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04-エルフの戦士

 西側の入り口にはエルフの一団がいた。

 重武装の集団、何をしているのだろうか。


「あいつらもしかして、水源を調べるために集まってるのか?」

「でしょうね。だとしたら彼らは、帝国に雇われている……」


 何となく、顔を出すのがはばかられた。

 だから俺たちは物陰から様子を伺っていた……

 のだが、その気配を察知した後続のエルフがすごい勢いで振り返った。


「曲者ァッ!」


 そして猿叫を上げ、懐からナイフを取り出して投げた。

 弧を描きながら回転する刃を、俺は必死で避けた。

 刃は飛びずさる俺の後ろ髪を掠め、レンガ造りの壁に突き刺さった。

 何という膂力、ナイフでこれか。


「ふざけんな! 殺すつもりか手前!」

「申し訳ござらん。間諜の類かと」


 間諜でもあの軌道だと頭を潰していたはずだ。

 スパイを生かして捕まえずにいていいのだろうか?

 それとも情報など彼らにとっては些事なのだろうか?


「ヌッ、あんたらはさっきの方々か。なしてこんなところに?」


 先頭に立っていたのはあの老人だ。

 傍らにはシオンの姿もある。


「ワシらは水ば汚した奴らを切りに行く。危険じゃ、安全なところに――」

「水源を汚染しているのは蛙種の魔獣です。

 かなり大型ですね、あの規模の水源を丸ごと汚染するのですから。

 でも、その血液は浄化のために必要です」


 老人の言葉にフィズが被せた。

 彼は訝しむように鼻根を寄せた。


「あの魔獣が何か、あんたらには分かっているとでもいうのか?」

「ええ、分かっているのです。オーリ先生(・・)なら一目瞭然なのです」


 いきなり何を言い出す、こいつ。と思ったら尻をつねられた。

 合わせろとでも言うのだろうか。

 しかし先生と言われてどんな顔をすればいいのか分からない。


「ただ殺すのではダメです。

 あいつの身から溢れ出る毒が残りますからね。

 私たちがいればあなたたちは十全に任務を達することが出来るのです」


 爺さんは少し考え、


「……ついて来たいなら勝手について来たらええ。ワシらの邪魔はするな」


 そう言って部下に指示を出し、行軍を開始した。

 エルフの軍勢はまったく隊列を乱すことなく進んで行く。

 俺たちはその最後尾についた。


「ホントに敵の種類をあれだけで特定できるのか?」

「こればっかりは経験と知識によるのです。あなたにも出来ますよ、きっと」


 それまで生き残れれば……いや、生き残るのだ。絶対に。


「にしても、こんなに集まってるのか」


 エルフの軍勢は総勢60名ほど。

 タルタロスは狭い路地や通路が多く、大部隊での進行は難しいはず。

 だから小回りの利く勇者たちが、少数でタルタロスの攻略に乗り出しているのだ。


「エルフたちは普段小集団を形成して放浪の旅をしているのです。

 年に何回か、こうやって集まって戦果を報告し合うのです」

「ふうん、今日はちょうどその日だったんだな」


 しばらく歩いているとエルフたちが行軍を止めた。

 小高い丘に差し掛かった頃だ。


「先にゴブリンばおる。隊伍を組んどるぞ」

「野良じゃなか。武器もある、防具も着けとる。オークの手勢ばい」

「近くにオークばおるか。なら今回はあやつらの姦計っちゅうことじゃな」


 ワイワイと言い合い、エルフたちはおもむろに自分たちの剣を抜いた。


 そして、耳をつんざく叫び声を上げながら丘の向こうに突っ込んで行った。


「オイオイオイオイ!

 なんだよあれ、どうなってんだよフィズ!」

「エルフ名物、絶叫突撃です。

 武器を構えて突っ込んで、目につく敵をとりあえず切りまくる奥義。

 あれを喰らって生きていられる奴はあんまりいないのです」


 果たしてそれを技と言っていいのだろうか。

 俺たちは丘に登り、戦闘を見学した。

 叫び声を聞いてビビったゴブリン――体長70cmくらいの、醜悪な顔つきの子鬼――は、武器を掲げて突撃してくるエルフたちに二度ビビった。


 一度ならともかく、二度目は致命的だった。

 エルフたちは天高く掲げた剣を一直線に振り下ろした。ゴブリンの頭目掛けて。

 体重と加速を乗せた剣があっさりとゴブリンを両断する。

 逃げ出す敵を容赦なく切り捨て、ほんの数分で20はいた群れを滅ぼし尽くした。


「……ところであれ、相手がビビらなかったらどうするんだ?」

「真正面から斬り合うのです。双方に被害を出しながらエルフが勝ちます」

「いろいろガバガバ過ぎるだろ、その戦法」


 いや、あれで成果が上がっているんだから正しいのか?

 あのエルフたちを見ていると何だかよく分からなくなる。


「まあ、あの戦い方は生体強化を行ったエルフだからこそ出来ることです。

 あなたが仮にエルフの真似をしたのならば……」

「殴り返されて死ぬだけだわなあ。分かってるよ、そんなことは」


 俺にとって正しいことと、相手にとって正しいことが同じだとは限らない。

 生まれ持った素質、習慣、その他諸々が組み合わさって正しさは出来上がる。


「……でもまあ、あいつらのやっていることは……」

「シオンの件はあなたが思うようにすればいいんじゃないですか?」


 突き放すような口調だったが、否定しないのがありがたかった。


「ありがとよ、フィズ。俺が俺に出来ることを続ける……それだけだ」

「何なら話をしてみるといいのです。

 あなたが自分の中でグルグルモヤモヤしているよりはずっと健全ですよ。

 話をするならまず、相手のことを理解してから……ね」


 そういうフィズの横顔は、どこか寂しげだった。


(……同じような経験があるのかな、フィズにも)


 エルフたちは楽しそうにゴブリンの胸を裂き、彼らが身の内に蓄えた魔導核を回収する。シオンはそれにも加わらず、ただ自分の剣を抱いて遠巻きに見ていた。そんなしおんの様子を、あの老人はこれまた寂しそうな表情で見るのだ。


(どいつもこいつも、胸に一物抱えたままだなあ)


 胸にあるものを吐き出せば、楽になるかもしれない。

 解決の糸口が掴めるかもしれない。


 それでも、人は自分の心を曝け出すことが出来ない。

 それもまた、古くから培ってきた因習や習慣。

 彼らにとっての「正しさ」だ。


 エルフの軍勢はゴブリンやオーク、あるいはたまに出て来るガルムなどの魔獣を蹴散らし、進軍を続けて行った。そして水源の麓にある平原で、最後の休息をとることにした。

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