表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
狂った弱肉強食世界で最強の俺は、魔力ゼロの妹のためにすべてを壊す  作者: 黒海苔
一章:教祖誕生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/44

二十一話:少女

 ――演説が終わった後。


 場は、まだ静まり返っていた。


 誰も動けない。

 誰も言葉を発せない。


 ただ――


 レオンの言葉と、あの“力”の余韻だけが、重く空気に残っている。


 そんな中――


「……ねぇ」


 小さな声が、静寂を裂いた。


 視線が集まる。


 レオンの前に、一人の少女が立っていた。


 白銀の髪。猫のような耳と尾。

 痩せた身体に、粗末な鎖。


 歳は……十にも満たないだろう。


 だがその目は――


 妙に冷めていた。


「ほんとにさ」


 一歩、近づく。


「壊せるの?この世界」


 その視線は、まっすぐだった。


 試している。


 いや――


 “確かめている”。


「嘘だったらさ」


 さらに一歩。


「どうするの?」


 距離が消える。


 そして――


 少女は、レオンの胸元を掴んだ。


 ぐい、と乱暴に引き寄せる。


「ねぇ」


 挑発するように。


「答えてよ」


 周囲がざわめく。


「やめろ……!」

「殺されるぞ……!」


 だが、少女は離さない。


 むしろ――笑った。


「ほら」


「強いんでしょ?」


「だったらさ――」


 さらに力を込める。


「怒ってみなよ」


 空気が凍る。


 普通なら。


 ここで終わりだ。


 殴られる。蹴られる。

 最悪――殺される。


 それが、この世界の“当たり前”。


 だからこそ少女は――


 試している。


 壊しにきている。


(……ああ)


 その瞬間、レオンは理解した。


 この目。


 この態度。


 この“わざとらしい反抗”。


 ――知っている。


 前世で、見たことがある。


 テレビの特集で。


 施設で暮らす子供たち。


 虐待を受けてきた子供たち。


 彼らは――


『わざと問題を起こす』


『わざと嫌われるようなことをする』


 なぜか。


 簡単だ。


 ――“試している”のだ。


『この人は、どこまで許してくれるのか』


『結局、この人も自分を捨てるのか』


 信じたい。


 でも、信じられない。


 だから――壊す。


 関係が始まる前に、自分から壊しにいく。


 そうすれば、傷つかなくて済むから。


「……なるほどな」


 レオンは、ぽつりと呟いた。


 そして――


 少女の手を、そっと外す。


 乱暴ではなく。


 あくまで、静かに。


「何すんの」


 少女が眉をひそめる。


 その瞬間――


 レオンは、そのまま腕を回した。


 引き寄せる。


「――っ」


 少女の体が、わずかに跳ねた。


 だが、振り払えない。


 強引ではない。


 だが、逃がさない力。


 気づけば――


 少女は、レオンの胸の中にいた。


「……な、にこれ……」


 声が震える。


 理解が追いつかない。


 痛みが来ない。


 怒号もない。


 ただ――


 抱きしめられている。


 優しく。


 静かに。


 逃げ場を塞ぐようにではなく――


 “落ち着かせる”ように。


「つまんねえことするな」


 レオンは淡々と言う。


「試すな」


「……え」


 少女の思考が止まる。


「どうせ、『こいつも同じか』って確認したいんだろ」


 図星。


 少女の体が、びくりと震える。


「そんなもん、やる意味はない」


 腕の力は変わらない。


 だが――


 強くもならない。


 ただ、そこにある。


「俺は、お前を殴らない」


「理由は簡単だ」


 一拍。


「お前は、何も悪くないからだ」


 静寂。


 完全な静寂。


「……ほんとに?」


 かすれた声。


「何回やっても?」


「何回でもだ」


 即答。


 迷いはない。


「……何回でも?」


「飽きるまでやれ」


 変わらない声。


 変わらない温度。


 少女の視界が揺れる。


 初めてだった。


 拒絶されない。


 壊されない。


 無視されない。


 ただ――


 “受け止められる”。


「……へんなの」


 ぽつりと呟く。


 だが。


 次の瞬間。


 ぽろり、と涙が落ちた。


「……バカじゃないの」


 震えた声。


 それでも――


 少女は離れなかった。


 むしろ。


 ぎゅっと、服を掴む。


 今度は――


 壊すためじゃない。


 離れないために。


「……じゃあさ」


 顔を押し付けたまま、言う。


「ついてっても、いいの?」


 レオンは、迷わず答えた。


「ああ」


「最初から、そのつもりで言ってる」


 少女は何も言わない。


 ただ――


 そのまま、しばらく動かなかった。


 涙を、こぼしながら。


挿絵(By みてみん)


 少女は、しばらく動かなかった。


 レオンの胸に顔を押し付けたまま、ただ静かに涙を零している。


 誰も、声を出せない。


 先ほどまでの空気とは、明らかに違っていた。


 張り詰めた緊張ではない。


 恐怖でもない。


 ――何かが、変わり始めている。


「……」


 やがて。


 レオンは、ゆっくりと少女を離した。


 無理に引き剥がすのではなく。


 自然に、そっと。


 少女は顔を伏せたまま、離れた。


 だが――


 その手は、まだレオンの服を掴んでいる。


 離さない。


 離れない。


 その意思だけは、はっきりと伝わっていた。


「……お前はどうする」


 レオンが、静かに問う。


 少女は、少しだけ顔を上げる。


 涙で濡れた目。


 だが――


 その奥にあった濁りは、もうない。


「……いく」


 小さく。


 だが、はっきりと。


「ついてく」


 その言葉が落ちた瞬間。


 空気が、揺れた。


「……」


 周囲の奴隷たちが、ざわめく。


 恐怖ではない。


 迷い。


 そして――


 選択の前の沈黙。


「……俺は言ったはずだ」


 レオンが全体を見渡す。


「救ってやるとは言わない」


「守ってやるとも言わない」


 一拍。


「だが」


 視線が鋭くなる。


「ついて来るなら――使い潰さない」


 静かな言葉。


 だが。


 その重みは、誰よりも彼らが知っている。


「……っ」


 誰かが、息を呑む。


 この世界で。


 “使い潰さない”という言葉が、どれだけ異質か。


 ――理解しているからこそ、刺さる。


「……」


 一人。


 また一人。


 膝をつく者が現れる。


 音もなく。


 だが確実に。


「……やる」


「俺も、行く」


「……もう、戻る場所なんてない」


 言葉が、広がっていく。


 やがて。


 ほとんどの者が、膝をついていた。


 強制ではない。


 命令でもない。


 ただ――


 “選んだ”。


 それだけだ。


「……」


 レオンは、それを見下ろす。


(……これが最初か)


 だが、表情は変わらない。


「名前は」


 ぽつりと。


 少女に向けて言う。


「……え」


「お前の名前だ」


 一拍。


「あるのか」


 少女は、わずかに視線を落とす。


「……ない」


 小さな声。


「そうか」


 レオンは頷く。


「なら、今つけろ」


「……え?」


「自分で決めろ」


「お前の名前だ」


 静かに言う。


「他人に決められるもんじゃねえ」


 少女の目が、揺れる。


 戸惑い。


 混乱。


 それでも――


 考える。


 初めて与えられた“選択”を。


「……」


 長い沈黙。


 そして――


「……シエル」


 ぽつりと。


「シエル……が、いい」


 小さく。


 だが、確かに自分で選んだ名前。


「……そうか」


 レオンは頷く。


「シエル」


 その名を呼ぶ。


 それだけで。


 少女の肩が、わずかに震えた。


「これからはそれで呼ぶ」


 淡々と。


 否定も修正もない。


 ただ、受け入れる。


「……うん」


 シエルは、小さく頷いた。


 涙の跡を残したまま。


 だがその表情は――


 もう、さっきとは違っていた。


「……決まりだな」


 レオンが全体を見渡す。


「ここが、お前らの最初の場所だ」


 一拍。


「働け」


 それだけ。


 だが――


「「……はい」」


 自然と、声が返る。


 強制ではない。


 恐怖でもない。


 ただ――


 受け入れた。


 その瞬間。


 何もなかった平原に。


 “勢力”が、生まれた。

面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ