09-また会えた
俺たちが必死な思いで戦ったスノーガルムを二人はあっさり打ち倒す。
雪の上を自由自裁に跳ねまわり、打ち据え、切り殺す。
真っ白な雪の絨毯が血の赤に染まった。
「やれやれ、どうにかなったか……
にしても、ホントたまんねえなあこいつらは……」
ハッキリと差が分かる。
こいつらと俺との間にある断絶が。
※
「オーリさん……! よかった、無事だったんですね!」
シオンが飛び掛かって――もとい抱き着いてくる。
俺は雪の上に押し倒された。
「おやおや、再会するなりいきなり発情ですか。これだからケダモノは」
そんな俺の様子を、フィズはゴミを見るような冷たい目で見下した。
「おう、羨ましいか? 二人とも無事でよかったよ」
シオンを避けて立ち上がる。
スノーガルムの方に目を向けると、まだ分解し切ってはいなかった。
胸を切り開き魔導核を回収、二人の方に向き直る。
「あの風が吹いた後、二人はどうしたんだ?」
「なんとか踏ん張って、建物の中に入りました。
それで吹雪が過ぎ去るまで待っていたのですよ。
で、外に出てみるとオーリがいない。
探して歩いていたんです」
再会出来たのは偶然ということか。
どうやらまだ運は残っているらしい。
「驚いたよお嬢ちゃん方、助けてくれてありがとうねえ」
村人の一団から婆さんが歩いて来た。
「婆さん、紹介するよ。フィズとシオン・アマツキ、俺の仲間だ」
「珍妙な取り合わせだね。まあ、こんなところで立ち話もなんだ」
そう言って婆さんは洞窟の方を指さした。
彼女について行き、俺たちは洞窟の最奥へと向かった。
その途中、婆さんは簡単な現状の説明をする。
「驚きましたね……」
「知っているのか、このおかしな能力を持つ奴のことを」
「ええ。しかしその力……どちらかと言えば人間側の力でしょうに」
どういうことだ。
聞こうとしたが、フィズは答えなかった。
こめかみのあたりをトントンと叩き何事か考えている。
彼女にも考えをまとめる時間が必要なのだろう。
「何はともあれ、助かった。
温かい飲み物を淹れさせよう、遠慮はいらないよ」
フィズはまったく遠慮せずコーヒーをぐいぐいと飲んだ。
この女にもシオンのようなしとやかさが少しはあればいいのに。
ちょこんと座りゆっくり飲む姿は可愛らしい。
「オーリ、例によってまた失礼なことを考えているのではないですか?」
「いつものことだろ。それより、話してくれよ。お前の考えていることを」
フィズは拳を振り上げかけたが、大きなため息を吐いてやめた。
「天候を操る力は人間の戦士……魔法使いが持つ力のハズなのです。
タルタロスの制御システムに干渉する能力ですからね。
制御コードを持っている人間だけが使える力です」
また聞き捨てならないことを言った気がした。
タルタロスの制御コード、それを持つのは人間だけ。
ということは、タルタロスを作ったのは人間なのか?
(こんな巨大な物を作り上げるなんて、過去の人間は……)
思考が明後日の方向に飛んで行きそうになったので、慌てて止める。
いま必要なのはタルタロスの成り立ちではなく、敵の力のことだ。
フィズの話はまだ続いているのだから。
「じゃあまさか、この状況を引き起こしているのは人間だって言いたいのか?」
「ええ、人間がこの階層を操っていることは確か……なのですけれども……」
フィズは両手を組み、うんうんと唸り始めた。
「こうする意味がどこにあるのか、いまいち分からないのですよ。
これだけ大規模な干渉を引き起こす力があるなら帝国傘下にいるはず。
もしそうならば、帝国は自領から勝手に出て行った勇者を決して許さない。
討伐対象になっていても不思議はないのですが……」
「ただこっちに来れていない、ってだけの話じゃないのか?」
「それもそうかもしれませんが……違和感が拭い去れませんねえ」
なおもフィズは考え込むような仕草をした。
「まあいい、取り敢えず魔法使い野郎をどうにかしなけりゃ出れねえんだろ?」
なら考えることはシンプルにした方がいい。
それ以外のことは後回しだ。
「フィズ、魔法使いをどうにかして排除しよう。
この先に進むためには、どっちにしろそうしなきゃいけないんだ。
細かいことは相手の様子を見てから決めるでいいだろ?」
「そうですね。何か事情があるのかもしれませんし……」
シオンも俺の方を擁護してくれる。
フィズはまた、大きなため息を吐いた。
「仕方がありませんね、その方向で行きましょう。
ただし、警戒は常にしておいた方がいいですよ。
なにせ、この階層はいままでとは勝手が違い過ぎますから」
俺は頷いた。
雪の世界、謎めいた攻撃。アルフォンソさん。
いろいろなものが現れ、俺の前から消えて行った。
そのすべてに繋がりがあるように俺には思えた。
警戒はする。
だが前に進む。
俺に退路など残されてはいないのだから。
「婆さん、魔法使いがいまどこにいるか。
大まかな目安だけでも立てられないかな?」
「そうだねえ、あいつは余所者だったが……」
婆さんは部屋の片隅にあった箱に突っ込んであった地図を取り出した。
「まず、高いところから探してみるのがいいんじゃあないのかい?
ここから来たに行ったところに塔があるんだ……
27階層の天井まで伸びるような、とんでもないのがね」
地図には辺りの概略図が書かれており、その塔は一際大きく描かれていた。
そして恐ろしい字体で、こうも書かれていた。
『不帰の魔塔』と。




