第五話 9
それで、今日の遡りはここまでで終わりかなと思っていたら、やっぱり全く別の映像が割り込んできた。僕は、またもや四角い白い部屋の真ん中に座っていた。目の前に老婆が座っている。そして、どうしてだか僕の右手の椅子に白い服を着た祐樹、左手の椅子に黒い服を着た愛川哲也が座っていた。祐樹は普通に椅子に座っていたが、愛川哲也は椅子に鎖で縛りつけられている。そして、老婆は祐樹と愛川哲也に「この者をよく見張るのじゃ」と命令し、祐樹は黙って頷いた。がしかし、愛川哲也は老婆から顔を背けていた。老婆は愛川哲也の反抗的な姿を見て「使命が果たされぬ限り、天上界には二度と戻れぬことを心得よ!」と罵倒すると、二人は霧のように消え去った。
僕は、何故、祐樹と愛川哲也がいるのだろう?と考えていた。しかし、その後すぐに老若男女の大勢の人達が、どこからともなく現れ、僕の周りを取り囲んでいた。見たことがあるような無いような人が部屋の中いっぱいにいた。僕はその人達に話し掛けようとしているのだが、その人達は笑顔でただ黙って立っている。やがて、頭上から強い光が差してきて、僕は目を開けていられなくなった。その大勢の人達には羽が生えているのか、次々羽ばたき光の中へ吸い込まれていった。僕もなんとかして、その光のほうへ向かいたいと願っている。しかし、気付くとまた老婆が目の前に現れ、光は消え去った。
壁を見ると、この間と同じように、僕が生まれてから現在までの映像が超スピードで映し出されていた。そして、また同じように老婆が僕を罵倒しているのである。ここで、もうすぐ目が覚めるのだなと僕は気付いているのだが、大学生の祐樹が豹変した後どうなったのか知りたくて、どうにかして過去の記憶の続きに戻りたいと切望していた。しかし、遠くで芳子の声が微かに聞こえてきた。
「顔色が悪いわ。亮、戻って来て」
僕は芳子のその声で、目が覚めた。全身にびっしょり、冷や汗をかいていた。
「何か悪いものでも見た?」
「いや……、でもアイツを見た時、正直ぞっとした」
「アイツって?」
「愛川哲也」
「愛川哲也?」
「俺の宿敵」
「なにそれ?」
「とにかく見過ごしてはいけないヤツ」
「ふーん、そうなんだ」
そんな会話を芳子とした後、カフェへ続くクリニックのドアを開けると、優菜がカフェにいた。仕事がなくなって早く帰れたから、僕と一緒に家に帰ろうと思ったけれど、今日は祐樹のライブの日だし、今から隼人も美帆も来るから、僕もこのままカフェに居残れということだった。




