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第三十五話 バース

 「武術家では無い」と言うバースにセーナは明らかな不信感を表情に浮かべていた。

「冗談でしょ? あなたの身のこなしは明らかにそういう訓練を受けてきた人の動きよ」セーナが言うと、バースは、いやいやとでも言う様にセーナの言葉を否定するように首を小さく左右に振って呆れた仕草を見せて言葉を発した。

「僕なんかの体術が本物の武術家に通用する訳無いだろうね、君は君が思うよりも未熟だから僕を武術家だなんて誤解するんだよ」

「未熟……、ですって?」

 バースの言葉にセーナは明らかに苛立ちを見せた。未熟、と言う言葉が気に入らない様であった。

「未熟も未熟、君は君の魔術すらも全然使いこなせていないし、急に間合いを詰められただけで戦闘の型を崩されている。余程……、甘やかされて来たんじゃない?」

「そんな事無い!」セーナはバースの煽るような言葉に激昂して、叫び、バースの身体めがけて、七発の魔弾を撃ち込んだ。バースはそれを全てと避けて見せた。バースの動きはとても余裕のある動作であった。

「ほら、直ぐに怒っちゃう、そういう所も未熟なんだよ」と、言って、バースは銃口をセーナに向けた。

 あいつの魔弾の速度じゃ私には当たらない。避ける必要も無いわ、全て私の魔弾で撃ち落としてやる。

 銃口を向けられたセーナはバースの銃口から飛び出てくる魔弾の全てを自分の魔弾で撃ち落とさんと身構えた。

 刹那、バースが放った攻撃の速度にセーナは反応出来ずに、右肩を撃ち抜かれた。

「ぐっ……」セーナは痛みに顔をしかめた。額からは大粒の汗が滴っている。

 乾いた音を立ててバースの拳銃から放たれたのは魔弾ではなく実弾であった。

「弾切れは嘘だったのね……」セーナは痛みに表情を歪め、血の流れ出ている右肩を押さえながらバースに毒づく様に言った。

「僕は一言も、弾が切れたなんて言って無いだろう?」バースは不敵なにやけ顔をセーナに見せた。

「やなやつ……」と、言ってセーナは右肩を左手で押さえながら、バースから離れるようにニ、三歩後ろに飛び退いて距離を取った。

「もう二度とあなたを、私に近づかせないわ」と、言ってセーナは、魔弾を発する魔球をこれまでの何倍もの数を自分の周囲に展開させた。

「凄いな、それが君の奥の手かい?」バースは驚いた表情でセーナに聞いた。

「余りにも魔力消費が激しいから長くは保たないけどね、一気に決着させてやる!」意気込んだセーナは展開させた魔球からバースへ向けて一斉に魔弾を放った。

 バースは身を捩ったり、飛び退いたりと、どうにか魔弾を避けていたが、弾幕の様に襲い来るセーナの魔弾の全てを避ける事が出来ずにその幾つかが手足や頬を掠めたり、諸に身体に一撃入る弾もあった。

 らちが明かないな……。この量の魔弾がずっと続くって事は無いんだろうけど、全てを避け切る事は出来ないな。

 バースは少し焦っていた。その焦りがバースに致命的なミスを生んだ。セーナの弾幕のような魔弾の中の一つが、バースが手に握っている拳銃を弾き飛ばした。

「っ!」バースは、遠目の誰の目にもわかる程に、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべて、拳銃と共に魔弾によって焼かれた右手を庇うように左手で抱いた。

 二人を取り囲んでいる生徒群衆は誰もがセーナに軍配が上がったと信じた。

 その様な雰囲気の中、当の本人が自らの勝利を確信しないわけもなく、セーナも勝利を確信した様に少し得意気な表情で、弾幕の様な魔弾を止めて、展開させた数多の魔球も三つだけ残して、他は消滅させた。

 その一瞬の気の緩みをバースは見逃さなかった。

 バースは、セーナの方へ向かって一直線に間合いを詰めるべく駆け出した。

 セーナは焦り、魔弾を繰り出そうとして魔球に魔力を込めた。今にも魔弾を発射せんと魔球が光り輝いて膨張したが。次の瞬間には、セーナの三つの魔球は全てはじけ飛ぶように霧散した。

 セーナは怒号を飛ばした。怒り猛るセーナの眼に映ったのは、まるでセーナと同じ様に魔球を展開し、魔弾を繰り出したバースの姿であった。

 セーナに迫るバースの表情は裏を書き、出し抜いた事を誇るでもなく、酷く冷静であった。

 次の瞬間には、魔球を身体の周囲に展開させたバースが左手に握るナイフがセーナの首元にあった。

 勝敗は誰の目に見ても明らかであった。

「ペテン師」勝敗を決し、負傷した右肩に魔術による治療を受けながら、身なりを整えたセーナがバースに言った。

「ひっどいなぁ、そもそも僕はこの戦いの中で、一度たりとも自分の言葉で僕の手の内を明かしてはいないだろ?」バースが応えた。

「……、やなやつ」セーナは、苦い顔でバースに呟くように言った。

「終わりました」と、言ってセーナの肩の治療を終えた生徒は再び群衆の中に紛れるように戻った。

「凄い精度だな」傷跡も無く綺麗さっぱりと治癒したセーナの右肩を見たバースは驚きの声を上げて、セーナを治療した女子生徒を探すように自分達を取り囲んでいる壁の様な生徒群衆を見渡していた。

 生徒群衆の様子はと言うと、戦いの決着に興奮気味の者と、無関心の者とで半分半分と言った所だった。バースは群衆の中に治癒魔術師の姿こそ発見できなかったが、自分の教室のリュウ達仲間の姿が目に止まって、右手の拳を突き上げる様にして勝利の合図を送った。すると、バースの勝利宣言の様な合図にリュウたちは湧き上がった。リュウの傍にいたヒビキは満足そうな微笑をセーナの担当教官であるユウに向けていた。

 ユウ教官はヒビキのその微笑を知ってか知らずか、少し不機嫌な無表情でセーナとバースの方に歩いて近づいて、二人の傍まで来ると。

「傷は?」と、少し厳しさを含んだ声でセーナに言った。

「……あ、ありがとうございますっ! もう大丈夫です、リーンに治療を指示したは教官ですよね? ありがとうございました」と、セーナは少し気後れしている様な塩らしい声音で教官に言った。

「二重人格……?」バースがわなわな震えながら言った。

「黙って」そんなバースを威嚇する猫のような目でセーナは睨んだ。睨まれたバースはセーナの鋭い視線から目を逸らした。バースが逸らした目線の直ぐ前に、いつの間にか傍に近寄ってきていたヒビキの姿があった。

「心臓に悪いよ」と、またしても足音を立てずに近づいて来ていたヒビキに対してバースが呆れたような物言いをした。

「良くやったバース、私の見込み通りだ」と、ヒビキは凄く満足そうな微笑をもってバースを褒めた。

 バースはヒビキの晴れやかな顔と優しい物言いに照れ臭くなったのか、人差し指の背で鼻の下を掻いていた。

「そこの生徒……、名前は?」と、不意にユウがバースに名を聞いた。不意の質問に呆気にとられたバースは一瞬ぽかんと呆けた面を見せたが、直ぐに端的に応えた。

「バースです、姓は明かせません」

「姓を明かせない? 貴様……、固有魔術が使えるのか?」と、ユウはバースに冷たい視線を向けて言った。しかし、バースはユウの冷淡な視線に怖じける事も無く、平とした目で黙ったままユウの視線を見返した。

「あまり生徒を詮索するな」と、ヒビキが皺の無い顔でユウに言った。

 少しの間、この場に不穏な空気感が漂っていて、セーナは少しドギマギとした空気感を纏っていた。

「まあいい……、いずれわかるさ」と、言ったユウの表情が少し緩んだのを見て、胸を撫で下ろした。

 セーナとバースの模擬戦闘が終わった後、生徒達は円形を解いて、初めに整列した形に再び教室ごとに列を作った。

 ユウが整列した生徒達に向けて、次の実技授業からは生徒同士自由に相手を組んで、模擬戦闘を行う旨を説明してこの授業は解散となった。

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