三十四話:三ヶ月
――三日で、全員が限界を知った。
朝。
立てない。
腕が上がらない。
呼吸が浅い。
それでも――
訓練場には、全員がいた。
「……もうやめたい」
ルミナが地面に転がりながら言う。
笑っていない。
本気だ。
「昨日も同じこと言ってたでしょ」
ミレイナが座り込んだまま返す。
その声にも、余裕はない。
「昨日よりキツいんだって……!」
「そりゃそうよ。積み上がってるんだから」
「意味分かんない……!」
その横で、セラフィナが必死に魔力を出そうとしている。
「……っ、でて……!」
出ない。
何度やっても、出ない。
「……っ……」
唇を噛む。
悔しさで、目が滲む。
そのまま、膝をついた。
「……無理……」
ぽつりと落ちた声。
小さい。
だが――
はっきりと、諦めに近い響きがあった。
空気が、少しだけ止まる。
その時。
「無理じゃない」
シエルだった。
短く。
それだけ。
だが――視線は逸らさない。
「……無理だよ」
セラフィナが首を振る。
「出ないもん……」
「出なくてもやる」
「……え?」
「昨日も出なかった」
一拍。
「でも、今日少しだけ出た」
セラフィナの目が揺れる。
「……それ、ほんと?」
「ほんと」
嘘はない。
シエルはそういう顔をしていた。
その横で、ルシアが小さく頷く。
「実際、増えています」
「誤差レベルですが」
「……でも増えてる」
レティシアも続く。
「後半に効いてきます」
「今は、ただの準備段階だ」
「準備って……三日でこれなんだけど……」
「三ヶ月はこんなものだぞ?」
「……え?」
空気が凍る。
「三ヶ月?」
ミレイナが聞き返す。
「ああ」
「ここから三ヶ月は、ほぼ変化がない」
「むしろ、体調は悪化する」
「……」
「その間に辞める人間がほとんどだ」
静かな事実。
「……は?」
ミレイナが乾いた笑いを漏らす。
「それ、今言う?」
「今だからこそだ」
「……最悪」
だが、その顔から笑みは消えなかった。
むしろ――
「上等じゃん」
口元が歪む。
「その三ヶ月越えたら、勝ちってことでしょ?」
「勝ちではない」
「差がつくだけだ」
「同じじゃん」
ミレイナは立ち上がる。
ふらつきながらも。
「やるわよ」
吐き捨てるように言う。
「ここでやめるとか、ダサすぎでしょ」
その言葉に。
空気が、少し戻る。
「……やる」
カルネリアが呟く。
短く。
それだけ。
「私も……やる」
アルティナが震える手を握る。
「怖いけど……でも……」
フィリアが支えるように隣に座る。
「一緒にやりましょう」
セラフィナは、まだ下を向いている。
だが。
ゆっくりと顔を上げた。
「……やります」
声は弱い。
だが、消えてはいない。
「絶対……やめません」
レオンは、それを見ていた。
何も言わない。
ただ、判断する。
(……折れてないな)
それで十分だった。
「続けろ」
短く言う。
それだけでいい。
全員が、また手を上げる。
光が灯る。
弱い。
不安定。
だが――消えない。
それから。
地獄は続いた。
五日。
十日。
そして――
――三ヶ月。
誰一人、消えなかった。
倒れる者はいた。
泣く者もいた。
吐く者もいた。
それでも。
全員が、立ち続けた。
そして――
「……出てる」
アルティナが、呟いた。
手の中の光。
前より、明らかに強い。
「……ほんとだ」
ルミナが笑う。
「ちょっとだけだけど……!」
「……誤差じゃない」
レティシアが静かに言う。
「これは、積み上がり始めています」
ミレイナが、ニヤッと笑った。
「……来たじゃん」
その言葉。
全員が、理解した。
ようやく。
“始まった”と。
(……ここからだ)
レオンは静かに目を細めた。
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