四話:人見知り
屋敷に戻ると。
玄関ホールには、一人の少女の姿があった。
「お兄さま!」
ぱっと顔を明るくして、こちらに駆け寄ってくる。
――リリアナだ。
「おかえりなさい!」
嬉しそうに笑う。
その無邪気な笑顔は、相変わらず眩しかった。
「ただいま」
軽く手を上げて応じる。
その後ろで、ふわりと浮かんでいたシルフィアが、ぴたりと動きを止めた。
「……っ」
小さく息を呑む気配。
俺の肩に、すっと隠れる。
……まあ、無理もないか。
「お兄さま、その子は……?」
リリアナの視線が、俺の後ろへと向く。
興味と好奇心に満ちた目。
「ああ、こいつは――」
言いかけた瞬間。
「かわいい……!」
ぱぁっと、表情が弾けた。
目を輝かせて、一歩前に出る。
「すごい……精霊さん? 本物……?」
完全にテンションが上がっている。
……まあ、そうなるか。
「ねぇねぇ、触ってもいい――」
そう言って、手を伸ばした瞬間。
「やだっ!」
ぴしっと、鋭い声。
シルフィアが、びくっと身を震わせながらその小さな手が、服の裾をぎゅっと掴む。
「……っ」
明確な拒絶だった。
空気が、一瞬だけ凍る。
「え……?」
リリアナが、きょとんとする。
自分が拒まれたことを、理解しきれていない顔。
「あ……ご、ごめんなさい!」
慌てて手を引っ込める。
「その……びっくりさせちゃった?」
戸惑ったように笑う。
だが――その距離は、それ以上縮まらなかった。
「……大丈夫だ」
俺が一歩前に出る。
「こいつ、人に慣れてないだけだ」
「そうなんだ……」
リリアナは少しだけ寂しそうに目を伏せるが、すぐに顔を上げた。
「じゃあ、ゆっくり仲良くなれるように頑張るね!」
にこっと笑う。
その笑顔には、一切の悪意も打算もない。
ただ純粋に――仲良くなりたいと思っているだけだ。
「……」
その様子を、背後からシルフィアがじっと見ていた。
警戒したまま。
だが、どこか不思議そうに。
「……変な子」
ぽつりと、小さく呟く。
「ん?」
「なんでもない」
すぐに視線を逸らす。
だが――
さっきより、ほんの少しだけ。
掴む手の力が、弱くなっていた。
「それで、お兄さま」
リリアナがこちらを見る。
「この子は……?」
「ああ」
軽く頷く。
「シルフィアだ」
「シルフィアさん……!」
嬉しそうに名前を繰り返す。
「私はリリアナです。よろしくお願いします!」
ぺこりと、丁寧に頭を下げる。
その仕草は、少しぎこちないけど――
ちゃんと気持ちは伝わるものだった。
「……」
シルフィアは、しばらく何も言わなかった。
ただ、じっとリリアナを見つめて。
やがて――
「……シルフィア」
小さく、自分の名前を返す。
それだけだった。
だが、それでも――
さっきよりは、ずっと柔らかい声だった。
面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。




