12話
「--なんだか怒涛の一日だったね♪」
帰路につきながらも充実した日だったと言わんばっかしに、にこやかにかいてもいない汗を拭う様な仕草をしながらフェリスが言う。
「まー知りたい事の大筋は知れたしラッキーではあったな。こんな感じで物事がポンポンいってくれると楽なんだけどな。」
そう俺の感想を述べる。事実聞きそびれたがあの施設での爆発とフェリスの提案、そして幼女様ッ・・・、もといアルとの会合がなければかなり濃い時間図書館にて資料漁りをしなければならなかったろう。
しかし新たな疑問が浮かんだのも事実なので結局当初の予定に従い明日は図書館には行く事になる訳だが。
「兎も角、今日は宿に戻ろうか。今時間からやれる事なんてたかが知れてるし。」
俺の案にフェリスも同意してくれたので俺達は真っ直ぐに宿に向かった。
宿に着くともう夕食がとれるとの事なので俺もフェリスも食堂へ直ぐに向かった。
「うわー、なんか今日は人多いね。」
フェリスがそんな事を言うのも無理は無い。この安宿は俺達が来た時にはそこそこ空いていたのだが、選抜の開催が近い為に何処からとも無くこの街に人が集まっているので今や満室なんだという。
だがやはり、こう人が集まればガラが悪いのも当然いる訳で・・・
「なーネーチャン、少し俺達と付き合えよぉ。」
言わんばっかしのテンプレ野郎がフェリスに近寄ってきた。
「お断りします、私連れがいますし。」
フェリスが男の顔すら見ず毅然と言った。先日風呂上りに一人で俺が来るのを待っていた時とは大違いだ。まあフェリスの適応能力もさておき今は俺も居る、一応この程度の相手なら荒事になっても対応には困らない程度の力はもっているつもりだ。
「と、俺の連れが嫌がってるんでちょっかい出すのやめてもらえますか?」
フェリスの言葉に続き俺も冷静に男に向かって言う。すると案の定・・
「なんだ?てめえ、おめえの意見なんか聞いてねーんだよ!!」
ま、そうなりますよね。
仕方なく言っても聞かない雰囲気なのでちょっと実力行使で黙らせようと席を立とうとする。
「静まれっ!!馬鹿者共が!!」
俺達を含め、やいのやいの野次を飛ばしていた者等その場にいた全ての人間が急に響き渡ったその声に一喝されて固まる。
「調子にのってのせられハメを外す事を悪いとは言わん。しかし場を弁えろ!!此処は女が酌する酒場でもなんでもない!!」
凛とした口調でその女性は言った。
いきなり入ってくるなりこの場を一喝したのも驚きだったのだが、俺はこの女性に違和感というか既概観を感じた。
見た目がレイラさんにとても良く似ている、違いはそのショートカットと有無を言わさない雰囲気、そして胸の大きさだろう。この女性の方がレイラさんより残念・・・、いやスレンダーだ。
「女の癖にいきなり入ってきて偉そうな事言ってんじゃねえぞ?剥いちまうぞ?」
テンプレ馬鹿と取り巻きが引っ込みがつかなくなったのかその女性にも食って掛かる。
「女の癖にか・・・、性別等でしか相手の力量や器量を計れんとはな。貴様程度のゴミなんぞ生きている価値も無い。」
そう言うとその女性は一瞬で凄まじい殺気を放つ、と同時に男の腕が斬り飛ばされていた。
「ぎいやああああああああああああああ!!!!!!」
男が大量の出血を無くなった腕から流しながら転げまわる。凄惨なその場において誰も何がどうなってこうなったのか理解出来ていない。
「おい、取り巻き共。そのゴミを連れて失せろ。今治癒師の下に連れていけば助かるかも知れんぞ?」
その女性は冷たくそう言い放つ。
取り巻きは瀕死の男を担ぎその場を後にするが、一部始終側で見ていて一応当事者である俺はこの顛末に納得いかず食って掛かる。
「何もあそこまでする必要無いだろ?アンタが誰かは知らないが幾らなんでもやりすぎだ!!!」
確かにあの男にも落ち度が有り、実際俺もぶっ飛ばしてやろうとした。別に庇う訳でも同情した訳でもないがちょっと絡んだ程度で腕を斬り飛ばされるなんて尋常ではない。
そうゆう意味での俺の訴えもその女性はフンッと鼻で笑い言う。
「お前は考え違いしているな。私がどうとかではない。あの男はそうなるべくしてなった、ただそれだけの事だろう。」
「だとしても、命に関わるような怪我をさせられるほどの事じゃなかったはずだ!!!」
俺の言葉にその女性はいきなり凄まじいプレッシャーを纏い語気を強め言う。
「勘違いもそこまでにしておけよ?私はあの男を含め一度警告している「場を弁えろ」と。そしてあの男は理由はともあれ私に敵意を向けたんだ。それを私が私の信念に則り対処した結果であってとやかく言われる筋合いはないな。」
言葉と共に更に強まるプレッシャーに俺は次の言葉が続かない。だが認められないこの理不尽さを認めてはいけない、何故だか俺は引くに引けなくなっていた。
言っている事は分かるのだが、だからといって納得は出来ない。俺だって聖人君子ではないけど目の前で人の命が簡単に消し飛ぶ様な出来事が起こったんだ、納得なんて出来ない。しかもたった数刻だ、俺達が揉め出して彼女が介入しこの現状に至るまで。
相手を論破する事も出来ずよく分からない悔しさから強く握った拳は震えかみ締めた唇が切れうっすら血が滴る。
「貴様が何故そんなに拘るか知らんが、生憎貴様の理解なんぞ私は求めてはない。」
そういってその女性は踵を返しその場を後にする。
俺はもうよく分からない感情に肩を震わせその後ろ姿をただただ見ているしかなかった。
*******
ーーー彼女が去り直ぐに食堂は清掃の為閉鎖された。俺達も後に騒ぎを聞き駆けつけた警備兵に簡単な事情を聞かれ部屋に戻された。
俺は事情を聞かれている間先程の出来事が、彼女の言葉が、そして相手の言葉になんら言い返せない自分に戸惑いそして上の空だった。その辺はフェリスが上手く対応してくれた。
しかし、俺は何故あんなに拘ったのだろう?
何が許せなかったのだろう?
俺の目の前で起きた事は正直斬った彼女に落ち度は無いと頭では理解出来る。でもだからって瀕死にされる様な事だったんだろうか?
腕を斬り飛ばされた男は今後多大なる障害を負うことになる。技術が進歩している今においても無くした体の四肢を再生なんて便利な方法は無い。
そんな負債無いし代償を負うほどの出来事ではないと俺は思っている。
整理のつかない考えがぐるぐると頭の中を巡る。
部屋に戻るなりベットの隅で腰かけたまま先程同様黙り込むそんな俺をフェリスはいきなり引き寄せ一緒にベットに倒れ込む。
「ねー、レオン・・、考え過ぎだよ?」
「ーーそんな事は無い!!!ただ・・、ただ俺は・・・、」
言葉に詰まる。
自分でも整理がついていないのだから上手く言葉になんて出来ない。
そんな俺を優しく子供を落ち着かせるように抱き締め俺の頭を撫でながらフェリスが言う。
「レオンはきっと怖かったんだね・・・、でももう大丈夫だよ?あの人も怪我しちゃったけど幸い命に別状はないってさっき警備の人が言ってたから。」
「でもだからって・・・、あんな・・、あんなの・・・、。」
「そうだね・・、でもこの世界理不尽な事っていっぱいあると思う。それに悲観してしまうより明日はきっと今日よりいい日になる様に祈ろう?今日みたいに誰かが傷つく事は悲しい事だけど、起きてしまった今日はやり直せないけど、明日は今日みたいにならない様にする事は出来るはずだから。」
優しく、とても優しくフェリスは囁く様に言う。
「怖かったんだね?」と「もう大丈夫だ」と言い優しく抱き締め俺の頭を撫でる彼女も時折震えているのに俺は気が付いている。
そんな彼女を強く抱き締め返しながら俺はいつの間にか彼女の腕の中で意識を落としていった。




