表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/35

第三十四話 バースの実力

 バースはセーナの様子を、じっとりとした冷たい目で見ていた。

「何?」その視線に気付いたセーナが不機嫌そうにバースに言った。

「いやあ……、君は中々強そうだなあと思って」バースは少しドギマギして答えた。

「……、あなたは弱そうね」セーナは素っ気ない言葉をバースに返した。

「そうだね、僕は……、あんまり強くは無いかな……、多分」バースは優しく微笑みながら答えた。

「指名されて不運だわね……、お互い」セーナはそう言うと、後ろ飛びに一足分跳んで、バースとの間合いをさらに長く取った。

「さっさと終わらせましょう、さあ、構えなさい」セーナは腰に両手を当てた高飛車な態度で言った。

 バースも渋々と、セーナに背を向けてトボトボ歩いて距離を取って、セーナの方に緩慢な動作で向き直った。

「やる気無いわねぇ……」

「お互い様だろ? 君も構えてないじゃないか」

「私は良いのよこれで」セーナはぶっきらぼうに言った。

 武器を構えるでも無く、服の下に仕込んでいる様子も無い、武器に変わりそうな装飾品も持っていない様子だし、遠距離の魔弾攻撃かなあ……。

 バースは相変わらずジロジロと舐め回すようで冷たい視線をセーナに向けていた。

「その目が気持ち悪いのよ!」セーナが叫ぶとセーナの周りに六つの赤色の球体が出現し、それらが一斉にバースの方へとてつもない速度で飛んできた。

「やっぱり!」バースは嬉しそうな声をあげてその全てを華麗な体捌きで避けて見せた。

 身をかがめ、首を捩り、背を反らせて様々な方向からバースを襲うセーナの魔弾を全てバースは避けてみせた。

「あなた、背中に目でもついてるの?」と、バースが魔弾に気を取られている隙にバースとの間合いを急激に詰めたセーナの声が耳元で聞こえたかと思うと、次の瞬間に、バースは突如として右の脇腹にセーナの強烈な蹴りが諸に入った。

 セーナの強烈な蹴りの勢いに突き飛ばされたバースの身体は地面に激しく転がった。遠距離攻撃を囮にした近接戦闘、あまりにも速く洗練された突然の攻撃に、バースは防御が間に合わず、セーナの蹴りを諸にもらったのだ。

 その様子を見ていたセーナの教室の生徒達の観衆はざわめいていて、流石だ……、だのやはり相手にならない……、だのと言っていた。セーナに向ける称賛の様な感嘆の声は地に伏すバースの耳にも届いていた。

 バースは、右の脇腹の痛みを堪えて、ゆっくりと立ち上がった。

「驚いたな……、てっきり離れた所から魔弾を撃ち続けるのだと思っていた」バースがセーナに力の無い声をかけると

「そんなわけ無いでしょう、私の魔弾は速度も威力も未完成、それは体術で補うしかないでしょう?」セーナは、当たり前でしょう? とでも言う様な態度でバースを誂う様に言った。

「今の蹴りには魔力が込められていた、君可愛らしい顔してるのに中々やるねえ」バースが、はにかみ顔で言った。

「……、バカ言ってんじゃ無いわよ」セーナは顔を赤らめてバースから少し視線を外した。

 バースはセーナが視線を外した隙を見逃さなかった。その一瞬に生まれた、セーナの気の緩みに付け入る様にバースは刹那にセーナとの間合いを詰め、腰を落とした低い姿勢でセーナの懐に入った。バースの右手には逆手にナイフが握られていて、バースは逆袈裟にナイフを振り上げた。

 セーナは背中を反らせて間一髪の所でバースのナイフを避け、一足、二足とバースと間合いを取るようにその場から後ろ足に跳んでバースから離れたが、バースはすかさず懐から拳銃を取り出して、両手で構え、弾を撃ち続けながら歩いて、後ろ飛びに跳んでバースとの間合いを取ろうとするセーナに追い打ちをかける様に間合いを詰め続けた。

 セーナは必死にバースの攻撃を躱して、さらに後ろ後ろへと後退を強いられている。

 バースは至って冷静な表情で冷めた視線をセーナに向けて、矢継ぎ早に拳銃の引き金を引いて、彼女へと銃弾を打ち込みながら、その歩みは決して速くは無いが着実に前進し、セーナとの間合いを詰めて続けている。

 セーナはバースの銃弾を身体を捩って避けたり、魔弾で銃弾を撃ち落としていて、バースの拳銃による攻撃に関しては余裕を持って対応出来ている様子ではあるが、銃弾を撃ちながらにバースが間合いを詰めて来るのだから後退せざるを得ないのである。

 ふむ……、反応は悪くない、僕の銃撃にも目が追いついている。彼女、虚実の使い分けが器用だな、確実に目で追える銃撃は魔弾で対応せずに、半分無意識下……、ただ視界に入っているだけの銃弾のみを魔弾で撃ち落とし、確実に目で捉えきった銃弾は身を捩って避ける。上手いな……、全然弾が当たらない……。

 バースは思案しながら、徐々に徐々に前進しているが一向にバースの放つ銃弾がセーナに命中する気配が無い。バースは、かなり熟練された流れる様な手付きで弾をリロードしながらセーナに反撃の余地を与えずに前進している。

 セーナはそんなバースの手付きを虎視眈々とした鋭くも落ち着いた目付きで観察していた。

 そして遂に、セーナは生徒群衆が囲む円の縁まで後退し、もう後ろに下がる余地がなくなってしまった。それと同時に、バースの攻撃の手も止まった。

 セーナはそのバースの隙を見逃さなかった。セーナはまるで三日月の弓の様に口角を大きくニヤリと上げると、反撃に転じた。攻撃の手の止まったバースに向けて魔弾を激しく連射したのだ。

 バースは次々と迫りくる魔弾の連撃を身を翻し避け、時には手に持つナイフで受け流したりして徐々に後退を強いられていた。攻守逆転の構図であった。

「弾切れ? さっきまでの勢いはどこにいったの?」セーナがバースを煽る様な口調で相変わらずの微笑を浮かべていた。

 バースは言葉を返す事なく、淡々とセーナの魔弾を避けたりナイフで受けたりして捌いていた。防戦一方という状況とは裏腹にどこか余裕を垣間見させるバースの体捌きにセーナは苛ついているのか、口元に余裕は見えなくなって眉間に皺を寄せている。

 攻勢に出ているセーナが放つ魔弾はさらに勢いを強め、弾幕の様にバースに襲い掛かるがバースは依然として、余裕を匂わせる華麗な体捌きでそれらを回避して見せ、セーナの魔弾がバースの身体を掠める事はない。

 生徒群衆はいつの間にかバースの動きに見入ってしまっていた。ほぼ全ての生徒と教官陣は口を閉ざし黙ってバースの動きを観察し、群衆は静かであった。

「バースってあんなに動けたのか」リュウが呟くと

「ああ見えて、入学試験の順位は一桁番台だからね」と、広平がリュウに言葉を返した。

「バースそんなに優秀だったのか?」リュウが驚くと、広平はうんと頷いてそれきり黙って、バースとセーナの手合わせをじっくりと見ていた。

 バースは相変わらず淡々と涼しい表情でセーナの魔弾を避けている。セーナには少し焦りの様な感情が表情に見て取れる。

「逃げてばっかじゃ私に勝てないわよ」と、セーナはバースを煽るような言葉を罵声の様な語調で叫んだ。

「そうだね」バースはそう呟くと、右手に持っている銃の銃口を再びセーナに向けて、銃の引き金に指をかけて構えた。セーナは銃口を向けられて、魔弾による攻撃の手を止めた。

「なんのつもり? あなたのその銃には弾は込められていないはずよ」セーナの言葉通り、バースは防戦一方避けるのに必死で、リロードが出来ていない。

「君と同じさ、本当はあまり得意では無いんだけど……」バースがそう言って引き金を引くと、バースの構える銃の銃口から魔力の塊が飛び出した。

 バースの放った魔弾は魔力の尾を真っ直ぐに引いてセーナの足元の地面に当たると、そこに大きな穴を開けた。

「速度は遅いし、出力の加減が出来ない。でも君の言う通り、実弾は弾切れだし、このまま防戦一方だと勝てないしね……、仕方がない」バースはそう言うと、再び攻撃に転じる様に矢継ぎ早にセーナへ向けて次々引き金を引いて魔弾を放った。

 セーナはバースの魔弾を魔弾で迎撃しつつも今度は後退はせずにその場に留まっていた。バースの言葉通り、バースの銃から放たれる魔弾はその速度が実弾の比にもならない程に遅く、セーナにとっては取るに足らないものであったのだ。

「奥の手が魔弾? 笑わせないで、出力はまあまあ強い様だけど? こんな蝿も止まるような速度、私の魔弾の比にもならないわ」と、セーナは声高々に言った。

 事実、セーナは一歩たりともその場を動かずにバースの魔弾を撃ち落とし、かつ、防御の合間にバースの身体へ向けて魔弾を撃ち込んでいて、バースはそれを躱している。傍目に見ている、生徒群衆はセーナの方に攻勢が傾いているように見えているだろう。

 この均衡を崩す行動に出たのはバースであった。バースが突如として、セーナの頭部に向けてナイフを左手で放った。

 ナイフは、まるで放たれた弓矢の様に切っ先を真っ直ぐにセーナの眼球へ物凄い勢いで投擲された。

 セーナは突然の事に身動ぎ、魔弾による攻撃の手を止めて、迫りくるナイフを首を捩って避ける事になるのだが、バースはその一瞬の隙を見逃しはしなかった。

 バースはナイフの投擲と同時にセーナの視界の中のナイフの影に潜むようにナイフの射線まっすぐにセーナとの間合いを詰めるべく駆け出していた。

 セーナは首を捩ってナイフを避けた。バースによって放たれたナイフは役目虚しく空を切って次第に勢いを失い、セーナの背後の地面に乾いた金属音を立てて落ちた。ナイフが地面に落ちるのとほぼ同時に、バースの構える銃の銃口がセーナの鼻先に迫っていた。セーナはナイフの影から突然として不意に現れたバースの姿に驚愕するも、慌てふためく事も無く、身を固める事も無く至って冷静に対処する。

 セーナは自身も殆ど無意識の中で、バースの銃口と自分の顔の間に魔弾を撃ち出している魔力の球体を即座に出現させ、魔弾を射出して、バースの拳銃を弾き飛ばしたのである。

 バースは自らの得物が弾き飛ばされても、それが当然の事であるかの様に、刹那の間も無く、川の水が流れるかの様な静かで滑らかな体捌きをもって、拳銃と共に弾かれた腕と半身を引き戻して、掌底をセーナの顎に向けて突き上げるが、間一髪の所でセーナはそのバースの一撃を躱したのであった。

 それからも、バースは攻撃の手を緩めることなく、突きや蹴りを繰り出すもセーナは悉くを躱して見せる。バースの攻撃の隙を見ては四方八方から魔弾を撃ち込んでいる。しかし、バースもセーナの放つ魔弾の悉くを躱しながら、セーナへの攻撃の手を緩めはしなかった。

 生徒群衆はバースがナイフを放ってからの一連の流れを初めは息を飲むように黙って見ていたが、セーナとバースの激しい攻防のやり取りに次第に熱狂的な声援を送っていた。

「バース、あんなに動けるのか」リュウは少し浮足立った様な語調で広平の肩を叩いた。

「だから、バースは優秀なんだってさっきから言っているだろうが……」広平は呆れたような口調で言った。

 レックは苦虫を噛み潰したような少し複雑な表情を見せていた。そんなレックをドライは湿り気のある瞳でぼうっと眺める様に見ている。タツはというと、リュウの様に明らかな高揚は見せてはいないが、興味深そうにバースとセーナの闘いを見ていた。

「バースも相当だけど、あの女も中々動けるなあ」リュウがそう言うと

「それはそうだろう、あの女子生徒も入試で一桁番台の順位だったからな」と、近くにいたヒビキがリュウに言った。

「……へえ」リュウは少し素っ気なく呟いた。

「けどね、彼女にとってバースは相性最悪の相手、皆、よく見ておきなさい、魔術の術式相性や魔術師の性格的な相性が、魔術師どうしの戦闘において、いかに重要かが分かるだろう、……私は何の考えも無しにバースを指名した訳では無いのだよ」ヒビキはそう言ってどこか確信を得た様な表情でバースとセーナの戦いを見つめていた。

 セーナとバースの激しい攻防が続いている。バースの方は表情にゆとりが見えるが次第にセーナの顔色には余裕が見えなくなってきている。現状はもはや魔術の争いでは無く、体術の争いと化している。

 セーナの方に敗色が見え始めている。リュウはその様を見て、ヒビキの言った相性とはこの事かと考えていた。

 セーナはバースの攻めを受け切る事が難しくなってきており、バースの拳や蹴りが何度かセーナの身体を掠めていた。セーナはとうとう耐えきれなくなって場を取り直す一撃を放つ。

 セーナは魔弾を一発、自分とバースの間の足元へ放った。地面で炸裂した魔弾はもくもくと砂ぼこりを立て、バースの攻撃の手が止まった。セーナは砂ぼこりを目眩ましにして、バースとの距離を取るように後ろに下がった。砂ぼこりが消えた時には、セーナにとって最適な間合いが二人の間に開いていた。

「仕切りなおしか?」バースがセーナに言った。

「あなた、とんでもない悪人ね……、最初に飛び道具を使ったから私と同じ様に距離を取るタイプかと思ったけど、ホントは武術家なのね……、相性最悪よ」

「武術家? 大きな誤解だね」と、言ってバースはまた不敵なにやけ顔を見せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ