三十五話:一年
――一年。
たったそれだけの時間で。
だが――
決定的に変わった。
空気が違う。
立っているだけで分かる。
重い。
濃い。
張り詰めている。
それは、魔力だった。
アルセリア平原の中心。
開けた訓練場。
そこに――十二人が立っている。
「……始めるぞ」
レオンの一言。
それだけで、全員の空気が揃う。
次の瞬間。
――爆ぜた。
魔力が、一斉に解放される。
目に見えるほどの圧。
地面が震える。
空気が歪む。
「……は?」
離れた場所で見ていた一般の者たちが、思わず声を漏らす。
それはもう、“人間”の出す量ではなかった。
「いくよ!」
ルミナが飛び出す。
軽い。
速い。
地面を蹴る音が、一拍遅れて届く。
そのまま、標的に向かって――
叩き込む。
轟音。
土が弾け飛ぶ。
「ちょ、やりすぎ!」
ミレイナが叫ぶ。
だが、その口元は笑っていた。
「いや今の普通でしょ!」
「普通なわけあるか!」
言いながら、自分も踏み込む。
速い。
一年前とは比べ物にならない。
重心がブレない。
無駄がない。
そのまま、拳を振り抜く。
空気が裂ける。
衝撃が走る。
「……いい」
レオンは短く呟いた。
視線を移す。
シエル。
無駄がない。
静かに動き、確実に当てる。
派手さはない。
だが――
外さない。
「……」
リゼが、その背後を取る。
気配が薄い。
消えている。
一瞬で距離を詰め――
首元へ。
「……そこ」
「分かってる」
シエルが、わずかに身体を捻る。
避ける。
反撃。
二人の動きは、もはや連携に近かった。
「……いい連携ですね」
ルシアが呟く。
その手には、魔力が集まっている。
圧縮。
制御。
精密。
そして――放つ。
一直線。
ブレない。
狙い通りに、標的を貫く。
「……制御精度、上がってる」
レティシアが静かに分析する。
「無駄が減っています」
「そりゃ一年やってるしね……」
エルミナが工具をいじりながら言う。
「効率、だいぶ改善した」
その横で。
「いきます!」
セラフィナが踏み込む。
勢いがある。
荒い。
だが――
強い。
魔力をそのまま叩きつける。
「……っ!」
地面が抉れる。
「ちょっと、それ制御しなさいよ!」
ミレイナが叫ぶ。
「無理ですってまだ!」
「できるようにするのよ!」
「はい!」
即答。
息は上がっている。
だが、目は死んでいない。
アルティナは、少し離れた場所。
ゆっくりと魔力を練る。
慎重に。
だが――
確実に増えている。
「……前より、出てる」
小さく呟く。
フィリアが頷いた。
「安定してます」
「無理しすぎないで」
「うん……でも、やる」
その声は弱い。
だが、折れてはいない。
カルネリアは無言で動く。
一撃。
それだけ。
だが――
重い。
確実に壊すための動き。
「……相変わらず無駄ないわね」
リュシエラが微笑む。
その視線は全体を見ている。
「そこ、崩れてるわよ」
「ルミナ、少し抑えて」
「ミレイナ、左空いてる」
指示が飛ぶ。
全体が回る。
止まらない。
乱れない。
(……回ってるな)
レオンは静かに見ていた。
一年前とは違う。
三ヶ月前とも違う。
明確に。
(戦力になってる)
そして――
理解する。
(ここからが本番だ)
ただ強いだけでは足りない。
外に出るなら。
奪うなら。
壊すなら。
まだ足りない。
だが――
“土台”はできた。
「……止め」
レオンが言う。
全員が止まる。
呼吸が荒い。
だが、立っている。
誰一人、倒れていない。
「……はぁ……」
ルミナがその場に座り込む。
「やば……今の普通に楽しかった……」
「バカね」
ミレイナが笑う。
「前は死にそうだったのに」
「今も死にそうだよ!」
「顔が違うのよ」
その言葉に、全員が少しだけ笑った。
シエルは、静かに手を見る。
魔力が、残っている。
まだ動ける。
(……強くなってる)
確信。
初めてではない。
だが、今ははっきり分かる。
積み上がっていると。
「……いい顔だな」
レオンが呟く。
誰も答えない。
だが――
全員、同じ顔をしていた。
迷いがない。
折れていない。
そして――
足りないと、理解している顔。
「一年でここまでだ」
一拍。
「あと四年」
空気が引き締まる。
「さらに上げる」
「限界までな」
その言葉に。
誰も、嫌な顔をしなかった。
むしろ――
「……上等」
ミレイナが笑う。
「まだ伸びるなら、やるだけでしょ」
「やるやる!」
ルミナも笑う。
「どこまでいけるか、楽しみじゃん!」
「……効率、もっと上げる」
エルミナが呟く。
「無駄、削る」
「制御も詰めます」
ルシア。
「戦力として完成させましょう」
レティシア。
シエルは、何も言わない。
ただ――
前を見ていた。
(……壊す)
その意志だけが、あった。
風が吹く。
田が揺れる。
人の声が遠くに聞こえる。
アルセリア平原は、一年で“生きる場所”になり。
そして今――
“戦う力”を持ち始めた。
「……いい」
レオンは静かに目を細めた。
「続けるぞ」
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