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狂った弱肉強食世界で最強の俺は、魔力ゼロの妹のためにすべてを壊す  作者: 黒海苔
一章:教祖誕生編

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六話:妹

 プリンを食べ終えたあとも。


 しばらく、シルフィアは皿をじっと見つめていた。


「……」


 もう中身は空だというのに。


 名残惜しそうに、ほんの少しだけ身を乗り出している。


「……そんなに気に入ったのか」


「……別に」


 視線を逸らす。


 だが、ちらりともう一度皿を見るあたり、全く説得力がない。


「また作らせればいいだろ」


「……ほんとに?」


 ぱっと、こちらを見る。


「ああ」


「……」


 少しだけ迷うようにしてから。


「……じゃあ、また食べる」


「はいはい」


 素直すぎる返答に、思わず苦笑が漏れる。


「ふふっ」


 その様子を見て、リリアナが楽しそうに笑った。


「シルフィアさん、すごく気に入ったんですね」


「……うるさい」


 小さく言い返すが、声に刺はない。


 むしろ、どこか拗ねたような響きだった。


「ねぇねぇ」


 リリアナが身を乗り出す。


「シルフィアさんって、いつも空を飛んでるんですか?」


「……まあ」


「いいなぁ……」


 羨ましそうに目を輝かせる。


「私も飛んでみたいです!」


「無理」


「即答……」


 しゅん、と肩を落とす。


 だが、すぐにまた顔を上げる。


「じゃあ、ちょっとだけ触ってもいいですか?」


「やだ」


「また即答……」


 今度はさっきよりも分かりやすく落ち込む。


 ……とはいえ。


 完全に拒絶しているわけではない。


 シルフィアはちらりとリリアナを見ると。


「……そのうち」


 ぽつりと、そう付け加えた。


「えっ、ほんとですか!?」


 ぱっと顔を明るくするリリアナ。


「約束ですよ!」


「……知らない」


 そっぽを向くが、ほんの少しだけ頬が緩んでいる。


 ――さっきより、明らかに距離は縮まっていた。


「お兄さま!」


 今度は俺の方を見る。


「シルフィアさん、優しいですね!」


「そうか?」


「はい!」


 満面の笑みで頷く。


「最初はびっくりしましたけど、きっといい子です!」


「……」


 その言葉に。


 シルフィアは少しだけ目を伏せた。


 だが――否定はしなかった。


 代わりに、ふわりと宙に浮き直して。


 俺の肩のあたりに、そっと寄ってくる。


 さっきみたいに隠れるわけじゃない。


 ただ、近くにいる。


 それだけの距離。


「……変な家」


 ぽつりと呟く。


「今さらだな」


「……うん」


 小さく頷いた。


 その声音は、どこか落ち着いている。


 さっきまでの警戒が、少しだけ薄れていた。


「……」


 静かな時間が流れる。


 食後の、穏やかな空気。


 誰も急かさない、ゆるい時間。


「……あの」


 不意に、リリアナが口を開いた。


「ん?」


「その……」


 少しだけもじもじとしながら。


 視線を彷徨わせる。


「今日は……その……」


 言葉が続かない。


 何かを言いかけて、飲み込むように。


「……最近、あまり眠れなくて」


 ぽつりと、そう零した。


「……」


「部屋、広いから……ちょっとだけ、静かすぎて……」


 視線を落としたまま、続ける。


「……母さまがいないと、やっぱり少し……」


 言い切らずに、口を閉じる。


「……」


 レオンは何も言わない。


 急かさず、ただ待つ。


「……帝都の社交会、長いですよね」


 ぽつりと。


 話題を変えるように、そう言った。


「そうだな」


「母さま、いつ頃帰ってくるのでしょうね」


 小さく笑う。


 けれど、その笑みはどこか少しだけ寂しげだった。


「……」


 答えは分かっているはずだ。


 それでも、口にしてしまうあたりが――子供らしい。


「……久しぶりに」


 ちらりと、こちらを見る。


「お兄さまと一緒に寝てもいいですか?」


「……は?」


 思わず間の抜けた声が出る。


「だめ……ですか?」


 不安そうに見上げてくる。


 紫の瞳が、じっとこちらを見つめていた。


「……いや、別に構わないが」


「ほんとですか!」


 ぱっと顔を輝かせる。


 さっきまでの陰りが、一気に消える。


「やった……!」


 嬉しそうに笑うその姿は、やっぱり年相応の子供だった。


「……」


 そのやり取りを。


 シルフィアが、じっと見ている。


 少しだけ不思議そうに。


 そして――ほんの少しだけ。


 羨ましそうに。


「……変なの」


 小さく呟いた。


 だが、その声はどこか柔らかかった。


 -------------------------------------


 夜。


 屋敷の廊下は、昼間とは打って変わって静まり返っていた。


 灯りだけが、やわらかく床を照らしている。


 そんな中――


 とん、とん、と。


 控えめなノックの音が響いた。


「お兄さま……起きてますか?」


「起きてるぞ」


 短く返すと。


 ゆっくりと扉が開いた。


 隙間から、ひょこっと顔を出す。


「……入ってもいいですか?」


「だからさっき許可しただろ」


「えへへ……ですよね」


 少し照れたように笑ってから、部屋に入ってくる。


 白を基調にした寝間着姿。


 昼間とは違って、どこか幼く見えた。


「……」


 その後ろで。


 ふわり、と。


 小さな影が浮かぶ。


 ――シルフィアだ。


 壁際から、こっそり様子を見ている。


 どうやら完全に寝るわけではなく、気になってついてきたらしい。


「お兄さまの部屋……久しぶりです」


 きょろきょろと見回すリリアナ。


 特に変わったものはないはずだが、それでも楽しそうだ。


「何も変わってないだろ」


「そうなんですけど……なんか落ち着きます」


 そう言って、ベッドの端にちょこんと座る。


 ぽす、と軽い音。


「……いいのか?」


「はい?」


「一緒に寝るんじゃなかったのか」


「あっ……」


 一瞬、固まる。


 それから、じわじわと顔が赤くなる。


「……い、いきなり言わないでください……!」


「お前が言い出したんだろ」


「そ、そうですけど……!」


 もじもじとしながら、視線を逸らす。


 その仕草が妙に子供っぽい。


「……」


 少しだけ間を置いて。


 おそるおそる、こちらを見る。


「……隣、いいですか?」


「好きにしろ」


「……はい」


 小さく頷いて。


 そっと、隣に横になる。


 距離は、ほんの少しだけ近い。


 触れるか触れないかの距離。


「……」


 しばらく、何も言わない。


 ただ静かな時間が流れる。


「……お兄さま」


「なんだ」


「今日、楽しかったです」


 ぽつりと。


 柔らかい声で言う。


「シルフィアさんと話せて」


「そうか」


「はい」


 くすっと笑う。


「なんだか、家族が増えたみたいで」


「……」


 その言葉に。


 少しだけ、間ができる。


 だが、否定はしない。


「……シルフィアさんも、きっと優しい子ですよね」


「まあな」


「最初はびっくりしましたけど……」


 ちらりと視線を動かす。


 部屋の隅。


 そこにいる、小さな精霊へ。


「ちゃんと仲良くなりたいです」


「……」


 その言葉に。


 シルフィアが、ぴくっと反応する。


 だが、出てこない。


 まだ少し距離を保ったまま。


「……」


 リリアナは、少しだけ体を寄せる。


 ほんのわずかに、肩が触れる。


「……お兄さまって、優しいですよね」


「唐突だな」


「だって」


 ふわっと笑う。


「約束、ちゃんと守るし」


「……」


「だから私、好きです」


 あっさりと。


 何の迷いもなく言う。


 ――重くない。


 ただ純粋な「好き」。


「……そうか」


「はい」


 満足そうに目を細める。


「……」


 やがて。


 ゆっくりと目を閉じる。


「……おやすみなさい、お兄さま」


「ああ」


 静かな返事。


 すぐに、寝息が聞こえ始める。


 本当に安心しきった顔だった。


挿絵(By みてみん)


「……」


 その様子を。


 少し離れた場所から、シルフィアが見ている。


 じっと。


 しばらく見つめて。


 それから――


 ふわりと浮かび上がり。


 ベッドの端に、そっと近づく。


 リリアナの寝顔を覗き込む。


「……ほんとに、変な子」


 小さく呟く。


 だが、その声はどこか優しい。


 そして――


 ほんの少しだけ。


 その距離が、縮まった。

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