幕間:ある冒険者の買い物
世界観の説明です。
「――で? 今日は何の用だ」
奴隷商館の男が、帳簿をめくりながら言った。
昼過ぎ。
市場はいつも通り騒がしい。
鎖の音。
怒鳴り声。
泣き声。
笑い声。
全部が混ざっていた。
「処分」
冒険者は、後ろに立っていた少女の首輪を引いた。
少女はよろめきながら前に出る。
十六くらい。
薄茶の髪。
腕には古い火傷跡。
足取りは重い。
「……ほーん」
商館の男が少女を見る。
顎を掴む。
顔を上げさせる。
「口開けろ」
少女は従った。
「歯は悪くねぇな」
次に腕を掴む。
服をずらす。
「傷多いな」
「三階層でオークにやられた」
「治療は?」
「最低限」
「まぁ、そんなもんか」
商品を見る目だった。
少女は視線を落としたまま動かない。
もう慣れている。
「で、なんで売る?」
「飽きた」
即答だった。
少女の肩が、ほんの少しだけ揺れた。
「ははっ、正直だな」
「最近反応薄くてつまんねぇし、回復も遅くなった」
「壊れかけか」
「そんな感じ」
冒険者は退屈そうに欠伸をした。
「あと、新しいの欲しい」
「若いの?」
「そりゃな」
商館の男が笑う。
慣れた会話だった。
「今なら獣人いるぞ。耳付き」
「高ぇ?」
「状態良いからな。でも人気ある」
「ふーん」
その間、少女は黙って立っている。
話題が自分のことだと理解していても、口を挟まない。
意味がないからだ。
「おい、お前」
突然、商館の男が少女へ声をかけた。
「回復使えんのか」
「……少し」
「見せろ」
少女は小さく頷いた。
震える指を自分の腕へ当てる。
淡い光。
擦り傷が少しだけ塞がる。
「弱」
「だから売るんだよ」
冒険者が鼻で笑った。
「深層じゃ使い物になんねぇ」
「まぁ、下層の雑用なら回せるか」
商館の男は帳簿に何かを書き込む。
「銀貨八枚」
「安」
「傷多い。魔力量低い。従順さは普通。こんなもんだ」
「十枚」
「無理」
「九」
「八」
「チッ」
冒険者は舌打ちした。
だが、それ以上は言わない。
どうでもいいからだ。
「じゃ、それで」
取引成立。
少女の首輪が外される。
次に、新しい札が付けられる。
所有者変更。
それだけ。
少女は一度だけ、前の主人を見た。
だが、男はもう別の商品を見ていた。
「こっちの白髪は?」
「十五。魔力高め」
「顔は?」
「悪くねぇぞ」
「従順?」
「最初は暴れたが、今は静か」
「へぇ」
鉄格子の向こう。
白髪の少女が座っていた。
年齢は十四くらい。
足には鎖。
目だけが死んでいなかった。
「それ、いくら」
「金貨一枚と銀貨六枚」
「高ぇな」
「人気出るからな。回復持ちだし」
冒険者は少女を見下ろした。
白髪。
細い身体。
整った顔。
売れる商品。
使える商品。
「……まぁ、いいか」
袋から金貨を出す。
「毎回使い潰すなら、最初から良いの買った方が楽だしな」
「毎度あり」
商館の男が笑った。
白髪の少女の鎖が外される。
「おい」
冒険者が言う。
「今日からお前、俺のだから」
少女は少しだけ黙った後、小さく頷いた。
「……はい」
「返事はちゃんとしろ」
「はい」
「よし」
冒険者は満足そうに笑う。
その後ろで、さっき売られた少女が、別の檻へ連れて行かれていた。
次の買い手を待つために。
泣かない。
叫ばない。
そんなことをしても、何も変わらないからだ。
市場では、今日も人が売られている。
家畜のように。
道具のように。
それが、この街では普通だった。
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