらいいるんですか?」
「二十……いや、トムとジョンがいなくなったから今は十八人か。孤児院は十六歳になったら出ていかなきゃならないんだ」
「十八人ですね。わかりました、いいですよ。だけど、栞じゃなくてカードのほうがいいんじゃないですか? アルベールさんたちがメッセージを書いて渡したら、きっと喜んでくれますよ」
「それは良いアイデアだが、わざわざ描いてもらうのも……」
「絵を描くのは好きなので大丈夫です」
「そうか、ありがとう。料金はどれくらい払えばいい? 相場がわからないので教えてくれ」
「いえ。これは私から子どもたちへのプレゼントということにしてください」
「だが――」
「とにかくお金はいただけませんから。いいですね!」
「……わかった」
私が強い口調で言うと、アルベールさんは渋々うなずいた。どうせ紙はタダなんだし、素人の描いた絵にお金なんかもらえないわ。それに、子どもたちの喜ぶ顔を想像しながら描くのは楽しそうだもの。
それから五日後、アルベールさんに二十枚のカードを渡した。
カードには何種類かの花を違う色で描いたので、同じものは一枚もない。
「二枚多いぞ」
「予備ですよ。もし新しい子どもが入所してきたら困るでしょ。余るようなら欲しいひとにあげてください」
「心遣い、感謝する」
***
後日、アルベールさんから報告があった。
「子どもたち、すごく喜んでたよ。初めてカードをもらったという子も何人かいて、宝物にすると言ってたぞ」
そっか、そんなに喜んでくれたんだ……。
駄目だ。涙が出てきた。
「どうして泣いてるんだ?」
アルベールさんがびっくりしてオロオロしている。
「いえ……なんでもないです」
子どもを産んでから、こういう話を聞くと涙腺が緩むようになった。
見た目は十六歳でも、母性は残っているのだろう。
「すみません、もう大丈夫です」
「ならいいが……アンの優しさは、きっとあの子たちに伝わったと思う」
「気が向いただけですよ。そんなにしょっちゅうは描きませんからね」
「ああ、わかってる」
アルベールさんは私の頭をポンポンと叩いた。
ほんと、お父さんみたい。
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