三十七話:五年
――五年。
アルセリア平原は、完全に変わった。
かつては何もなかった土地。
今は違う。
田は広がり、水は巡り、人は増え。
朝になれば自然と動き、夜になれば火が灯る。
それはもう、“生きる場所”を越えていた。
――“力を蓄える場所”だ。
その中心。
十二人。
五年を生き残り、積み上げた者たち。
誰もが、最初の面影を残していない。
そして――
その存在は、いつしかこう呼ばれるようになっていた。
《聖鎖十二》。
最初の十二。
中心。
核。
誰もが知る、最強の名。
「……集まれ」
レオンの一言。
それだけで、全員の空気が揃う。
「五年だ」
一拍。
「ここまで来た」
誰も口を挟まない。
その言葉の重さを、全員が理解している。
「だから、次に進む」
静かに言う。
「お前らに“名”を与える」
その瞬間。
空気が変わった。
レオンは、全員を見渡す。
そして――
短く、言い切った。
「――破のミレイナ」
「――速のルミナ」
「――隠のシエル」
「――影のリゼ」
「――射のルシア」
「――知のレティシア」
「――調のリュシエラ」
「――断のカルネリア」
「――癒のフィリア」
「――守のアルティナ」
「――工のエルミナ」
「――突のセラフィナ」
静寂。
それだけで、十分だった。
意味は、分かる。
役割は、分かる。
自分が何をする存在なのか。
そのすべてが、そこにあった。
誰も、軽く受け取らない。
誰も、笑わない。
ただ――
受け取る。
それぞれの在り方として。
(……いい)
レオンは静かに判断した。
もう説明はいらない。
この十二人は、“理解している”。
自分たちが何になったのかを。
そして――
何をするべきなのかを。
「……主よ」
ノクティアが笑う。
「ついに形になったのう」
「ああ」
一拍。
「だが――ここからだ」
レオンは、平原を見た。
広がる田。
動く人。
積み上げたもの。
だが。
(……守るだけでは、意味がない)
五年で作った。
なら――
次は。
「外に出る」
その一言で、空気が変わる。
誰も驚かない。
ただ、納得する。
「このままでも生きていける」
「だが、それだけだ」
一拍。
「外は何も変わっていない」
静かに続ける。
「奴隷はまだ売られている」
「弱い者は踏み潰される」
「魔力がないだけで、価値が決まる」
誰も、目を逸らさない。
知っているからだ。
それを。
「この場所を作っただけでは、意味がない」
「――壊す」
一言。
それだけで、全員の目が揃う。
「そのために、外に出る」
だが。
レオンは、わずかに目を細めた。
「問題がある」
ミレイナが笑う。
「潰されるってやつでしょ」
「ああ」
「これだけの戦力は、目立つ」
「理由もなく動けば、敵になる」
沈黙。
そして。
「……後ろ盾が要る」
その言葉。
空気が、わずかに張り詰めた。
その時。
「――あります」
レティシアだった。
全員の視線が集まる。
「私の出自です」
一拍。
逃げない。
逸らさない。
「私は――エルフの国の出身です」
静寂。
「ルミナリスの森」
「その奥にある国」
風が吹く。
その名は、ただの地名ではない。
――外界から隔絶された領域。
――強大な魔力を持つ種族。
誰もが知っている。
だが、誰も“触れたことがない”。
「……使えるのか」
レオンが問う。
「はい」
一拍。
「交渉可能です」
ミレイナが笑う。
「面白そうじゃん」
「エルフとか見てみたい!」
ルミナも乗る。
恐れはない。
あるのは――興味だけだ。
(……いい)
レオンは判断した。
止める理由はない。
「行くぞ」
それだけ。
全員が動く。
迷いはない。
五年。
積み上げた力。
与えられた名。
そして――
これから奪いに行くもの。
風が吹く。
田が揺れる。
人の声が遠ざかる。
アルセリア平原。
それはもう、“終着点”ではない。
――出発点だ。
その先。
ルミナリスの森。
深く。
暗く。
そして――美しい森の奥に。
エルフの国がある。
(……次だ)
レオンは前を見た。
とりあえず一章完結です。
書き溜めていたものを一気に出したので、二章の最初の話の投稿は大分先になります。
幕間と二章のキャラクター紹介だけは先に投稿しておきます。二章開始まで楽しみにお待ち頂けたら幸いです。
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