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09-避難民たちのシェルター

 斜面を滑り降り――というか滑り落ち――俺は集落へと向かった。

 山際にあるということだが、しかしいまのところそれらしいものはない。

 もしかしたら、雪にすべて覆い隠されてしまったのかもしれない。

 足にまとわりつく新雪を掻き分けながら俺は進んだ。


 体は熱い、だが外は凍えるほど寒い。

 一歩踏み出すだけでも相当な体力を消耗してしまう。

 歩き方を考えなければ先に進むことさえも難しいだろう――


 そんなことを考えていると、鋭い発砲音が一度した。


「……!?」


 わずか数センチ横に弾丸が撃ち込まれた。

 俺は素早く両手を上げ、叫んだ。


「待て、待ってくれ! 俺は人間だ! 頼むから銃を下ろしてくれ!」


 射線から相手がどこにいるかはギリギリで分かる。

 雪で出来た小さな遮蔽の影から銃口が覗いていた。

 俺の声を聞き、フードを目深に被った人間が顔を出した。


「……ゆっくりこちらに来い。

 武器を手に取ったりはするな、分かっているだろうが」


 両手を上げたまま、俺はそちらに近付いて行った。

 近付いてみると、フードの人物が日焼けした婆さんだと分かった。

 しわがれた声、古木めいて黒く節くれた手、そして鋭い眼光。

 威圧感のある人だ。


 俺が婆さんの目の前に立った時、平原でも動きがあった。

 どこに隠れていたのか、何人もの人が顔を出したのだ。

 白いローブが彼らの体を雪とほとんど同化させていた。


「あの疫病神が近付いてきたから、どうしたかと思ったけど」

「疫病神? アルフォンソさんの、ことですか?」

「何もされていないね? そりゃよかった、じゃあついて来な」


 婆さんは後ろを指さした。

 よく見ると、岩肌の隙間に小さな裂け目があった。




 俺は婆さんたちに先導され、ゴツゴツした洞窟を歩いた。


「どうしてこんなところで生活を……」

「元々は倉庫兼、緊急時のシェルターだったんだ。

 まさか使うことになるとは思ってもみなかったけどね。

 ガルム程度ならあたしらでも何とか対処出来ていたんだ」


 それっきり婆さんは口をつぐんだ。

 拒んでいるのか、それとも詳しい話は先でする、という意思表示か。

 さわりの部分を話してくれたので、後者だと信じたかった。


 しばらく歩くとドーム状の広場に辿り着いた。

 天井にも地表にも刺々した鍾乳石が生えており、恐ろしい。

 広場にはシートがいくつも敷かれており、女性たちがめいめい過ごしている。

 そこに男の姿は一つとしてなかった。


「気が付いたかい、ここに女しかいないってことに」

「ええ。でも、どうしたんですか? まさか、前の襲撃で……」

「あの村を見てきたのかい。ああ、全員殺されるか浚われるかしてしまったよ」


 さらわれた。

 単に殺されるだけではなく、浚われた。

 ならば、相手はガルムのような魔獣ではない。

 知性ある厄介な敵である可能性が高い。


 婆さんはみんなに所定の場所に戻るよう指示を出した。

 どうやらこの婆さんが、シェルターのトップらしい。

 それから俺にはついてくるように指示を出した。

 大人しく後ろについて行くと、シェルターの最奥に辿り着いた。


「ここはあたしの部屋だ。まあ、区切りなんてあってないようなものだが」


 全身をすっぽりと覆うローブを脱ぎ、壁に掛けた。

 動物の皮で作られたジャケットにふっくらとしたズボン。

 このあたりの民族衣装をその下に着けている。


「アンタ、旅人だろう? こんな時に来ちまうなんて、運がないね」

「何度も言われてることですから」


 旅立とうとすればオークと相対し、町に辿り着けばオークの襲撃に遭う。

 一度くらいは安らかに一日を過ごしたいが、それもかなわない。

 どうやら俺が行きつく先、厄介事に巻き込まれる運命らしい。

 どうにも申し訳なさすら感じる。


「いったい何があったんですか?

 俺は、廃村を見てきたんですけど……」

「29から上がったところだね?

 あれがあたしたちの村だったんだよ。

 ほんの一月前まで、あたしたちは平和に過ごせていたんだけどね……」


 ここ最近の魔獣活性化が、ここにも影響を及ぼしているらしい。


「あたしたちの村に、二人の女が現れたんだ」

「女? メスじゃなくて?」

「オークのメスじゃない、人間の女だ。

 あいつらは多分、魔獣じゃなかったんだろう」


 俺は混乱した。

 村が滅んだ話をするのではなかったのだろうか?


 だが聞いているうちに、その疑問は氷解していった。

 村を滅ぼしたのは、人間だったというのだ。


「二人女がいた。仮に長髪と短髪にしておこう。

 短髪の女が腕を振るうと、感じたこともない寒風が村に吹きすさんだ。

 あらゆるものを吹き飛ばし、あらゆるものを雪の下に封じ込める風が。

 誰にも手を出すことなんて出来なかった」

「腕を振るうと風を操る……そんな、魔法みたいな力が……」


 子供の頃読んだおとぎ話のようだ。

 子供ながらに子供だましだと鼻で笑ったが。


「長髪の女はアルフォンソに手をかざした。

 あいつの体は重い、ただ一人風に吹き飛ばされなかった。

 だが女が命じるまま、アルフォンソは村人を殺し、村を破壊した……!」

「そんな、あの人が……」


 俺を助けてくれた彼が、どうしてそんなことをするのだろう?

 仮にそうだとしたら、どうして彼は俺を助けてくれたのだろう?

 次から次へと疑問が鎌首をもたげる。


「いまの異常な気象もあいつらのせいだろう。

 ここまで深く雪が降り積もることなんて、ここではなかった。

 誰もここから逃がさない気なんじゃあないだろうかねえ」

「最悪だ。ここはただ通り抜けるつもりだったのに……」


 それどころか外部に助けを呼ぶことさえも出来ないではないか。

 俺たちに生き残る目があるとすれば、その魔女を倒すことだけ。

 だがそんな力が実在するのでは……


 いや、希望を失ってはならない。

 これまでも――幸運の助けも多かったが――諦めないで勝利を掴んだ。

 今度だってきっと、諦めなければ活路を見出すことは出来るだろう。


「あの、お婆さん。聞きたいことがあるんです。女の子のことなんだけど――」


 俺はフィズとシオンの行方を尋ねようとした。


 その時、洞窟の入り口あたりから恐ろしい獣の咆哮が聞こえた。

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