18話
ーーー、
暗い・・・、
音も光も感じない・・
よく分からないが体がまるで深海に沈んでいく様な感覚だ。
あれ?
俺は何をしていたんだっけ?
なんだか疲れたな・・
ただ沈んでいく・・、闇の中へ・・
このまま沈み静かに眠りたいと身を委ねていた。
だがそれは許されないと言わんばっかしにその一番奥にソイツはいた。
「ようやく、ようやく会えた・・・、我がマスターよ・・」
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ソイツはこの深海の様な闇の中の底にあった小さな玉座の様なものに座っていた。見渡す限り何も無い闇の中何時の間にか俺はソイツの前に立っていた。
何故かこの暗闇の中俺とソイツがいる所にはどこからか差し込む薄くも柔らかい光が照らしている。その中、注意深くソイツを見てみるとどうやら女の子のようだった。白いシルクのような輝きを放つ貫頭衣一枚でありながらも容姿はあの幼女王を彷彿とさせる。この暗闇の中キラキラとまるで宝石が零れ落ちるような輝きを撒き散らすようで綺麗な黒髪や見目麗しいその姿もさることながらその背中からちょこんと見える翼の様なものがヒトではないという事を主張しているようだ。
なにより目を引くのは彼女の瞳、片目は蒼天の様に澄み切った蒼にもう片方は全てを焼き尽くす紅蓮のような真紅の紅なのだ。
吸い込まれるようなその美貌と瞳をこちらに向けられていると肌着一枚しか纏わぬ姿でいるにも関わらず視線を一切外すことが許されない様な錯覚さえ覚えてしまう。
「我がマスター、私が最初で最後に認めた愛しいマスター・・、あの時契りを交わしながらも時の修正に引き離され因果の彼方に再会を望みいく刻待ち続けようやく再開叶った我が愛しきマスター・・・、さあ・・・時が許す限り語り合いましょう。」
まるで長い間引き離されていた最愛の人に再会したかの様な喜びを包み隠さずに笑顔一杯にその子はいう。先程まで警戒してはいたのだが、こんな笑顔を向けられてはそれも馬鹿馬鹿しく思えてくる。
「ごめん、俺にはよく何がなんだか分からないんだが・・」
当然だ、今ここにいる理由すら見当がつかない上に何時この子のマスターになったのか覚えがないのだから。
「それもそうですね我がマスター、時間が許す限り貴方の問いに答えましょう。」
「まずここは何処なんだ?何故俺はここにいる?」
先程まで心地良い深海の底に沈む様な、まるで永遠の眠りに落ちていく様な感覚に何もかも身を委ね様としてたとはおもえないような問いだ。
我ながら状況に対して切り替えが早いなと自画自賛のようなものを覚える。
「そうですね・・・、ここは言うなれば「契約の間」といったところでしょうか。全ての理の外、何者も因果率や神にさえ侵し覗き侵入する事すら出来ない契約者と契約者の絶対領域。この場合の契約者同士というのは貴方様と私ということになりますね。」
「ということは俺は君と契約をかわしたという事だよな?だがすまないが俺には君と契約をかわした記憶が無いんだが・・、。」
「そうでしょうね、「今の」貴方様にはその記憶は恐らくないのでしょう。ですが貴方様は確かに私と契約という名の契りを結んでおります。私が契約者である貴方様を見間違えるなどありえません。この神竜の名においてそれだけはありえない!!」
ぷんすかと子供の様に彼女は地団駄を踏む。しっかしずいぶん神々しい雰囲気を醸し出したかと思えば今の様な幼子の癇癪の様な仕草にやたら感情表現の豊かな事がつい可笑しくなりプっと吹きだしてしまう。
「あの時、貴方様に禊を捧げた時より私は貴方様だけを思い愛し続けると誓いました。理さえも捻じ伏せ私の契約者となった貴方様という存在は私にとって絶対。例え貴方様が時の彼方にその時の出来事を奪われて忘れようとも、私は私という存在にかけてそれを忘れず貴方様に尽くすと誓っているのですよ。だから私は貴方様の為になる事全てと貴方様の意思を全て肯定し続けます。」
先程まで子供の様にぷんすかしていたとは思えないほどの覇気で彼女はそういった。しかし何がどうしたらここまでの想いを持てるのだろう?
「なあ、君のいう禊やら契りとは何の事なんだ?確か竜の契約やらって基本女性だけだとうっすら聞いたんだが。もし失礼な事や傷つける事言っていたらごめんな?しかし俺はほんとに何も解らないんだ。」
そう、解らなければ素直に聞くしかない。
だが正に予想しない答えが返ってくるとは思いもこの時はしなかった。
「そうですね、基本というかそれが理でしたが・・・、その・・・、あの・・・、貴方様は私を口説き私を抱き初めてを奪い私に「俺と共に生きろ、俺に、俺だけに尽くせ」とおっしゃいました。あの時より私の全ては貴方様のものなのです//////」
恥じらいながらそう言う。
うん、
なんだってええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なにを、いや、俺の知らない俺は一体なんて事をしでかしたんだ?
深く聞くべきか?ああ、いや聞かぬべきか?
一体なんてうらやまし・・・いや、けしからん事をしでかしたんだ俺!!
「竜というのは本来生命力溢れる女性のみに「代償」と引き換えにその力を貸し与えるのが理。対象者の性質により竜は力を貸すかどうかを決めます。その者の願望、目的、そういったものから生き様や力等全てにおいて判断します。その資格の証が「7剣」という事になります。当然資格があるからといえど竜が力を必ず貸す訳ではありません。しかし認められ貸し与えられた力をどの様に使おうがそれはその者の意思次第、それはある意味竜の意思であるとも言えます。」
俺が元より疑問に思っていた事を先んじて彼女は俺に話してくれる。
「しかし、貸し与えた力を振るうに対し私達はその「代償」を求めます。それは竜其々によって違いますが、貴方様を含み例外無くマスターは「代償」を求められます。良いか悪いかではなくヒトが生きる為に他の命を糧にするように極自然な事と理解くださると幸いです。そしてその契約が成立している者にはその竜の象徴であるスティグマが現れるのです。これを一部の者は「覚醒者」と呼ぶようですね。私達はその様な定義を定めた覚えはありませんが・・・」
大方の疑問がまさかのこの流れで解消していく。しかし、さっきからひっかかる事が2つだけやはり残る。
それは俺の「代償」と、どうしてどうやって契約したのか?だ。
さっきの彼女との恥ずかしい聞いていいか迷う契約の事は内容はさておき、理だという事から照らせば男である俺の知らない俺がそうする必要があったと推測できる。
仮にあったのならそれはどういう状況だったのか?は何も知らない俺はしっかり聞いておくべきではないのだろうか?
そう想い、次の言葉を俺が述べようとする前に俺と彼女しかいないこの空間が次第にぼやけていく。
「どうやら、時間がきてしまったようですね・・・、」
視界の周りが次第にぼやけていく中彼女のとても寂しそうな顔と声だけははっきり解る。
「俺も、俺ももっと君に聞きたい事があるんだ!!だから・・・」
「また、また直ぐにお会い出来る刻まで私はいつも貴方様のお側にいます・・、ですから他の、他の事は想い出せなくてもいいから・・どうか、どうかもう一度私の名前を・・」
彼女が切なそうにそう言いながら華奢な手を伸ばしてくる。
俺は必死にその手を取ろうと伸ばすが届かない。
くそっ!!
後、後少し!!
どうしてこんなに必死なのか?最早込み上げるこの感情は何なのか?そんな事はどうでもよくて、ただ目の前で伸ばされる彼女の手をとり、まだ尽きぬ話の続きをしたい。彼女の姿を見ていたい。
そんな想いを遮るようにぼやけていくこの空間は無常にも終わりを告げる様に暗闇に閉ざされたのだった。




