第五話 7
週末の午後だというのに、予定していた仕事が急遽キャンセルになり、優菜は電車に乗り久しぶりに日のあるうちに歩いて自宅へ帰っていた。目に入る光景は少しずつ変化はあるが、「歩き慣れたこの道を自分は死ぬまでに一体何回通るのだろう?」と、そんなことを考えながら優菜は歩いていた。
駅から自宅までの道程には、必ず商店街が入る。商店街の入り口に位置する本郷不動産の看板を眺めながら歩いていたら、本郷のおじさんが出てきて、「優菜ちゃん、お帰り」と言った。優菜は暫く本郷のおじさんと立ち話をしていたのだが、本郷のおじさんは、太蔵爺ちゃんの駄菓子屋の隣りの店舗が空き店舗になったので、これからシャッターに貼り紙をしに行くのだと言う。優菜は、「それならどうせ目の前を通るんだから、私が貼っておいてあげるよ」と言うと、本郷のおじさんは「そうかい? じゃあ頼むよ」と優菜に任せたのだった。貼り紙には「格安家賃、敷金礼金不要。興味のある方、是非下記へご相談ください。本郷不動産」と書かれていた。しかし、この商店街には空き店舗がもうすでに七店舗もあって、今回で八店舗目だった。優菜は貼り紙を見ながら、ため息を吐いていた。優菜が空き店舗に辿り着き、シャッターに貼り紙をしていると、隣りの駄菓子屋から太蔵爺ちゃんが現れ、優菜に声を掛けた。
「お帰り」
「ただいま、太蔵爺ちゃん」
「優菜は本郷不動産の回し者になったのか?」
「違うよ、回し者じゃないよ、ただのお手伝いだよ。でも、水原のおじさんがお店をやめただなんて、なんかショックだな……。最近、嫌がらせの酷い貼り紙がされることが多いでしょ? その影響もあったのかな……」
空き店舗は、一ヶ月前までは水原家具店だった。
「アイツも耄碌してたしな。まぁいい潮時だったんだろうが、貼り紙の影響はあったかもしれん」
「やめる前にも騒動があったでしょ? 誰がやったんだか、いつの間にか家具に傷がいっぱい付けられてるのを発見して、大騒ぎになってたじゃない? あの時の水原のおじさんのしょんぼりしていた顔、忘れられないよ……」
「誰がやったかうすうす見当はついている。俺はアイツに落とし前を付けねばならん。負けるわけにはいかんのだ」
「え? 誰?」
「俺の昔の天敵だ。アイツには貸しがある」
「太蔵爺ちゃん、お願い、一人で戦うなんて駄目だよ! 今は、亮ちゃんや祐樹君もいるんだから! みんなで協力すればなんとかなるわ! だから一人は絶対やめて!」
優菜はびっくりして、そう太蔵爺ちゃんに向かって叫んでいた。




