09-雪上の死闘
「バカな、この場所は化け物どもに知られていないはず……」
「俺が追い掛けられたのかも……行きましょう、お婆さん!」
気絶する前にガルムに襲われたことを思い出す。
群れはあいつらだけではなかったのではないか。
ならば、俺のせいでこの集落が襲われたということになるだろう。
そんなのは耐えられない、俺に出来ることがあるならしなければ。
「お前たち、敵襲だよ! 武器を持て、ほら遅れるんじゃあないよ!」
洞窟内にいた女性たちは手際よく武器を持ち、隊列を組んで洞窟の外へと出た。
俺もそれに続く、散弾銃に散弾を詰めグリップを引き弾丸を装填。
ゴーグルを掛けて洞窟の外へと飛び出す。
すでに女性たちは散開し持ち場についている。
雄叫びを上げながらガルムたちが突進してくる。
女性たちは一斉に銃を構え、放つ。
散弾のシャワーを受けガルムたちが倒れていく。
だが、数は圧倒的に多い。
浸透してくるガルムたちが最前線へと辿り着こうとしていた。
そうはさせるか、腰のホルスターを確認し忌避剤を取る。
火を付けブン投げ、空中でそれを撃ち落とす。
燻された草が辺りに撒き散らされ、煙がガルムたちを襲った。
巻き込まれた人には申し訳ない。
「アンタ、それは……」
「ガルムたちが嫌がる臭いですよ。
あいつらは鼻が強い、風下には立たないように」
洞窟の入り口から離れ、風の通り道から外れる。
ガルムたちに照準を合わせ発砲、一発ごとに位置を変える。
脇から気配を感じたので、炸裂弾を取り出しそちらに投げる。
雪の上に着地した炸裂弾が爆発、ガルムの悲鳴が辺りに響いた。
やはり横合いから襲撃を仕掛けてきた連中がいたらしい。
最後の散弾を正面に撃ち込み、弾が切れた散弾銃を手放す。
そして素早くホルスターから拳銃を取り出し、横に倒れたガルムを撃った。
「随分手馴れてるじゃあないか」
「飽きるほどガルムは撃って来たんで」
物陰に隠れ、散弾を装填する。
最初にガルムに殺されかけてから一月ほどがすでに経っている。
あの時から比べれば、少しは成長出来ているのだろうか?
問題は忌避剤も炸裂弾も数に限りがあるということだ。
怒涛の勢いで攻め込んでくるガルムを殺し切るにはまるで足りない。
いまのところ犠牲者はいないように見えるが。
「スノーガルムが出たぞ、気を付けろォォォォォォ!」
野太い女の声が平原に響いた。
崖の上に目を向けると、一際大型のガルムがそこに立っていた。
白い体毛に灰色のラインが入った、どこか勇壮な立ち姿。
それは一度吼えると斜面を勢いよく駆け降りて来た。
速い、通常のガルムがドン亀に見えるほどに。
弾幕を巧みに避け防衛線へと最接近したスノーガルムが女に跳びかかる。
圧倒的なパワーの差で押し倒され、首筋を噛み千切られ女は絶命。
助けに入ろうとした人がいたが、異変はその時起こった。
スノーガルムは相手の方を見て大口を開けた。
そこから白いガスのようなものが噴き出して、女の体を包み込んだ。
それが晴れると、人型の彫像がそこにはあった。
「人を凍結させる力……!? 何なんだよ、あれは」
スノーガルムは辺りを見回した。
そして、その目が俺と合った。
こっち見んな。
白い獣が跳ぶ。
地面の上にいる時間は最小限に、体が沈む前に走る。
四本の足で体重を分散させているのも大きいかもしれない。
なんて、観察をしている場合じゃない。
あのスピード、まともに撃っても当たりはしないだろう。
かと言ってチョークを広げて散弾を撃てば味方にも当たる。
となれば出来ることは一つだけ、逃げるだけだ。
(つっても、アイツほどうまく前に勧めるわけじゃない……!)
踏み固められた平原を進むだけでも重労働だ。
それが雪の降り積もった道であるのならば、いわんや。
あっという間に追いつかれ、殺される。
10mほど進んだところで振り返り、スノーガルムを迎え撃つ。
巨体に似合わぬ素早さが特徴的だった。
(踏ん張れよ、オーリ。こんなのどってことねえだろ……!)
ガルム。
オーク。
オークリーダー。
フォースベア。
ゴブリン。
オークシャーマン。
牙の生えたイノシシみたいなやつ。
スノーガルム。
どいつもこいつも同じだ。
剣で切られようが銃で撃たれようが、結果は死であるように。
俺にとってみれば、どいつも圧倒的格上であることに違いはない。
どんな相手だろうが全力で戦い、踏み越えるだけのことだ。
(だがこのスピードはマズいな)
真正面から魔獣と戦えるだけの力量がないことだけは変わらない。
相手の不意を突き、習性を理解し、どうにか薄氷の上を進んで来た。
初めて見る相手にどこまで通用するだろうか。
しなければ死ぬだけなのだが。
銃を向け二度、三度撃ち込む。
散弾のシャワーがスノーガルムを出迎えるが、直撃弾はない。
通常のガルムよりも防御力が高いらしく、散弾では十分な効果が上がらない。
あの灰色の毛が防具のような役目をするのだろうか。
四度撃った弾丸が空を切る。
残り一発、ガルムとの距離が徐々に縮まっていく。
最後の一発を外すわけには、決していかない。
「くらえ」
雪上を撃つ。
ガルムはせせら笑ったか。
爆発を見てそう出来るかは知らないが。
雪上には一発炸裂弾を埋め込んでおいたのだ。
それを撃って、爆発させた。
予想外の方向からやってきた攻撃に、スノーガルムが悲鳴を上げる。
体勢が崩れた。
それでも奴は闘志を萎えさせない。
大口を開け、こちらに跳びかかって来る。
俺は倒れ込み、踵に力を込めた。
刃が靴底から姿を現す。
噛み付きと見せかけた、ガス攻撃。
だが大口を開いてするそれは既に一度見ている。
だから対処できた、数十センチ上を白いガスが通過する。
大気が急速に冷え、眉毛にチリチリと霜が付くのが見えた。
思い切り蹴り上げる。
靴底の刃がスノーガルムの下腹部に突き刺さり、貫いた。
激しい悲鳴、スノーガルムの体がガクンと崩れる。
俺は反動で起き上がり、ガルムの体は慣性に従い前面に吹き飛んで行った。
膝立ちになりながら、俺はホルスターの拳銃を抜いた。
「くたばれ、化け物!」
倒れ込んだスノーガルムにダメ押しの銃弾を浴びせる。
10mm弾が分厚い皮膚と毛髪の防御を突き破り、破壊する。
ガルムの体が急速に劣化し、風化していった。
魔導核を回収するのも忘れて、俺は息を吐いた。
(どうだ、見ろよ。少しは戦えんじゃねえか)
俺だって強くなっている。
感慨に浸ろうとした時、恐ろしい咆哮が方々から上がった。
「オイオイ、冗談じゃねえっつうの」
スノーガルムの姿。
それも10匹以上の群れだ。
スノーガルムはガルムと同じ群れで狩りを行う集団なのだろう。
俺が倒したのはその1体、それも若手のガルムらしい。
なぜならリーダーと思しきガルムには、銀のタテガミがあったのだから。
「クソ、この数は……」
散弾を装填しながら考える、どうすればこいつらを倒せるのかと。
「ほうほう、こいつは珍しいのが出ましたね。雪変種ですか」
その時。
スノーガルムが突如、上空高く舞い上がった。
「次から次へと……オーリさんは無事なのでしょうか……!」
次に、血飛沫があがった。
誰が何をしているのか、よく分かる。
「フィズ! シオン!」
あいつらは生きていたのだ。
そしてどうにか、再会することが出来た……!




