十一話:商会
翌日。
朝食を終えた後。
「……そういえば」
ふと思い出したように口にする。
「セレナの商会って、今どんな感じなんだろうな」
「商会、ですか?」
リリアナが首を傾げる。
「ああ」
「昨日、お姉さまが言ってたやつですよね!」
「そうだ」
実際、気にはなる。
あいつが“売る”と言い切った以上、もう動いているはずだ。
「見に行くか」
「えっ、いいんですか!?」
ぱっと顔が明るくなる。
「別に問題ないだろ」
「行きたいです!」
即答だった。
「なら決まりだな」
そこで、ちらりと視線をずらす。
「レイナ」
「はい」
「準備しろ。街に出る」
「承知しました」
淡々と頷く。
そして――
「……お前も来るか?」
今度は、少し上を見る。
「……私?」
シルフィアが、宙に浮いたままこちらを見る。
「ああ」
「……」
一瞬、考えるように沈黙してから。
「……行く」
小さく頷いた。
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街は、相変わらず騒がしかった。
人の声。
足音。
商人の呼び込み。
昨日と同じはずなのに――
どこか違って見える。
「わぁ……!」
リリアナが楽しそうに辺りを見回す。
「やっぱり街って賑やかですね!」
「ああ」
「いろんなお店がありますね……!」
目を輝かせている。
――だが。
「……」
ふと。
違和感があった。
周囲の視線。
ちらり、とこちらを見ては逸らす人間。
そして――
「……あの子、魔力が……」
「やめときなよ、関わると――」
小さな声。
聞こえないようで、聞こえる距離。
「……」
視線が、リリアナに向けられている。
ほんの一瞬だけ。
足を止める。
「……お兄さま?」
リリアナが振り返る。
「どうかしましたか?」
「……いや」
「今、何か――」
「大丈夫ですよ」
リリアナが、にこっと笑った。
「こういうの、慣れてますから」
「……」
「気にしなくていいです」
そう言って、前を向く。
「今日は楽しい日なんですから!」
「……」
その背中を見て。
わずかに、引っかかる。
だが――
「……気のせいか」
そう呟いて、歩き出した。
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セレナの商会は、すぐに分かった。
「……でかいな」
「すごいです……!」
リリアナが目を輝かせる。
人の出入りが多く、活気がある。
ただの店、という規模ではない。
「……本当にやってるんだな」
「当たり前でしょ」
後ろから声。
振り向くと、セレナがいた。
「やぁ、やぁ。来てくれたんだね」
「……タイミングいいな」
「見張ってたからね」
「怖いこと言うな」
「冗談だよ」
くすっと笑う。
「まあ、来る気はしてたけどね」
「……」
「どうだい?」
軽く腕を広げる。
「私の商会は」
「……すごいな」
素直に言う。
「でしょ?」
満足そうに頷く。
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ひと通り見て回った後。
「楽しかったです!」
リリアナが満足そうに笑う。
「ああ」
「また来たいですね!」
「そのうちな」
そんなことを話しながら。
帰り道を歩く。
――その時だった。
「……」
視界の端に、妙な光景が入る。
足が止まる。
数人の冒険者。
その中央。
乱暴に引きずられている、少女。
首輪。
鎖。
――奴隷。
「……なんだ、あれ」
思わず、声が漏れる。
少女は抵抗しない。
いや――
できないのか。
力なく、引きずられている。
「おい」
一歩、踏み出す。
「レオン様」
その瞬間。
腕を掴まれる。
レイナだった。
「離せ」
「いけません」
低い声。
いつもの軽さがない。
「……どういうことだ」
睨む。
「なんで止める」
「……」
レイナは、一瞬だけ目を伏せてから。
静かに言った。
「レオン様は、知らないと思いますが」
一拍。
「これが、冒険者の世界では“常識”なのですよ」
「……は?」
意味が分からない。
「何を言って――」
レイナはリリアナをちらりと見てから
「ここでは話せません」
きっぱりと遮る。
「帰ったら、詳しく説明します」
「……」
視線を戻す。
冒険者たちは、もう遠ざかっていた。
誰も止めない。
誰も見ない。
――まるで、それが当たり前であるかのように。
「……」
胸の奥に、妙な違和感が残る。
「……行きましょう」
レイナが静かに言う。
「……ああ」
短く答える。
だが――
その足取りは、さっきまでよりもわずかに重かった。
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