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狂った弱肉強食世界で最強の俺は、魔力ゼロの妹のためにすべてを壊す  作者: 黒海苔
一章:教祖誕生編

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九話:新商品

 ――そして。


 気づけばセレナは、本当に商会を立ち上げていた。


 最初は石鹸だけだったはずだ。


 だが、一つ売れれば、次を考える。

 一つ当たれば、その利益でまた次を試す。


 そんなことを繰り返しているうちに、気づけば扱う商品は増え、規模も広がっていった。


 今では、十四歳にして商会長。


 しかも、それを“周囲のお飾り”ではなく、本当に回しているのだから大したものだ。


 ……いや、大したものなんて言葉では足りないか。


 単純に、化け物じみている。


 俺がヒントを出したのは、最初だけだ。


 そこから先は、ほとんどセレナ自身が広げた。


 商品をどう見せるか。

 誰に売るか。

 どうやって価値を作るか。


 そういうことを、あいつは最初から自然に分かっていた。


 だから今でも、たまにこうして俺のところへ来る。


 新しい商品の話を持って。


 いや――


 正確には、“使えそうな発想がないか探りに来る”と言った方が近いかもしれない。


 -------------------------------------


「……って感じでね」


 セレナは、どこか楽しそうに肩をすくめた。


「今の私があるのは、案外レオンくんのおかげなんだよ?」


「初期だけだろ」


「その初期がなかったら始まってないさ」


 さらっと返される。


「お兄さま、すごいです……!」


 リリアナが、目を輝かせながらこちらを見る。


「石鹸を考えたんですね!」


「考えたっていうか、きっかけを出しただけだ」


「またまた」


 セレナが口元に笑みを浮かべる。


「そうやってすぐ自分の手柄を小さく見せるんだから」


「事実だろ」


「どうだか」


 完全に面白がっている顔だ。


「……」


 そのやり取りを、シルフィアが黙って聞いていた。


 そして。


「……やっぱり、変」


 ぽつりと呟く。


「何がだ」


「……あなた」


 じっとこちらを見る。


「変な人間だと思ってたけど……思ったより、ずっと変」


「褒めてるのか、それ」


「……たぶん」


 少し迷ってから、そんなことを言う。


「ははっ」


 セレナが楽しそうに笑った。


「いいね、その子。見る目がある」


「そうか?」


「あるとも」


 そう言ってから、セレナはふっと表情を変えた。


 遊びの色を少し引かせて。


「で、本題なんだけどね」


「やっぱりそれがあるのか」


「当然だろう?」


 にやりと笑う。


「久しぶりに可愛い弟に会いに来たのも本当だけど、それだけで来るには少し距離があるからね」


「正直だな」


「商人だからね」


 まったく悪びれない。


「それで?」


「新しい商品を考えてるんだよ」


 セレナはそう言って、近くの椅子に腰掛けた。


「石鹸ほど日用品じゃない。

 でも、うまくいけば貴族に強く売れるもの」


「ふうん」


「で、ちょっと詰まってる」


 そこで、ちらりとこちらを見る。


「何か、妙な発想はないかい?」


「妙な発想って言い方やめろ」


「でも事実だろう?」


「否定しないのかよ」


「しないさ」


 セレナは即答した。


「普通の子供は、灰と脂を見て石鹸なんて思いつかない。

 普通の子供は、“香りに金を払う”なんて理屈を五歳で言わない」


「……」


「だから、私は君に聞きに来るんだよ」


 そう言って、頬杖をつく。


 その目は完全に、商売人のそれだった。


 ――やれやれ。


 どうやら、今日は簡単には帰ってくれそうにない。


 -------------------------------------


「で?」


 セレナが頬杖をついたまま、こちらを見る。


「今回は何を考えてるんだ」


「うーん……」


 少しだけ視線を上に向ける。


「石鹸みたいな“必需品”じゃないんだよね」


「ほう」


「でも、“欲しくなるもの”にしたい」


「また曖昧だな」


「曖昧な段階だからね」


 あっさりと言い切る。


「一応、候補はいくつかあるんだけど……決め手に欠ける」


「例えば?」


「香油の強化版とか、装飾品とか」


「無難だな」


「無難すぎて面白くない」


 即答。


「売れるだけならそれでもいい。でも、それじゃつまらない」


 にやりと笑う。


「どうせなら、“今までになかったもの”を出したいじゃないか」


「商人の台詞じゃないな」


「利益もちゃんと出すよ?」


「ならいいけどな」


「当然さ」


 軽く笑ってから。


 セレナは改めてこちらを見る。


「で、何かない?」


「……」


 少しだけ考える。


 とはいえ、答えを出す必要はない。


 こいつは、ヒントさえあれば勝手に走る。


「そうだな……」


 一つ、適当に口にする。


「“香り”はもうやったよな」


「やったね」


「じゃあ、“味”は?」


「味?」


 セレナの目が、わずかに細くなる。


「食べ物の話かい?」


「食べ物に限らなくてもいい」


「……どういうこと?」


「例えば」


 少しだけ間を置く。


「“甘い匂い”とか、“美味しそうな感覚”とか」


「……」


 セレナの思考が止まる。


 いや、止まったように見えて――


 一気に回り始めている。


「……なるほど」


 ぽつりと呟く。


「“食欲”に寄せる、か」


「別にそこまで言ってない」


「でもそういうことだろう?」


 口元が楽しそうに歪む。


「香りって、“気分”だけじゃなくて“欲求”にも直結する」


「……」


「甘い香りでリラックスさせる。

 あるいは、食欲を刺激する」


 指先で机を軽く叩く。


「面白いね」


 完全に乗った。


「……」


「待てよ」


 さらに続く。


「香りだけじゃなくてもいい」


「ほう」


「“味”そのものを商品にすることもできる」


「どういう意味だ」


「例えば――」


 一瞬だけ考えてから。


「手軽に食べられる甘いもの」


「……菓子か」


「そう」


 セレナは頷く。


「でも、この世界の菓子って、どれも重いし雑でしょ?」


「まあな」


「保存も効かないし、持ち運びもしにくい」


「確かに」


「だったら」


 にやりと笑う。


「“手軽で”“美味しくて”“見た目もいい”菓子を作ればいい」


「……」


「それだけで、価値になる」


「単純だな」


「単純だからいいんだよ」


 即答。


「難しい理屈より、“欲しい”と思わせた方が勝ちなんだから」


「……」


 完全にスイッチが入っている。


「……ねぇ」


 不意に。


 リリアナが口を挟む。


「甘いものって……プリンみたいなのですか?」


「プリン?」


 セレナが首を傾げる。


「なんだいそれ」


「お兄さまがこの前に新しく考えたお菓子です」


「へぇ?」


 セレナの目が、わずかに鋭くなる。


「どんなものだった?」


「えっと……柔らかくて、甘くて、とろっとしてて……」


「……」


「すごく美味しかったです!」


「……」


 セレナが、ゆっくりとこちらを見る。


「レオンくん?」


「なんだ」


「それ」


 一拍。


「詳しく聞かせてもらおうか」


「……」


 やっぱり食いついたか。


「……別に大したものじゃない」


「君が“大したことない”って言うものは、大体当たりなんだよ」


「偏見だろ」


「経験則だよ」


 にこりと笑う。


 完全に逃がす気がない顔だ。


「……」


 シルフィアが、そのやり取りをじっと見ている。


 そして――


「……あれ、美味しかった」


 ぽつりと呟いた。


「……ほう」


 セレナの目が、さらに細くなる。


「精霊まで保証付きとはね」


「勝手に評価するな」


「するさ」


 楽しそうに笑う。


「これは、面白くなってきたね」


 完全に“商売の顔”だった。

面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

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