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第三十六話 はなれの三人

 教室に戻ったヒビキ教室の生徒達は、バースの勝利に沸き立っていた。

 バースは皆に囲まれ、戦術のあれこれを根掘り葉掘り聞かれたり、労いの言葉と共に肩を叩かれ髪を揉みくちゃに撫でられたりしていた。

 バースが群衆の囲いから何とかして外に飛び出た所にリュウとタツが立っていた。

「バース、存外闘えるじゃないの」と、タツが値踏みをする様な視線でバースを舐める様に見ていた。

「別に隠していたつもりは無いけど……」と、バースは遠慮がちで照れ臭そうな様子で小さく呟くように、タツの少々不気味な視線から目を逸らして言った。

「バースお前……、中々に闘い慣れていたなぁ」と、リュウはバースの目を真っ直ぐ見て言った。

 バースはリュウの正直な瞳にぎょっとして、タツの時の様に目を逸らすことが出来なかった。

「目が怖いなぁ、慣れてもいるさ、特にセーナの様な手合いはね……、ああ言う同じ様な闘い方をするもっともっと恐ろしい人にずっと鍛えられていたからね」と、バースは少しオドオドした口調でリュウの目を見返しながら言った。

「バースあんた……、さっきとはまるで別人よ」タツはそんなバースの様子をからかう様に言った。

 がらがらと教室の戸が音を立てて開いた。

 ヒビキが教室に戻ってきたのだ。ヒビキの入室を見た生徒達は談笑を止め蜘蛛の子を散らす様に自らの席に戻った。リュウとタツも例外では無かった。

 リュウが席に戻ると広平は既に席の椅子に座り、寛いでいた。

「随分と、バースの事が気に入ったみたいじゃないか」広平がリュウに言った。

「……、あれは才だ」リュウは広平の言葉に少し含みのある言葉で返答した。広平はリュウの言葉に返す言葉が無く、黙って教壇のヒビキを見ていた。

「バース、良くやった」

 ヒビキの口から開口一番に発せられたのは改めてバースの健闘を称える言葉であった。

 ヒビキはゆったりとした拍子でバースに拍手を送った。皆もヒビキにつられるように疎らな拍手を送った。バースは少し照れくさそうに苦笑を浮かべていた。

 ヒビキは拍手を止めて、ゆっくりとした口調で話し始めた。

「諸君、先程バースが見せた闘い方こそが魔術師の闘い方である。手の内を濫りに明かさず、敵の裏をかき、適所で魔術を行使し敵に打ち勝つ。手本の様な闘い方であった。君たちは驕らず鍛錬を積み、決して相対する敵を侮らず、敵に勝つ術を今後の実技授業で身に付けて行って欲しい」と言うヒビキの言葉を最後に本日の学園は放課となった。



 その日の夜、寮に戻ったバースを待ち受けていたのは、熱烈な勧誘であった。

 バースの同寮の生徒をはじめとして、日中のバースの闘いを見ていた他の寮の生徒達がバースを大会のチームに引き入れようと寮に押し寄せた。

「寮の方が騒がしいなぁ、みんなバースがあんなに闘えるだなんて思っても無かっただろうからねぇ」と、リオがきわめて他人事であるとでも言う様に呟くように言った。

「お前どこで見てたんだ? あの場にはいなかっただろう?」と、リュウが訝しむようにリオに聞いた。

「いたさ、リュウが気付かなかっただけじゃない?」

「……いたかぁ?」とリュウは首を傾げた。

「それにしてもバースがあんなに手練れてたなんてねぇ、私も戦いたかったわぁ」と、タツが少し浮足立った口調で言った。

「俺たちは相性悪いだろうあれは、きっと苦戦するぞ」と、リュウは苦笑を浮かべた。

 三人は三人しかいない寮の離れの小屋で夕食を囲みながら談笑している。

「しっかし、バースには心底驚かされたけれど、リオあなたの作ったこの料理すっごく美味しいわ」とタツがリオの料理を箸で口に運んで少し紅潮した顔で言った。

「ありがとう……、タツも箸の使い方上手だねぇ、ヤマトに行った事あるの?」とリオがタツに聞いた。リュウはタツの返答を気にして見ていた。

「ええ……、昔少しだけね」と、タツがリュウの視線を横目に見返しながら答えた。

 三人は居間のテーブルに置かれた同じ鍋を囲んで食事を取っていた。

「しかし、ここで鍋を囲むとは思わなかったなぁ」リュウが言うと、

「リュウにとっては懐かしいよね? どうだい? 祖国の味は」と、リオが朗らかな口調と陰のある表情で言った。その口調と表情の対比的な様子にリュウは少し違和感を感じた。

 三人は暫くの時間、無言で鍋をつついていた。

「ごちそうさま」リュウはそう言って、自分が使った食器類を流し台の方へ運んだ。

 運び終えたリュウは再び椅子に腰掛けると、だらしなく背もたれに身体を沈め天井を仰いでいるタツに

「お前も食べ終わったんなら、片付けてこいよ」と、言った。

「私の分も片付けてよ、ついでに良いでしょ?」と、タツは甘える様な声でリュウに言った。

「ついでじゃねえよ、もう座ったから立ちたくない」リュウは素っ気ない返事をタツに返した。

「ええ、いいじゃん、けちぃ」とタツはだらしない姿勢のままリュウに言うと、リュウも小言を返して、しばらくの間、リュウとタツは小競り合いを繰り広げていた。

「ごちそうさま」鍋の具材を完食したリオが手を合わせて、無言でタツの食器に自分の食器を重ねて持って行こうとしたが、リュウがすかさずリオに声をかけた。

「こいつを甘やかすな、頭に乗っちゃうだろうが」

「何よぉ、あんたは紅一点の私をもっと甘やかしなさいよ!」と、タツは声を荒げた。

 唸り合う二人を横目にリオは小さくため息を付きながら二人分の食器を流し台へ運んだ。戻ったリオが続けて鍋を運ぼうとするので、すかさずリュウは

「手伝うよ」と、言って鍋を持ち上げようとした。

「私が運ぶわよ」と、リュウが鍋を持ち上げようとしたのをタツが阻止し、鍋を奪おうとした。

「なんだお前、甘やかされたいんじゃ無かったのか」と、リュウとタツはお互いの手を握り押し合い圧し合いの小競り合いを始めた。

「うるさいっ、私に鍋を運ばせなさい!」と、タツは意地を張った様な態度を見せた。

 そんな二人を横目にリオが静かに鍋を運んだ。

 リオが全ての片付けを終え、二人の元に戻った時にもまだ小競り合いは続いていた。リオは呆れた口調で

「いつまで夫婦漫才をしてるのさ、本当に仲良しだねえ」と、言った。

 二人はリオの言葉にハッと我に返るとすかさずお互いに握りあった手を離した。

「馬鹿なこと言ってんじゃねえ」

「夫婦だなんて、私に失礼よリオ」

 と、二人してリオに反論した。

「本当に仲良しだねえ」と、リオは笑った。

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