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狂った弱肉強食世界で最強の俺は、魔力ゼロの妹のためにすべてを壊す  作者: 黒海苔
一章:教祖誕生編

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三話:精霊

「……なんだ、これ」


 少女がいた。


 いや、人間じゃない。


 透き通るような肌。

 淡い光を纏う髪。

 小さな体。


 ――精霊。


 その少女は、瓶の内側からこちらを見ていた。


挿絵(By みてみん)


 怯えと警戒が混じった瞳。


 ――当然だろうな。


「……レイナ」


「はい」


「俺はこいつと話す。人が来ないか見張っててくれ」


「……分かりました。無茶はしないでくださいよ」


 そう言って、レイナは路地の入り口へと下がっていく。


 その背を確認してから、再び瓶の中へ視線を戻す。


「さて」


 軽く瓶を指で叩く。


 こん、と乾いた音が響いた。


「聞こえてるか?」


 しばらくの沈黙。


 やがて――


「……誰?」


 頭の奥に直接響く、かすかな声。


 だがその声には、明確な拒絶が含まれていた。


「通りすがりだ」


「……嘘」


 即答だった。


 その小さな体が、わずかに後ずさる。


「どうせ、あなたも同じでしょ」


「同じ?」


「私を攫った人間たちの仲間」


 吐き捨てるような言葉。


 だがその声は、微かに震えていた。


「優しくして、油断させて……そのあと、また使うつもりなんでしょ」


「……」


「もう分かってるの」


 ぎゅっと、小さな手を握りしめる。


「だから、もういい」


 顔を上げる。


 その瞳には、諦めが浮かんでいた。


「どうせ、最後は同じなんだから」


 ――死ぬ覚悟はできている。


 そう言っているような目だった。


 だが。


 その小さな体は、はっきりと震えていた。


「……さっき」


 俺は口を開く。


「助けてくれって、言ってただろ」


「――っ」


 精霊の目が見開かれる。


「……聞こえてたの?」


「ああ」


 頷く。


「ちゃんと聞こえてた」


「……そう」


 小さく呟く。


 だが、その視線はまだ疑っていた。


「なら、どうするの?」


「どうする、って?」


「助けるふりして、また絶望させるの?」


 試すような声。


 だが、その奥には、ほんのわずかな期待が混じっていた。


「……さあな」


 肩をすくめる。


「口で言っても信じないだろ」


「……当たり前でしょ」


「だよな」


 だから――


「行動で示す」


 手をかざす。


 瓶を縛る鎖に、魔力を流し込む。


 ――軋む音。


 次の瞬間。


 バキン、と。


 鎖が弾け飛んだ。


「え……?」


 精霊が、呆然とする。


 さらに、瓶の口に手をかざし――


 ――パリン。


 ガラスが砕け散る。


 閉じ込められていた空間が、あっさりと壊れた。


「ほら」


 手を差し出す。


「出ろよ」


「……」


 精霊は、動かない。


 ただ、信じられないものを見るような目でこちらを見ている。


「……どうした」


「……あの鎖……」


 ぽつりと呟く。


「並の魔力じゃ、壊せない……」


 それから、ゆっくりと俺を見る。


「それに……あなた、私の声も聞こえた」


「そうだな」


「……」


 何かを考え込むように、視線を落とす。


 やがて。


 小さく息を吐いて――


「……もし」


 顔を上げる。


「これが罠だったとしても」


「ん?」


「今なら……逃げられるよね」


「まあな」


 頷く。


「好きにすればいい」


 それだけだ。


 別に、引き止める理由もない。


「……」


 しばらくの沈黙。


 そして――


「じゃあ」


挿絵(By みてみん)


 精霊は、ゆっくりと瓶の外へと足を踏み出した。


 ふわりと浮かび、こちらへと近づいてくる。


「私は、あなたについていく」


「……は?」


 思わず声が漏れる。


「いいのか? 罠かもしれないんだろ」


「うん。でも」


 少しだけ、困ったように笑う。


「信じることにした」


「急だな」


「それに」


 お腹のあたりを押さえる。


「……お腹すいた」


「は?」


「ここ最近、何も食べてなくて……もう限界」


 真顔だった。


 ……なるほど。


「死ぬ覚悟は?」


「あるけど、お腹すいた方がつらい」


「そうか」


 納得した。


「じゃあ、飯でも食わせるか」


「ほんと?」


「ああ」


 精霊の表情が、少しだけ明るくなる。


「ありがとう」


「気にするな」


 そう言って、軽く手を振る。


「レイナ、戻れ」


 呼びかけると、すぐにレイナが姿を現した。


「終わりましたか?」


「ああ。こいつ連れて帰る」


「……は?」


 精霊を見て、眉をひそめる。


「説明してください」


「あとでな」


「はぁ……」


 深いため息。


「本当に、面倒ごとばかり増やしますね」


「そうか?」


「自覚ないんですか?」


「ないな」


 肩をすくめる。


 その横で、精霊が小さく口を開いた。


「……シルフィア」


「ん?」


「私の名前」


 まっすぐこちらを見る。


「シルフィア」


「そうか」


 頷く。


「俺はレオンだ」


「……レオン」


 その名前を、確かめるように呟く。


「よろしく」


「よろしく」


 軽く返す。


「で、飯だろ?」


「うん」


 素直に頷く。


「じゃあ帰るか」


 そう言って、歩き出す。


 その後ろを、シルフィアがふわりとついてくる。


 さらにその後ろで、レイナが小さくため息をついた。


 ――こうして。


 俺たちは、三人で屋敷へと戻ることになった。

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