05-オークとの戦い
行軍するエルフたちからはやや距離を取って続く。
手に持つライフルの重みがいままでより強く感じられた。
背負った荷物が鉛めいて俺の体を苛む。
緊張が生み出した幻覚だ。
俺にも、俺が背負った物にも、何も変化はない。
「緊張しているんですか、オーリ? あの時よりはマシだと思うんですけどね」
「人の命がかかってるんだ。どっちが重くてどっちが軽いとか、ないだろ」
「それもそうですね。でも気負いすぎない方がいいですよ」
話していると、エルフたちの足音が一斉に止まった。
俺も樹の影に隠れ、様子を伺う。エルフ集団の眼前には武装オーク軍団。
ニヤニヤと顔を歪ませ、エルフたちを嘲る。
「白長の民よ。自慢の絹肌が見る影もないな。まるで私たちではないか」
「然り。此度のことは我らの不徳の成すところ……ゆえにお前たちを切る」
エルフたちは武器を構えた。オークたちも戦闘態勢を取る。
俺たちはそれを藪の中からスコープ越しに観察した。
やはり彼らを取り囲むようにしてオークが隠れている。
戻ってくることまで織り込み済み、それにしても拙い隠れ方だ。
呼吸を整え、瞬間息を止める。
エルフとオークが同時に動き出す、横合いからオークが飛びかかろうとする。
その一体の脳天を狙い、トリガーを引く。
吐き出された7.62mm弾は、俺が狙っていたところよりやや上に当たった。
それでもオークの小さな脳を破壊することは出来たようで、そいつは倒れた。
奇襲担当のオークは浮足立ち、襲撃者の姿を探した。
俺は姿勢を低くして藪の中を駆ける。
「気付かれればやられます。
一撃一撃、位置を変えるのがいいですね」
「弾の軌道はだいたい分かった。
どうやら、少しばかり下を狙った方がいいみたいだな」
「この距離ならそうですね。
風の影響やコリオリの力もあるから一概には言えませんが」
何だかよく分からないが、慢心するなと言っているのだろうか。
確かに、先の一撃はラッキーヒットの可能性だってないわけじゃない。
一撃一撃修正していくしかない。
隠れるのに適した藪を見つけ、そこに身を潜める。
藪越しに銃口を向け、スコープを覗く。
戦場の中央ではオークとエルフたちが組み合っている。
奇襲が失敗したとはいえさすがはオークで、互角の戦いを演じている。
エルフたちが手負いばかりだというのもその原因だろうが。
誰を狙うべきか、ターゲットを探した。
そうしたら、手近な場所に圧されているエルフがいるのを見た。
左腕が使い物にならなくなっているのか、右手だけで剣を持っている。
それではオークの膂力に対抗できるわけがない。
力づくで押し倒され、とどめを刺されそうになっている。
素早くトリガーを引いた。
先ほどの反省を元に撃ったはずだが、しかし発射前に横風が吹いた。
そのせいで弾道が逸れ、弾丸はオークの下顎を破壊するにとどまった。
もっとも、そのせいで力が弱まり、エルフに殺されたのだが。
「なるほど、これが風の力か……」
「ライフル弾はより遠くに飛ばせるよう設計されていますが、その分小さい。
風の影響を強く受けるのです。そこを読み切らなければ当たりません」
比較的近距離だからどうにかなっているが、これ以上に距離が開けばターゲットに当てることすら出来なくなるだろう。遠隔狙撃には近距離での戦闘とはまた違った発想が必要になるらしい。俺は藪の中を駆けた。
「クソ、森の中だ! 森にクソ野郎がいやがるぞ!」
その段になると、さすがにどこから撃たれているのか相手も理解したようだ。いくらかのオークが森の中に押し入って来る。丁寧に狙ってもいられなくなる。
ライフルを戻し、サブマシンガンを構える。
まだこちらの位置は把握されていない、隠れ続ける。
藪を掻き分け進んで来たオークたちの数は、3体。
(あの時以来だな。
まともな武器もなかったし、真正面での戦いだった。
だが今回は違う、今回のアドバンテージは俺にある)
ベルトから炸裂弾を外し、タイミングを伺う。
オークたちが俺に背を向け、かつ密集したタイミングを。
その一瞬を見計らい、投げ込む。
至近距離で炸裂。周囲に破片が撒き散らされる。
高速で射出された散弾は、しかしオークの命を奪うほどの威力を持たない。
分厚い脂肪と筋肉の層が攻撃を効率的に受け止めてしまうのだ。
だが目や鼻、口といった柔らかい部分はその限りではない。
「オギャアアアアア!」
オークたちが聞くに堪えない絶叫を上げた。
顔面を押さえている、眼球に破片を喰らったのは何人いる?
いずれにしろ、あいつらは痛みで判断力が鈍っている。
殺るならいまだ。
影から飛び出し、サブマシンガンのトリガーを引く。
3発撃つごとに指を外し弾道を修正、容赦なく弾丸を浴びせる。
狙うのは首の筋肉に守られた頸椎、すべての動きを司る場所。
あるいは脳、ようするに頭に攻撃を集中させるのだ。
「このッ、クソ野郎がァッ!」
1体の頸椎を砕いた段階で、2人が振り返った。
冷静に観察する、片方は両目を潰されている。
まだ目が見える方に弾丸を集中させ、頭部を破壊。
残った一体は銃声がした方に向けて駆け出すが、既に俺はそこにはいない。
弾切れになったサブマシンガンを放し、散弾銃を取り上げる。
突進してきたオークの頭にスラッグを撃ち込み、砕いた。
「やるようになりましたね、オーリ」
「デキる師匠のおかげさ。表は……」
「オーリが掻き乱してくれたおかげで、だいぶやり易くなったようです」
見ると、既に生きているオークはいなくなっていた。
「ふぅ……場合によっては挟撃も考えていたけど、その必要はなかったな」
「もっとも、エルフたちも無傷ではないのです。また2人死にました」
手傷を負った状態でオークの部隊と戦ったのだから、当然と言えば当然だ。
死を恐れず戦い、そして死ぬ。彼らの人生とはいったい何なのだろうか?
神様というのも残酷な運命を与えてくれたものだ。
苦しんで死ぬことを運命づけられているとは。
「行きましょう、オーリ」
「ああ、そうだな」
そして彼らの力がなければ、俺もここまで来ることが出来なかった。
ままならないものだ、何もかも……




