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狂った弱肉強食世界で最強の俺は、魔力ゼロの妹のためにすべてを壊す  作者: 黒海苔
一章:教祖誕生編

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十話:開発

「じゃあ、作ってみようか」


 セレナがあっさりと言った。


「……今からか?」


「今だからこそ、だよ」


 にやりと笑う。


「熱があるうちに形にしないと、いい案は逃げる」


「……相変わらずだな」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


 軽く流して、そのまま立ち上がる。


「厨房、借りるよ」


「勝手にしろ」


「うん、そうする」


 迷いがない。


 完全に“仕事モード”だ。


 -------------------------------------


 厨房。


 すでに材料は揃えられていた。


「卵、牛乳、砂糖……」


 セレナが順に確認していく。


「思ったよりシンプルだね」


「だからいいんだろ」


「うん、だからいい」


 納得したように頷く。


「シンプルなものは、応用が効くからね」


「……」


 手際よく準備が進む。


 卵を割り、混ぜる。


 牛乳を温め、砂糖を溶かす。


「へぇ……」


 セレナが少しだけ目を細める。


「“火を通す前の段階”で、すでに完成形が見えるのは面白い」


「そうか?」


「うん」


 混ぜながら言う。


「大体の商品って、“途中”は不格好なのに、最後だけ綺麗になるものが多い」


「……」


「でもこれは、途中からすでに“それっぽい”」


 くすっと笑う。


「売りやすいね」


 -------------------------------------


 しばらくして。


 蒸し終わったそれが、並べられる。


「……これが、プリンか」


 セレナが覗き込む。


 淡い黄色の、滑らかな表面。


 揺らすと、ぷるりと震える。


「見た目はいいね」


「だろ」


「うん、これは強い」


 迷いなく言う。


「まず“見た目で勝てる”」


 すでに商品目線だ。


「食べてみていいかい?」


「どうぞ」


 スプーンを取る。


 すくって、口へ。


「……」


 一瞬、止まる。


 そして。


「……これは、売れるね」


 即答だった。


「早いな」


「いや、これは分かる」


 真剣な顔で言う。


「甘さ、食感、香り。全部ちょうどいい」


「……」


「何より、“軽い”」


「軽い?」


「うん」


 もう一口食べながら続ける。


「今の菓子って、重いし量も多い。満足感はあるけど、気軽じゃない」


「……確かに」


「でもこれは違う」


 一拍。


「“もう一つ食べたくなる”」


「……」


「これ、強いよ」


 完全に確信している顔だった。


 -------------------------------------


 だが。


 そこで、セレナはふと動きを止めた。


「……いや」


「どうした」


「問題があるね」


「もうか」


「あるとも」


 真剣な顔に変わる。


「これは――」


 一拍。


「保存が効かない」


「……ああ」


「作ってすぐ食べるならいい。でも商品にするなら致命的だ」


「だな」


「持ち運びも難しい。崩れるし、温度で変わる」


「……」


 完全に“商売の壁”に当たっている。


「じゃあどうする?」


 レオンが聞く。


 試すように。


「簡単だよ」


 セレナは即答した。


「売り方を変える」


「……どういう意味だ」


「保存できないなら、保存しなければいい」


「は?」


「つまり」


 にやりと笑う。


「“その場で食べさせる商品”にする」


「……店か」


「そう」


 指を立てる。


「屋台でもいい。店でもいい」


「作りたてを提供する」


「そう」


 セレナは頷く。


「それなら問題は一つ消える」


「……」


「むしろ」


 さらに続ける。


「“出来たて”っていう付加価値がつく」


「……なるほどな」


「でしょ?」


 楽しそうに笑う。


「あと一つ」


「まだあるのか」


「あるよ」


 当たり前のように言う。


「器」


「器?」


「ええ」


 プリンを指さす。


「これ、そのまま出すと味気ない」


「……」


「でも、綺麗な器に入れれば――」


 一拍。


「“特別感”が出る」


「……貴族向けか」


「そう」


 セレナは満足そうに頷いた。


「高く売れる」


 迷いがない。


 完全に道が見えている顔だった。


 -------------------------------------


「……すごいです……!」


 リリアナが目を輝かせている。


「もう売ることまで考えてるんですね……!」


「当然だよ」


 セレナはさらっと言う。


「いいものは、どう売るかまで考えて完成だからね」


「……」


 シルフィアが、じっとプリンを見ている。


 そして――


「……また食べる」


 ぽつりと呟いた。


「ははっ」


 セレナが笑う。


「いいね、その反応」


「それが一番大事なんだよ」


「……?」


「“また欲しい”って思わせること」


 一拍。


「それが、商売の本質さ」


 ――そう言って。


 セレナは、楽しそうに笑った。


 -------------------------------------


 しばらくの間。


 セレナは試作のプリンをいくつか食べ比べ、細かく調整を重ねていた。


「甘さはこれくらいがいいね。これ以上だとくどい」


「火の通りは?」


「もう少し滑らかにできる。火加減で調整できそうだ」


 ぶつぶつと独り言のように呟きながらも、その目は真剣そのものだ。


 ――完全に仕事モード。


 だが。


 やがて。


「……よし」


 小さく息を吐いて、手を止めた。


「今日はここまでにしよう」


「もういいのか?」


「うん」


 軽く頷く。


「方向性は見えたし、あとは私の領分だ」


 そう言って、手を軽く払う。


「レオンくんは、ここまでで十分だよ」


「そうか」


「うん。これ以上は、私の仕事」


 その言葉には、妙な自信があった。


 ――任せておけ、という顔だ。


「お姉さま、もう帰るんですか?」


 リリアナが少し寂しそうに聞く。


「そうだね」


 セレナは、優しく微笑む。


「やることができたから」


「そっか……」


「でも、また来るよ」


 ぽん、と軽く頭を撫でる。


「今度は、ちゃんと商品になったものを持ってね」


「はい!」


 ぱっと顔を明るくするリリアナ。


 その様子に、セレナは満足そうに頷いた。


 そして。


 ふと、こちらを見る。


「……それにしても」


 少しだけ目を細めて。


「随分と賑やかになったじゃないか」


「そうか?」


「そうさ」


 くすっと笑う。


「前は、もう少し静かだったよ」


「……」


「悪くない変化だと思うけどね」


 ちらりと、シルフィアの方を見る。


「その子も含めて」


「……」


 シルフィアは何も言わない。


 だが、ほんの少しだけ視線を逸らした。


「……ふふ」


 それを見て、セレナが小さく笑う。


「じゃあ、私は行くよ」


 軽く手を振る。


 いつもの、軽い調子。


 だが――


 扉に向かって歩き出したところで、足を止めた。


「……レオンくん」


「なんだ」


 振り返らないまま。


「今日は、いい日だったよ」


 ぽつりと。


 少しだけ、柔らかい声で言う。


「……そうか」


「うん」


 短く頷く気配。


 そして。


「ありがとね」


 それだけ言って。


 今度こそ、軽く手を振りながら部屋を出ていった。


 ――ぱたん、と扉が閉まる。


「……」


 一瞬だけ、静けさが戻る。


「……いいお姉さまですね」


 リリアナが、ぽつりと呟いた。


「……まあな」


 短く返す。


「……」


 シルフィアも、扉の方をじっと見ていた。


「……変な人」


「それは否定しない」


「……でも」


 少しだけ間を置いて。


「……嫌いじゃない」


 小さく、そう言った。

面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

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