05-脇役の戦い
翌日、エルフたちは行軍を開始した。彼らの足を止めるためだろうか、ゴブリンやオークたちが襲い掛かって来たが、止めることは出来なかった。傷だらけになりながら、何度も足を止められながら、エルフたちは町へと歩みを進めた。
そして、夜。
唯一手傷を負っていない俺はエルフの長、ダンさんとともに偵察に出た。
フェルデンの町を臨む高台、そこから見える光景は――
「あのお嬢ちゃんの言った通りになったな。危機じゃ」
フェルデンを多数の化け物が囲んでいる。
空には巨大な翼を備えた鳥のような魔獣さえいる。
町には火が放たれ、城塞が破壊され、そして多くの人が死んでいる。
いまのところは上手く防いでいるようだが、ここから先はどうか。
「このままじゃ、落ちるのも時間の問題じゃ。行かねば」
「待ってください、無暗に突撃してもこのままじゃ……」
「剣ば持て走る。ワシらはそれしか知らん。考え事は他の奴がやりゃええ」
ダンさんは剣を掲げ、切っ先を睨んだ。
「ワシはそのやり方しか知らん。
ほんの少しでも仲間の負担を減らせれば、よか」
どこか、その表情は苦し気だった。
彼自身、そのやり方が内心では間違っていると思っているのではないか?
しかし、エルフ族の長としてそんなことを言うわけにはいかない。
仲間に不安を与えてしまうから、それとも誇りゆえか。
「なら、その考える役目を俺たちにやらせてもらえませんか?」
「なに?」
「アンタに考えられないなら俺が考える。
このまま突っ込んだら、アンタたちは今度こそ死んじまう。
アンタたちはそれでいいのかもしれないけど……
俺は、そんなの嫌だよ」
エルフは訝し気に顔を歪めた。
このまま切り捨てられてしまいそうだ。
「アンタたちは生きている限り戦うんだろう」
「左様」
「だったら長生きする義務がある。
より長く生きて、より多くの魔獣を倒す、そういう義務がある。
だから考えさせてくれ。アンタたちを長生きさせる方法を」
「なるほど、いい啖呵を切りましたね。で、どうするんですか?」
「それがわかりゃ苦労しねえよ。どうすりゃいいんだろうな?」
「素晴らしく計画的な男なのです、オーリは」
鼻で笑われた。
「仕方ねえだろ、ああでも言わねえとあの人たち納得しそうになかったんだ」
「死にたいなら死なせてあげればいいでしょう。本望ですよ、エルフも」
「でも、あの町を守るためにはエルフの人たちの力が必要だろう?」
彼らの突破力は凄まじいし、一人でも味方が多い方がいいに決まっている。
「彼らの誇りと町の平和、両方を満足させる方法はあるでしょうかね?」
「とにかく突撃戦法を改めさせた方がいいんじゃないか?
毒の沼にあいつらを誘導した以上、こっちに来るのも織り込み済みだろ。
だったら、相手も対策を練っている」
「ふむ、合理的な判断です。あえてそれを利用してやるとすれば……」
まずは敵の目を引きつけなければなるまい。
戻って来たと大々的に宣伝してやるのだ。
エルフの戦士がどれだけ残っているか相手は分からない。
それを利用すれば……
作戦を考え、エルフたちに伝える。
誰に見つけてもらうのが一番いいだろうか?
そう考えて、鳥型の魔獣に見つけてもらうのがいいと思った。
あいつらは空から地上を俯瞰している。
木立の影に隠れた人間を見つけることは難しいだろう。
「まず一射。空の連中に向けて撃つ。正面から突撃するのは……」
手傷を負ったものたち、総勢18名。
当てる必要はない、発見してほしいだけなのだから。
一射した後、速やかに彼らは町に向かって行く。
その間に無傷のものたちが二隊に分かれて森の中を進む。
隠密行動を基本とし、会敵しても戦闘は行わない。
やむを得ない状況を除いては。
「敵は手負いのエルフたちが誇りに掛けて突撃して来たと思う……はず。
そこに敵の兵力を集中させてくるかもしれない。
そこを挟撃することが出来れば、せめて半分でも」
「『思う』『はず』『かも知れない』。憶測ばっかりですね」
「そうだよなあ、こんなの作戦とは言えないよな……」
我ながらガバガバだ。
最初の一撃に引っかかってくれるかも分からない。
「ま、物資も人材も潤沢じゃない状況で立てられる策なんて知れています。
相手の状況も分からない以上、そこら辺は想像で補うしかない。
どっちに転んだって地獄ですよ」
「なんだよ、それ。慰めてくれてるのか?」
「失敗してもあなたのせいじゃないってだけです」
やっぱり気遣ってくれてるじゃないか。
「ま……やれる限りやって、それからだな」
「ええ、それからです。
最後まで諦めず、奴らに一矢報いてやろうじゃないですか」
負傷したエルフたちが前線に立つ。
大小さまざまな傷を負い、中には目を失ったものさえもいる。
光を感じることも出来ないのに、彼はどうして戦えるのだろう?
シオンは、やはり剣に手をかけることもしなかった。
どうしようもないんだろうな。
「よぉし、行くぞお前ら!
クソッタレの魔獣どもに、我らの誇りをみせてやれ!」
エルフたちは街道の真ん中に立ち、小銃を空に向けた。俺も続く。
スコープ越しに見える広い空は、これまでと違って見えた。
耳をつんざく銃の咆哮が闇に響いた。
俺も撃ったが、しかし魔獣には当たらなかった。
スコープの真ん中に捉えて撃っても、当たらない。
これはコツを掴まなければどうしようもないぞ。
そんなことを考えている間に、エルフたちが猿叫を上げて走り出した。
二隊に分かれた隠密部隊は、音もなく森の中に消えて行った。
俺はおっかなびっくりに続いて行く。
彼らほど見事に隠れることは出来ないが、気付かれないようにしなければ。
「さて、行きましょうかオーリ」
「ああ、この町を必ず取り戻す。やれる限りやってやるさ……!」
エルフたちが主役、俺は脇役。
だが主役を助けるのだって、俺の立派な仕事だ。




