図書目録の作成
ララとルルと契約してから七日が経った。
一番やって欲しかった休憩中の留守番は完璧だ。といっても、受付に来たひとが小さな音の出る呼び鈴を鳴らすと、ララかルルが私の部屋まで呼びにくるだけなんだけど。
呼び鈴を鳴らすのは、たいてい初めて来たひとか特別室に入りたい利用者だ。常連さんたちは私の休憩時間を把握しているのでベルを鳴らすことはない。
とにかく、これで安心して昼寝ができる。最近は受付の奥にあるソファで寝たりしてたけど、やっぱり落ち着かないのよね。
ララとルルは本をとても大事にしているので、何も言わなくても、テーブルに置きっぱなしになった本を棚に戻したり、破れたり汚れたりしたページを魔法で修復したりしてくれる。
最初は本が飛んでいくのを見て驚いていた利用者たちも、最近では頭の上を本が飛んでても気にしなくなってきた。慣れってすごいわ。
しかも、ララとルルは図書館にある約十万冊の本のある場所をすべて把握していて、私が題名を言うとすぐに持ってきてくれるのだ。
「ララ、ルル、今日も一日ありがとう。あなたたちが優秀でとても助かったわ」
「エヘヘ」
「ウフフ」
一緒に過ごしていてわかったのだが、この子たちは褒められるとすごく喜ぶ。どうも前の契約者があまり褒めないひとだったようだ。
「どんなひとだったの?」
「ケンジャ」
「賢者!?」
「ジジイ」
「ガンコ」
「頑固じじい……じゃなくて、厳しいご老人だったのね」
「モウ イナイ」
「サビシイ」
「そう……」
褒めてくれなくても、頑固な賢者のことが好きだったのね。
「そろそろ、ご褒美タイムにしようか」
「チョーダイ」
「マリョク」
一日の終わりに魔力をあげる。妖精との約束だ。まあ、勝手に吸い上げてくれるから、魔力をあげてるという実感はないんだけど。
「オイシー」
「ウレシー」
ララとルルが言うには、私の魔力は美味しいうえにたくさんあるので、思う存分吸うことができるらしい。
「良かった。明日は休館日だけど、お仕事を頼んでもいい?」
「イイヨ」
「イイヨ」
***
なかなか手をつけられずにいた特別室の図書目録作りを、ララとルルに手伝ってもらうことにした。
「私には図書鑑定スキルがあるから、書名、著者名、出版社、出版年、あと頁数や大きさ、簡単な内容なんかがわかるの。ララとルルにもこのスキルが使えるといいんだけど……」
「ツカエル」
「ケイヤクシタ」
「良かった! 契約したから、あなたたちにもスキルが使えるのね。ナビ、鑑定結果を図書目録に反映できる?」
『鑑定結果の右下の〈登録〉にタッチすると〈図書目録〉に登録されます』
「ちょっと待って。あ、これね……タッチしたわ。登録されたかどうか、どうやって確認するの?」
『〈図書目録オープン〉と言えば画面が表示されます』
「それはちょっと恥ずかしいわね」
ララとルルがキョトンとした顔で私を見ている。
うん。この気持ちはあなたたちにはわからないでしょうね。
私はゴホンと咳払いしてから、「図書目録オープン!」と言った。思ったより大きな声が出ちゃったわ。
図書目録の画面を見ると、さっき登録した内容がそのまま反映されていた。便利な機能だ。
「ナビ、図書目録って印刷できるわよね?」
『画面の一番下にある〈印刷〉をタッチすると、そのページが印刷できます。まとめて製本したいときは、登録後に〈製本〉をタッチしてから、本にしたいページを選んでください。挿入、削除などの機能もあります』
「わかった。ララ、ルル。もう一度説明しよっか?」
「イイ」
「ワカッタ」
「さすが本の妖精ね。じゃあ、本棚にある本を全部並べ替えてから、順番に鑑定していこうか」
特別室を作ったときのままだから、順番もグチャグチャなのよね。
「ジュンバンニ カンテイ」
「ブンルイ スル?」
「そうねえ……まず、著者別に分けてから、出版年順に並べていこうかなあ。著者の大体の傾向で分類もしたいけど、よくわからないから……」
日本と違って、魔術・宗教・哲学・技術・歴史・芸術・文学・その他の八つのカテゴリに分けられてるのよね。
「ワカッター」
「ナラベルー」
「え、さっそく?」
ララとルルが、本棚に並んでいる本を魔法で取り出し、そのまま室内にある大きなテーブルの上に、著者別に分けながらフワリフワリと積み重ねていく。
それをさらに空中で出版年順に並べ替えながら、手際よく本棚に戻している。おまけに、ざっくりと分類までしてあった。
長いあいだ本に囲まれて生きてきた本の妖精たちだもの。きっとあの小さな頭のなかには膨大な知識が蓄えられているんでしょうね。
「すごいわ! 本を並べるだけで一日かかると思ってたのに。ララとルルは本当に優秀ね。さすがだわ!」
私が手放しで褒めると、ふたりは身体をくねらせて喜んでいる。
「綺麗に並べてくれたから、すぐに図書目録作りに取り掛かれるわ。ララとルルはしばらく休憩してていいわよ」
「ワカッタ」
「キューケー」
ララとルルは嬉しそうに特別室を出ていった。
休憩といっても、どうせ本を読んでるんだろうな。もっと、風や花の妖精のように外で遊べばいいのに。
時々庭で見かける妖精たちの姿を思い浮かべた。
「でも、私も似たようなものね」
しばらく本の鑑定と図書目録への登録作業を続けていたら、ララとルルが私を呼びにきた。
「アンモ キューケー」
「ゴハント ヒルネ」
「あら、もうそんな時間? そういえば、お腹が減ったわね」
休館日だというのに、たくさん仕事しちゃったわ。
「コータイ」
「コータイ」
「交代してくれるの? ありがとう。じゃあ、部屋にいるから何かあったら呼んでね」
「ワカッタ」
「ワカッタ」
***
部屋に戻った私は冷蔵庫にある食材をチェックした。
フレイア様がくれた食材はなくなったけど、この世界で買った野菜や果物が入ってるし、肉は小分けして冷凍してある。
「近くに市場があって良かったわ」
ここから歩いて十分くらいのところに市場があると教えてくれたのはアルベールさんだ。
行ってみると、大きな声で呼び込みをしてたり、店頭で店の物を調理して売ってたりと、まるで昭和の商店街のような活気があった。食べ物だけじゃなく、雑貨や古着なども売られているので重宝している。
「よし、出来た! いただきまーす」
今日のランチはベーコンチーズスパゲッティ。焼くだけだから簡単なのよね。前世のレシピノートがあって良かったわ。
お米がなくなったのでパンやスパゲッティが主食になったけど、これはこれで美味しい。だけど、この世界のどこかにお米があるなら、いつかまた食べたいな。
しっかり昼寝もしてから一階に下りた。
特別室のドアを開けると、ララとルルが勢いよく飛んできた。
「オワッタ!」
「ホメテ!」
「えっ、もう終わったの?」
「ソウダヨ」
「ミテミテ」
「ちょっと待ってね。図書目録オープン!」
これもだんだん慣れてきたわね。
図書目録の画面を確認すると、確かにすべて登録されていた。
「まあ、本当に全部終わったのね。大変だったでしょ、ありがとう」
「ガンバッタ」
「エライ?」
「うん。偉い偉い。がんばったわね」
あとは製本して終わり。
このままだと分厚くなりそうだから、二段組にして文字は小さめにしよう。あんまり上質な紙だと怪しまれるから、このへんの紙を使って……。
細かな設定をして〈製本〉をタッチすると――
テーブルの上に、ポンと図書目録が現れた。まさに出来立てほやほやだ。
「わ、すごいすごい!」
「トショモクロク!」
「デキター!」
私が手を叩いて飛び跳ねると、ララとルルは両手を上げてクルクル回り始めた。みんな大興奮だ。
三人でゆっくりと最初のページをめくった。
「あはは、ほんとに出来た。なんて立派な図書目録!」
「リッパ」
「リッパ」
あまりによく出来たので、タダで配布するのはもったいない気がしてきた。
「銀貨一枚くらいの価値はあるわよね。グフフ」
「グフフ」
「グフフ」
本の妖精たちと含み笑いをする図書館長に幸あれ。




